次の日の昼、湊音はタバコを吸いながら昨日の自分とは違ってご機嫌な表情をしていた。
昨晩のレストランは思いの外アットホームで、オーナーも気前よく料理も最高だった。さらに、スマホで撮影OKだったので、料理の写真を見返している。そして、互いに撮った料理との写真も。照れながらもピースしている自分、そして撮り慣れているのか、ちゃんとポーズを決めて表情もきまっている李仁。
『かっこいいなぁ……李仁さん』
口を抑えながらも、ニヤニヤが溢れ出てしまう。行きも帰りも彼の外車に乗せてもらい、話も聞いてもらい、家に帰った数分後には「今日は楽しかった」とメールが来た。そして昼にはもう一つメールが届き、そこには李仁が撮った写真が添付されていた。
『こういうふうにデート後のフォローをするからモテるんだろうなぁ。僕もこれくらいしないと』
湊音は反省しつつ、送られた写真を見る。レストラン内でふとした瞬間に撮られた湊音の表情。少し横向きになっている自分。それが、覚えのない自分の表情だった。そして、その写真に添えられていた言葉。
「この写真、お気に入り️」
その一文で湊音は足をバタバタさせ、顔を抑えた。
「なにやってる、湊音先生」
大島が現れ、湊音はまた恥ずかしくなる。
「いや、その、なんでもないです」
「なわけないだろ。彼女、明里さんとデートしたんだろ、昨晩。それで昨日の夜、ベッドでハッスルして楽しかったわ、うふふーなメール来たんだろ?」
大島は何も知らない。湊音は明里の名前が出ただけで涙が出そうになった。
「ああああー、どうしたどうした」
「大島さん、もうその名前出さないでください……あばずれ女の名前をぉおおお」
湊音は事情を説明し、大島は慰めてくれた。
「まあ、しょうがないだろ。お前がちゃんと告白してればよかったんだよ。あんな痴女」
「……大島先生?」
湊音は大島をギロッと見た。
「まさかですけど、大島さん」
「え、なんだ……」
「まさか明里さんと」
「!!!」
大島は目を泳がせながら答えた。
「うん、一回やった」
「はぁあああああ?」
「ごめん、黙ってた……」
湊音はさらに落ち込んだ。大島が背中を叩く。
『明里さん……なんてことだっ! て、李仁さんはまさかやってないよね?』
昨晩、美味しいご飯も相まって、いろいろと深い話もした。湊音の元妻との出会いや馴れ初め、性癖。そして李仁の嗜好。彼はこの時にバイセクシャルであることを告白した。バイセクシャルといえば男女両方を指すが、李仁はどちらかというと男性の方が好きだと言った。
その時、湊音は根掘り葉掘り聞いたが、その中で女性とのセックスがどのような感覚なのかを聞いたところ、李仁は「スポーツのようなもの」と答えた。湊音は不安になるが、これ以上は聞けなかった。
「すまんな、でもまあ付き合う前にわかったからいいだろ。元気出せよ」
「李仁さんにもそう言われたので……」
「え、昨日李仁さんと一緒にいたのか?」
湊音は昨日の写真を大島に見せた。
「まじか。デートじゃん、お前のこの表情も嬉しそうだし」
「ち、ちがうよ。キャンセルできなかったから誘っただけで」
「俺を呼んでよ。そうか、俺よりかはイケメンのほうがいいよなぁーうむ」
湊音は顔を真っ赤にした。と同時に、大島を誘ってもよかったのか、誘って欲しい人が自分にもいたのかという少し謎な安堵感が湧いてきた。