「あーあ。実が彼氏だったらいいのに」
そんな一言が、とんでもないことを招いてしまった。
「ねえー! さつきも行こうよ~!!」
私の腕に絡みついているのは、幼馴染の
「なに、どこ行きたいの?」
これ! とスマホの画面を私の眼前に突き出す。
SNSに上げられている、テーマパークのクリスマスイベントの動画だった。
「そっか、もうクリスマスか……」
いこっか、と言いかけて、はっとする。
「いや、里佳子は
半年くらい前だろうか、最近里佳子の近くにいつも篠本くんがいるな、と思っていたら、交際報告を受けた。
幼馴染のさつきには言っとこうと思って、と言われたが、大切な幼馴染をぽっと出の男に取られたようでなんだかちょっと寂しかったのは内緒だ。
でも、篠本くんは優しいし、良い奴だ。いや、何様だ私とは思うが、篠本くんなら里佳子を任せてやってもいい。
本当に何様とは思うが。
「
唐突に出てきた
「なんで実」
「うちらずっと一緒だったしさ~、いくない?」
「うーん……」
私が渋るのには理由があった。
里佳子が見せてきた動画には、カップル向けのフォトスポットや、カップル割の情報が満載だったのだ。
なんというか、ただの幼馴染の私と実が行くのは違う。
なんか絶対へんな空気になる。ご勘弁願いたい。
「りか」
いっしょが良い~、と駄々をこねる里佳子の背後から声をかけたのは篠本くんだ。
「
そう私困ってるんです。篠本くんナイスフォローですね。
「クリスマスパレードみんなで見にいこって言ってたの!」
「12月25日のやつ?」
特別パレードはその日限定。花火が上がって一番豪華な演出が見られる日。派手好きな里佳子が行きたがるのもわかる。
「うん、あたしと、悠と、さつきと、実! 四人で」
篠本くんは、うーん? と首を傾げる。
「……俺はいいけど、そのメンバーなら俺邪魔じゃない? 幼馴染三人のほうが……」
篠本くんのお気遣いに、里佳子は眉を八の字にする。
「えー。高校入ってからはこの面子でも遊んでるし、邪魔じゃないよ」
ねえ、里佳子、と聞かれて頷く。
「うん、それはもちろん」
幼馴染三人の中に一人高校からの友人が入ると不思議な雰囲気になるグループもあるようだったけど、私たちは下校の方向が一緒だったこともあって、四人で帰るうちすぐに仲良くなった。篠本くんがいいやつだからというのが大きいと思う。
彼は顔もいいし成績もいいし、性格も良い。
完全無欠とはこのことか。里佳子を任せましたよ。
何様だ私。
「なん、お前らまだいたの」
私の後ろから声が降ってくる。実だ。先生に頼まれて課題を職員室に運びに行って、戻ってきたところだという。
「まだいたんじゃなくて、待ってたの! 一緒に帰ろ」
里佳子がにぱ、と笑った。いつものルーティン。
隣のクラスの実と篠本くんが、私たちのクラスを見に来る。
二人が遅い日は里佳子と二人で帰るし、時間が合う時は一緒に帰る。
それが、日常。
いつもの通学路をいつもみたいに歩いて、十字路で里佳子と篠本くんは左に、私と実はまっすぐ行く。
その直前、里佳子が「ちゃーんと誘うんだよーっ」なんていうから、私は実にその話を切り出すことになった。
「なに?」
「あー、里佳子がね、クリスマスのパレードをみんなで見に行きたいねって誘ってくれたんだ」
「へー」
いいんじゃん? 行ってくれば? と実は言う。「みんなで」が誰なのかわかっていないと思う。
「あ、の、それでね、私は篠本くんと二人で行きなよって言ったんだけど」
「おう」
まあ正論だわな、と実は笑う。だよね? と食い気味で私も笑った。
「で、ね……里佳子は私とも行きたいって言ってくれてさ、だから実も一緒に、四人でどうかなって」
実は頬を掻いて、少し考えるそぶりをした。それから、
「んー、悪い、25日は俺パス」
「そっか」
「その週、塾入ってるし。年内最後の追い込みで」
高校三年生。大学受験を控えている実のその言葉はド正論だった。
私と里佳子は推薦でもう大学が決まっている。
篠本君はスポーツ推薦で決まったと里佳子から聞いた。
進路が決まっていないのは実だけだ。一般受験で、このあいだの模試の結果は彼曰く「まあまあ」だそうで……。
そりゃあクリスマスに浮かれている場合ではない。
「さつきは推薦決まってるし、ゆっくり遊びに行って来たらいいじゃん?」
「う、でも二人の邪魔するみたいでちょっとさ」
「里佳子がいいつってんなら良いんじゃねえの?」
いやまずいって、と私は否定する。
いくら本人が良いと言っていても、リア充のイベントに一人もんが……カップルに! ほいほいついていくのは絶対に違う。
普通に二人を応援して、私は家で過ごせばいい。違いない。
けれど、実に断られた瞬間に、少し。
ほんの少しだけ胸が痛んだ。
……胸が痛んだ? なんで?
私たちは、もはや互いを男女として見ていない。
見ていないはずなんだが。
なのに、パス、と言われたときにどうして胸が痛んだんだろう。
玄関の扉を開けて、お母さんに帰宅を伝え、二階の自分の部屋に上がる。
着替えを済ませて、ベッドにぱふん、と腰掛けて答えのない感情に頭を抱えた。
違う。絶対実はそういうんじゃない。
はずなのに。
混乱してきた。
パレード? 思ってたよりパレードを見たかったのかな、私。
暗くなった窓の外。ふと見れば、雪が降ってきていた。
そのままベッドに仰向けになった私の唇からこぼれたのは