目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第58話 売りに出してみた

 朝は鍛錬して昼は栄養ドリンクを作り、夜は勉強。ときおりフリーザーを稼働させて実験しては、翌朝にはメリンダさんに叩き起こされる日々が過ぎていく。


 来年からはシエラ達にも仕事をさせないといけない。まだ七歳だが、世間一般では仕事の見習いをさせ始める時期なのだ。


 本人たちに希望を聞いたところ、一人は親の家業。つまり薬師をやりたいとのこと。


 メリンダさんの娘は店員がやりたいと言っていて、シエラは私と一緒に錬金術がやりたいという。ならばシエラは私といっしょにヒーリア師匠のところに弟子入りだ。


 というわけで来年に向けて店を開業することにした。そのための手続きを領政府で行う。店を増築する申請を出すのだ。店は大きくなくても良いだろう。売り出す商品は栄養ドリンクとフリーズドライされた保存食だからだ。


 冒険者向けの商売と言っていい。


 本命のスライムを使った生理用品やオムツはまだ私の技術が足りなくて作れていない。


 まぁ時間の問題だけどね。


 スライムのサンプルは養殖場から届けてもらえるので、それで実験を繰り返しているためだ。


 店の増築の申請と同時にメリンダさんの娘を商人ギルドに店員として登録申請も出しておく。


 そういった申請を出した後は、実際に作ってもらう工程だ。建物の完成には二十日ほど掛かるという。夏前にはできるだろう。


 保存食の特許も取るべく動き出している。現在は特許を申請中で夏頃には下りる予定になっている。


 色々と忙しいが順調と言って良いだろう。



 工房の前ではトンテンカントンテンカンと木を叩く音がする。毎日だ。これから二十日ほど続く音で、それに合わせて私も商品づくりを手掛けていく。栄養ドリンクにフリーズドライしたシチューをだ。ときおり食べて大丈夫か実食もする。ドキドキの瞬間だ。とりあえず保存食として最初に作ったバージョンで三〇日は大丈夫なのは分かった。これから四〇日。五〇日と試していくことになる。


 そうそう。傷用のポーションもフリーズドライにして効用があるのか試してみた。傷用ポーションを作るのはお隣さんだ。


 その結果は問題なしだった。


 傷用ポーションの現在の保存可能期間はわずか一〇日なので、それ以上の保存が可能になるのなら、遠隔地にポーションを届けることが可能なり、かなりの需要が見込める商品となるだろう。


 それに液体のポーションは嵩張るからね。粉状にして持ち運びできるならそれに越したことはないのだ。


 フリーズドライ。かなりの可能性を秘めた商品となる。


 さて、そんなこんなで夏前には店も完成となり、実験の類も順調となっている。ただ問題もある。フリーズドライした商品の告知の仕方だ。


 ここの世界の人達にとっては未知の商品となる。


 つまりお湯や水で元に戻すと言う方法を教えることもワンセットとなるのだ。購入者に、そのつど教えてもいいのだが、それだと効率が悪い。そこで私は一計を案じることにした。


 まずは冒険者ギルドと提携することにしたのだ。


 案の定。保存食の売り出しに冒険者ギルドは食いついた。現在の保存食は樹の実と麦と塩を混ぜて固めただけのクッキーみたいで美味しくないからね。それが劇的に改善されるとなれば飛びつかないはずがないのだ。


 傷用ポーションはまだ実験中なので出せないとしても、保存食の方はとりあえず三十日は保証しますと言う名目で炊き出しを行ったのだ。お湯や水で食品が戻る工程を見せて売りに出す。最初は半信半疑だった冒険者たちだったが、その有用性を認めてからは早かった。口コミでまたたく間に広がっていったのだった。


 そしてフリーズドライについて特許も下り、秋も深まってきた頃には食品以外にも傷用ポーションのフリーズドライ商品も売りに出した。


 通常の栄養ドリンク。フリーズドライされた保存食に、これまたフリーズドライされた傷用ポーションの三つだ。これらは連日、次々に売れていった。


 シエラにも作り方を教えて、フリーザーを一日中フル稼働させたのだ。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?