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第8話 喫茶店で


「おまたせー」

湊音は本屋の横にあるカフェで待っていた。着替えた李仁の私服はおしゃれで、ピアスも前より少し増えていた。

『相変わらずいい匂いするなぁ……てか、バーテンダーだけじゃ食っていけないのかな?』


「僕も早くきすぎちゃって……ごめん」

「いいよ、大丈夫。まずは下でご飯食べて、次は美容院行こうか。一時半に予約してあるの」

背が高く、派手な格好をしている李仁。とても目を引く。

モールの地下にある喫茶店で昼ごはんを食べることになった。昔ながらの喫茶店で喫煙可、男性の一人客が多い。


湊音はオムライススパ、李仁はカレーライスを頼んだ。

注文後、李仁がタバコを吸い始めた。


細いタバコにおしゃれなジッポーで火をつける。吸い方もタバコの持ち方も美しく、湊音は見惚れる。

湊音はカバンからタバコを取り出し、安物のライターで火をつけようとするがつかない。


「火、貸してあげる」

おしゃれなジッポーで火をつけてくれた李仁の仕草がカッコよく、湊音はドキっとしてしまう。


「可愛い顔してグレてる、なんてね」

「可愛くないです」

「補導されない? 外で吸ってると」

「うん、よくある。中学生に間違われて、どこ中の何年だとか言われてさぁって……無いよ、そんなこと」

「上手い、ノリツッコミ」

湊音は李仁にからかわれて恥ずかしかった。でも確かに、童顔で小柄な湊音は教師であるにも関わらず生徒と勘違いされ、厄介な目にあったことがある。


「今日は美容院に行って、服屋さん、スーツ屋さんも行くからね。明日のデートのためにかっこよくなろうね」

何を話せばいいのか分からず、湊音はタバコを吸い続ける。李仁はスマホをいじっている。


「ねぇ、絵本あげる人いるの?」

「え、あ……その……」

「私が選んであげる。何歳の子?」

湊音は頭をかきながらモゾモゾする。李仁は湊音がバツイチだということは知っているが、子供がいることは知らない。


「まだ一歳になってない男の子なんだけど」

「ほぉ、知り合いの子供?」

「う、うん……小さくて可愛い」

湊音はほんの数ヶ月の時の息子しか見ていない。思い出すと胸が苦しくなる。その様子を李仁は察した。


「……赤ちゃんは無条件に可愛いわよ。自分の子ならなおさら」

「……だよね、可愛い」

少し沈黙が流れるが、その後、二人の注文した品が届いた。湊音はスパゲティを食べながらタバコを消して水を飲む。


「前の奥さんとの間に子供いたの?」

湊音はスパゲティを吹き出し、慌てて横に来た李仁が汚れた服をおしぼりで拭いてくれた。むせた背中を李仁がさすってくれる。


「ごめん、変なこと聞いちゃった? ……このまま横に座っていい?」

さっきまで目の前にいたのに、横に座る李仁。湊音は気が気でない。


「一応認知した子供がいる。離婚直前にわかって……」

「あらそうなの。まぁ、色々あるわよね」

ニッコリ笑う李仁。その表情に、湊音は何故か素直に話せてしまった。不思議と、彼に話すことに抵抗がなかった。


「お誕生日に絵本を送るといいかもね。いいのを選んであげるわ」

「ありがとう」

「いいえ、どういたしまして」


二人は食後にコーヒーとタバコを嗜んだ。特に大した話はなかったが、李仁が本屋の方が本業だと聞いて、湊音は驚いた。



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