店の照明も相まってか、湊音は彼を美しく感じた。前回会った時よりもピアスは少なめで、バーテンダーの装いがよく似合っている。
「何にする? 1杯目は奢るわ」
李仁は、会った時と同じおねえ言葉で話しながら、メニューを二人に見せる。
「じゃあ、生」
『大島さん、ここはBARだっつーの』
大島の言い方が雰囲気に合わないが、どうやらBARに慣れていない様子が見え見えだ。それでも李仁は笑顔で「生、かしこまりました」と答える。
「湊音さんも?」
「うん、それで」
「生、二つね。ジョッキじゃないけどいいかしら?」
「はい……」
注がれたのはシャンパングラスのようなもの。大島は少し驚いた顔をした。
湊音もビールを受け取り、李仁の手がとても綺麗で、思わず見惚れてしまう。その手で注がれるビールは、ジョッキで飲むより上品に見え、なんだか美味しそうに感じる。
「今日は来てくれてありがとう」
「いただきます」
テーブルには色とりどりのチーズが綺麗に切り揃えてあり、おつまみのように食べながら、湊音は李仁に話しかけられた。
「ねぇ、こないだの婚活はどうだった?」
李仁が話を切り出すと、大島が嬉しそうに口を挟む。
「おう、彼女できたぞ。李仁さんがうまくリードしてくれたおかげかな」
「あら、あの女性と。お似合いねぇ。また今度うちの店にも来て」
大島は嬉しそうに話し続けるが、湊音は浮かない顔をしている。
「あら、湊音さんはどうしたの? 帰りに小柄な女性と楽しそうに帰っていったようだけど」
『なにっ、見られてた?!』
その言葉を聞かれ、湊音は恥ずかしさからビールを飲み干す。
大島は軽く湊音の肩を叩いて続けた。
「そのあとラブホでやりまくったらしいぜ。若い子は違うねぇー。でもまだ付き合ってないらしくてさ。明後日、俺が渡した水族館のチケットで告白しろって言ってるんだ。な?」
『大島さん、ベラベラ喋るなよ……李仁さんはニコニコ聞いてくれるからいいけどさ』
湊音は少し動揺していた。
「へぇ、付き合ってもいないのにそんなに深い関係になるのか……意外ね」
李仁がニヤリと笑う。湊音はその言葉に少し驚き、心の中で元妻とのことを思い出す。
『意外って言われてもさ……でも元妻との恋愛もこんな感じだったか……』
元妻との恋愛は、まず童貞を喪失し、そこから恋人に進展して結婚に至った。相手からのアプローチが多く、年上だったこともあり、ずっとリードされていた。湊音はその過程を振り返り、今の自分がこのまま明里と付き合い、結婚に至るのかと考えると、頭が痛くなった。ビールのせいかもしれないが…。
「こいつ、奥手に見えるだろ? たしかに奥手だし陰気臭いけどさ、勢いがすごいんだよ」
大島が言う。湊音は、オシャレにも無頓着である。それに比べて、大島は髪型をツーブロックにしてスーツもブランド物をきっちり着こなしている。
「ねぇ、李仁さん。この男をカッコよくしてくれないか?」
『えっ?』
湊音は突然の提案に驚き、動揺を隠せない。
「いいわねぇ。明日どう?」
李仁は首を傾げ、湊音をじっと見つめる。
『明日ぁー?』
「明後日、明里とのデートの前にちょっと整えてやろうよ」
大島は大笑いしている。
『勝手に決めんなよ!』
「じゃあ、メアド交換ね」
「あ、はい……」
湊音はまた押しに弱い自分を感じながら、李仁の微笑みに答えてしまう。そして、顔を少し赤くしてビールを飲み干した。