『はぁ、かったるい……早く帰りたい』
婚活パーティーが始まって、二度目の席替えが終わり、現在はデザートタイム。
湊音はトイレに行った後、飲み放題のドリンクコーナーでオレンジジュースを注ぎながら、深いため息をついた。席には戻りたくない。さっきまで座っていた席も、他の席もどこも賑やかだ。
たった二時間でこんなに仲良くなるものなのか、と湊音は周囲を見渡して嘆息した。大島はお酒が入って上機嫌で盛り上がっている。隣の室田も大声で笑い合い、すっかり打ち解けた様子だ。
湊音がここまで憂鬱なのには理由があった。
彼が「バツイチ」だからだ。
一対一の短いトークタイムで紹介カードを渡した際、ほぼ全ての相手が真っ先に「離婚歴あり」の欄に目を通した。
そして「ああ、そうなんですか」と興味なさそうに返された。
「何年結婚してたんですか?」「お子さんはいますか?」と詰問され、子供はいないと答えると、妙に納得したような態度を取られることもあった。
『僕に生殖能力がないとでも思ったのか……』
胸の内で苦々しく呟く湊音。世間では結婚してすぐ子供を持つのが当たり前なのだろう。だが、それがすべてではない。
実際、湊音に子供ができないわけではない。むしろ結婚当初、彼と元妻は「子供はもう少し落ち着いてから」と互いに話し合い、避妊を続けていた。若くして結婚した二人はまず仕事に打ち込むことを選んだのだ。
そのおかげで仕事は順調だったが、その生活にはひずみが生じていた。
6歳年上の元妻は、仕事と家事を両立しつつも、徐々に子供を欲しがるようになった。しかし、湊音は教師という激務に追われて妻を拒み続けた。気づけば、寝室は別々。家庭は崩れかけていた。
そんなある日、元妻は湊音を酔わせた。普段は酒に弱い湊音を飲み潰させ、その一夜をきっかけに妊娠したというのだ。
『そこまでして子供が欲しかったのか……』
湊音は呆然としながらも、自分の子供であることを受け入れるしかなかった。
子供には何の罪もない。しかし、それで夫婦仲が修復することはなかった。元妻はすでに夫婦関係の再構築を望んでいなかった。
先日、元妻から出産の報告を受けた湊音は、初めてその赤ん坊と対面した。
小さな男の子だった。湊音の指を握る小さな手の力強さに、胸が締めつけられる思いがした。だが、彼はその瞬間悟った。もう二度と会うべきではない、と。元妻も、子供の父親としての関わり以上を望んでいなかったのだ。
今、湊音は毎月養育費を送っている。元妻は最初それを拒否したが、湊音の強い申し出で受け取ることになった。
しかし、それを今回の婚活パーティーのプロフィールカードに記載することなど到底できなかった。ただの付き添いとして来たはずが、自分の過去を説明させられるだけで苦痛だった。
『僕は、もう一度恋なんてできるのか?』
そんなことを考えながら、湊音は好物のオレンジジュースをカップに注ぐ。だが、その瞬間、ふと視線の先に……。