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第6話 BAR

 店の照明も相まってか、湊音は彼を美しく感じた。前回会った時よりもピアスは少なめで、バーテンダーの装いがよく似合っている。


「何にする? 1杯目は奢るわ」

 李仁は、会った時と同じおねえ言葉で話しながら、メニューを二人に見せる。

「じゃあ、生」

『大島さん、ここはBARだっつーの』

 大島の言い方が雰囲気に合わないが、どうやらBARに慣れていない様子が見え見えだ。それでも李仁は笑顔で「生、かしこまりました」と答える。

「湊音さんも?」

「うん、それで」

「生、二つね。ジョッキじゃないけどいいかしら?」

「はい……」

 注がれたのはシャンパングラスのようなもの。大島は少し驚いた顔をした。

 湊音もビールを受け取り、李仁の手がとても綺麗で、思わず見惚れてしまう。その手で注がれるビールは、ジョッキで飲むより上品に見え、なんだか美味しそうに感じる。

「今日は来てくれてありがとう」

「いただきます」

 テーブルには色とりどりのチーズが綺麗に切り揃えてあり、おつまみのように食べながら、湊音は李仁に話しかけられた。

「ねぇ、こないだの婚活はどうだった?」

 李仁が話を切り出すと、大島が嬉しそうに口を挟む。

「おう、彼女できたぞ。李仁さんがうまくリードしてくれたおかげかな」

「あら、あの女性と。お似合いねぇ。また今度うちの店にも来て」

 大島は嬉しそうに話し続けるが、湊音は浮かない顔をしている。

「あら、湊音さんはどうしたの? 帰りに小柄な女性と楽しそうに帰っていったようだけど」

『なにっ、見られてた?!』

 その言葉を聞かれ、湊音は恥ずかしさからビールを飲み干す。

 大島は軽く湊音の肩を叩いて続けた。

「そのあとラブホでやりまくったらしいぜ。若い子は違うねぇー。でもまだ付き合ってないらしくてさ。明後日、俺が渡した水族館のチケットで告白しろって言ってるんだ。な?」

『大島さん、ベラベラ喋るなよ……李仁さんはニコニコ聞いてくれるからいいけどさ』

 湊音は少し動揺していた。

「へぇ、付き合ってもいないのにそんなに深い関係になるのか……意外ね」

 李仁がニヤリと笑う。湊音はその言葉に少し驚き、心の中で元妻とのことを思い出す。

『意外って言われてもさ……でも元妻との恋愛もこんな感じだったか……』

 元妻との恋愛は、まず童貞を喪失し、そこから恋人に進展して結婚に至った。相手からのアプローチが多く、年上だったこともあり、ずっとリードされていた。湊音はその過程を振り返り、今の自分がこのまま明里と付き合い、結婚に至るのかと考えると、頭が痛くなった。ビールのせいかもしれないが…。

「こいつ、奥手に見えるだろ? たしかに奥手だし陰気臭いけどさ、勢いがすごいんだよ」

 大島が言う。湊音は、オシャレにも無頓着である。それに比べて、大島は髪型をツーブロックにしてスーツもブランド物をきっちり着こなしている。

「ねぇ、李仁さん。この男をカッコよくしてくれないか?」

『えっ?』

 湊音は突然の提案に驚き、動揺を隠せない。

「いいわねぇ。明日どう?」

 李仁は首を傾げ、湊音をじっと見つめる。

『明日ぁー?』

「明後日、明里とのデートの前にちょっと整えてやろうよ」

 大島は大笑いしている。

『勝手に決めんなよ!』

「じゃあ、メアド交換ね」

「あ、はい……」

 湊音はまた押しに弱い自分を感じながら、李仁の微笑みに答えてしまう。そして、顔を少し赤くしてビールを飲み干した。



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