「おまたせー」
湊音は本屋の横にあるカフェで待っていた。着替えた李仁の私服はおしゃれで、ピアスも前より少し増えていた。
『相変わらずいい匂いするなぁ……てか、バーテンダーだけじゃ食っていけないのかな?』
「僕も早くきすぎちゃって……ごめん」
「いいよ、大丈夫。まずは下でご飯食べて、次は美容院行こうか。一時半に予約してあるの」
背が高く、派手な格好をしている李仁。とても目を引く。
モールの地下にある喫茶店で昼ごはんを食べることになった。昔ながらの喫茶店で喫煙可、男性の一人客が多い。
湊音はオムライススパ、李仁はカレーライスを頼んだ。
注文後、李仁がタバコを吸い始めた。
細いタバコにおしゃれなジッポーで火をつける。吸い方もタバコの持ち方も美しく、湊音は見惚れる。
湊音はカバンからタバコを取り出し、安物のライターで火をつけようとするがつかない。
「火、貸してあげる」
おしゃれなジッポーで火をつけてくれた李仁の仕草がカッコよく、湊音はドキっとしてしまう。
「可愛い顔してグレてる、なんてね」
「可愛くないです」
「補導されない? 外で吸ってると」
「うん、よくある。中学生に間違われて、どこ中の何年だとか言われてさぁって……無いよ、そんなこと」
「上手い、ノリツッコミ」
湊音は李仁にからかわれて恥ずかしかった。でも確かに、童顔で小柄な湊音は教師であるにも関わらず生徒と勘違いされ、厄介な目にあったことがある。
「今日は美容院に行って、服屋さん、スーツ屋さんも行くからね。明日のデートのためにかっこよくなろうね」
何を話せばいいのか分からず、湊音はタバコを吸い続ける。李仁はスマホをいじっている。
「ねぇ、絵本あげる人いるの?」
「え、あ……その……」
「私が選んであげる。何歳の子?」
湊音は頭をかきながらモゾモゾする。李仁は湊音がバツイチだということは知っているが、子供がいることは知らない。
「まだ一歳になってない男の子なんだけど」
「ほぉ、知り合いの子供?」
「う、うん……小さくて可愛い」
湊音はほんの数ヶ月の時の息子しか見ていない。思い出すと胸が苦しくなる。その様子を李仁は察した。
「……赤ちゃんは無条件に可愛いわよ。自分の子ならなおさら」
「……だよね、可愛い」
少し沈黙が流れるが、その後、二人の注文した品が届いた。湊音はスパゲティを食べながらタバコを消して水を飲む。
「前の奥さんとの間に子供いたの?」
湊音はスパゲティを吹き出し、慌てて横に来た李仁が汚れた服をおしぼりで拭いてくれた。むせた背中を李仁がさすってくれる。
「ごめん、変なこと聞いちゃった? ……このまま横に座っていい?」
さっきまで目の前にいたのに、横に座る李仁。湊音は気が気でない。
「一応認知した子供がいる。離婚直前にわかって……」
「あらそうなの。まぁ、色々あるわよね」
ニッコリ笑う李仁。その表情に、湊音は何故か素直に話せてしまった。不思議と、彼に話すことに抵抗がなかった。
「お誕生日に絵本を送るといいかもね。いいのを選んであげるわ」
「ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
二人は食後にコーヒーとタバコを嗜んだ。特に大した話はなかったが、李仁が本屋の方が本業だと聞いて、湊音は驚いた。