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家内安全、夫夫円満
麻木香豆
BL現代BL
2024年12月04日
公開日
45,732文字
連載中
パートナー協定で結ばれた二人。
同い年の湊音と李仁。

周りからいろいろ言われたり、過去のことだったり、二人の今後だったり……課題は山積みだが二人は自分たちの世界を生きていく。

二人が一緒になるまでを描きます

第1話 独り身


 これはもう7、8年ほど前のこと。とある高校の職員室の喫煙席で、一人の教師がタバコを吸っていた。

 前髪を整髪料で固めてオールバックにし、太い縁のメガネをかけたその男は、気怠そうにタバコの煙を吐き出しながら、日頃の不満も一緒に吐き出しているようだった。


 32歳、槻山湊音。高校教師で、国語を担当している。年齢の割には老けて見える風貌だった。

 そこに上司の大島がやってきた。彼もタバコを取り出し、愛用のジッポーで火をつける。


「槻山先生、溜まってるなぁ」

「そうですかね」

「離婚して独身生活、満喫してんだろ?」

「全然」

「実家戻ったんだろ? 楽だろうに」

「まぁ、何もしなくてもいいのは助かりますけど」

「贅沢だな」

「結婚しててもしてなくても、変わりないですよ」

「そんな考えだから奥さんに愛想尽かされるんだろ」


 湊音はつい先日、離婚したばかりだった。学生結婚から10年目を前に別れたのだ。子供はいなかった。というより、できなかった。


「そんな槻山先生にお願いがある」

「嫌です。大島先生のお願い事は、ろくなことがない」

「まぁな」


 大島は笑いながらタバコの煙を吐き出す。彼は湊音の恩師でもあり、いまだに親しげに接してくる。タバコは早くも二本目に突入していた。


「まず一つ、剣道部の副顧問にならないか」

「……断ります」

「独身になって身軽になったんだからどうだ? 性欲をスポーツで発散!」

「……」

 湊音は鼻で笑った。大島から剣道部への勧誘を受けたのはこれが初めてではない。在学中から何百回と言われ続けてきたが、今でも乗り気にはなれなかった。


「その二」

「その一ですら同意してないんですが……」


 大島は湊音に一枚のチラシを渡した。


「婚活パーティー、行こう。いや、ついてきてくれ」


 そう言って懇願する大島もまた独身だった。40歳を過ぎてなお結婚には縁がない。


「美味しいご飯が食べられて、お酒も飲み放題。そのついでに女性と出会えるなんて最高じゃないか。な、なぁ!」

「う、うーん……」


 湊音は眉をしかめる。この誘いがなければ、彼の人生は今と違っていたのだろうか――そんな思いが一瞬、頭をよぎった。



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