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第56話 フリーザー

 日常が過ぎていく。シエラには友達ができた。それも二人も。どちらも女の子で時々家事の手伝いをしたり勉強をしたりしながら過ごしているようだ。ちなみに私は毎朝鍛錬をして昼間は錬金術で栄養ドリンクの作製。夜は勉強とそれなりに忙しい毎日を送っている。


 夜の勉強は主に凍結乾燥についてだ。フリーズドライな。私が今やっているのはマイナス三〇度以下のフリーザーを作ること。


 この世界……というかこの国では特許制度がある。認可は王が行っており、その下部組織に特許庁がある。特許庁からは毎年、夏に数冊の本が出され、その本には特許申請された道具類が並んでいる。


 そこには嬉しい誤算が多々あった。温度計も減圧器も真空ポンプも載っていたのだ。他にもフリーザーが二種類も載っており、氷の魔石が一個で動くマイナス五度のフリーザーの他にも三個でさらに強力になったフリーザーも載っていた。


 それは並列繋ぎと呼ばれる技法で魔石を並列に繋ぐだけで威力が増すという繋ぎ方だった。それでも温度はマイナス一九度前後でまだ足りない。そこで並列つなぎの魔石を増やしてみたのだ。結果は五個で目標値であるマイナス三〇度を下回った。残りの五個は予備で取っておく。


 私は地階をまるまる冷凍庫にする予定なので、そこに密閉空間を作るべくトンテンカントンテンカンと夜な夜な大きな冷凍庫を作っている。


 そんな感じで錬金釜による調合が必要のない、道具の外周だけを作製していくのだった。


 ちなみに特許は個人使用の範囲なら無許可無料で使用できる。本当は駄目だけどそこは黙認という形だ。ただしこれを売りに出したら犯罪で、重い刑罰が課されるので注意が必要だ。


 季節は春を終え、夏へと変わった。もうそろそろ錬金術ギルドに注文していた錬金釜が届くはずだ。私は栄養ドリンクを届けがてら受付嬢に尋ねる


「注文していた錬金釜は届いていますか?」


 すると受付嬢は少し調べてから「まだのようです」と答えた。


 そうかぁまだかぁ……残念。


 ちなみに錬金術ギルドにも冒険者ギルド同様に依頼が張り出されているので確認が日課になっている。今日も代わり映えのしない依頼内容。


 日常が淡々と過ぎていく。


 そうして更に二〇日ほどが過ぎ、夏がそろそろ終わろうかという頃にようやく錬金釜が届いた。


 受け取り書にサインとか支払いとかをして、私はさっそく設置する。私が今回購入した錬金釜は最小のもので抱えられる程度の大きさしかない。


 でも師匠いわく、このぐらいが扱いやすいらしい。ただし大量生産には向かず、小ロットでしか回せないと言う欠点があるのとのことだ。


 ちなみに師匠のところにあるのは中程度のものだ。それでも大きさ的にはかなり大きくて、四畳ほどあるのだから、大きな物はどの程度の品なのか想像がつかない。


 さて、フリーザーだ。氷の魔石を並列で繋ぐと言ったが、どう繋ぐのか。


 それには錬金符と神字が必要不可欠だ。現代地球で言えば錬金符は基盤で神字が回路と言う感じだ。錬金符に神字を書き込み、そこに魔石を嵌め込んだりして使う。


 私はさっそく師匠が作った図面を基盤に書き写していく。細かな神字。一つでもミスれば機能しなくなるので慎重に行う。それでもミスをすればその符は破棄をして最初から書き直しだ。この作業は本当に大変だ。


 こんな感じのことを土の魔石を使った減圧器にもやり、また風の魔石を使った真空ポンプにも施していく。この作業だけで十日を要した。外側だけは作ってあったのでこの日数だったが、この十日は本当にひたすら文字を書くだけの作業だった。


 生産職。大変です。

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