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第55話 家政婦さん

 さて、引っ越しが終わったのでご近所さんに挨拶回りをした。


 基本的に工房があるだけの場所なのだが、子連れで住んでいる家庭もあった。そこでは夫婦で薬師を営んでおり小さな子供がいたので、シエラの良き友人になればいいなと思う。


 ご近所回りの手土産の際にまた少々お金を使ってしまった。残る財産は大金貨一枚と小銭が少々。これらのうち大金貨一枚は錬金釜の購入費用に当てるつもりだ。錬金釜は取り寄せ品で届くまでに三ヶ月はかかるという。ちなみにこれらは錬金術師ギルドに依頼をだしての購入だ。


 もうね。生活費がヤバい。まじでやばい。なので春の大バザールに向けて栄養ドリンクを大量に作る予定ができた。作るのはヒーリア師匠の工房でだ。すでに師匠から許可は下りているので、栄養ドリンクを売り捌いて当座の生活費用を稼ごうと思っている。


 噛みつき角ウサギの毛皮で魔道具である安眠布団を作ろうかとも思ったが、毛皮を作るのに最低で十五日はかかる。それではバザールに間に合わないので今回は無しだ。


 他にも魔石屋に氷の魔石の仕入れもお願いしないといけない。


 資金に余裕ができたら、家政婦を雇って家事はお任せしようかとも思っている。この世界。家事は一日仕事だからな。そんなことに時間を割いていられないのだよ。


「さぁやることが沢山だぞぉ!」


 私はキビキビと動き始めるのだった。



「師匠。すみません。工房をお借りします!」

「うむ。まぁ頑張りなさい」


 というわけで十日間で出来る限りの栄養ドリンクを作っていく。一日無理をしない程度で十本が限界だ。手慣れてくればもう少し数が上がるはず。というわけで十日の間に栄養ドリンクBランク品が百本にAランク品が十本できたのだった。絶好調だ。


 春のバザールでは栄養ドリンクを補充しながら五日間フルで出た。その甲斐もあってかなりの生活費が稼げた。また錬金術の腕も上がり栄養ドリンク限定だがAランク品の作製も安定してできるようになった。これで錬金術ギルドに栄養ドリンクを卸せるようになる。栄養ドリンクは常時依頼が出てる品で人気商品だからな。そのクセに作る手間ひまを考えるとベテランは面倒くさがって作らないと言う感じで、新人にとっては有り難い稼ぎ用のアイテムなのだ。


 栄養ドリンクを売ったお金で魔石屋に氷の魔石を十個注文。その後に商業ギルドで家政婦の斡旋を頼む。年齢や職歴にこだわりがないので幅広くお願いする。すると候補がかなりの数になってしまった。少し考えてシエラの遊び相手も居たら良いなと思ったので、小さな子連れの寡婦とか居ないかと候補を絞ったところ一人がヒット。さっそく面接を行った。


「メリンダといいます。よろしくお願いします」


 見た感じ二十代後半ぐらいか。おっとりした感じの美人さんだ。少し世間話をしたところ、子どもの面倒を見ながら出来る仕事はないかと色々と探しているという。


「お子さんの年齢は?」

「六歳になりました。女の子です」

「へえ。ウチにも六歳の女の子がいるんですよ」

「え、その若さでお子さんが?」

「あはは。私の子じゃないです。理由があって引き取ったんです。シエラと仲良くなってくれると嬉しいんだけど……」

「それは私としても願ってもない話です」


 と言う感じだ。うん。メリンダさん自身にも問題がなさそうだしこれは決定かな?


 待遇面の話もする。


「給料は一日小銅貨一枚。食事は一日三食。皆の分……四人分を作ってもらいます」

「良いんですか?」


 私が初めて働いた熊さんの憩いの場での待遇と同じだ。ただし……


「年に二回。働きに応じてボーナス……えっとぉつまり賞与。特別手当も出します」

「なんですかそれは?」


 こっちの世界では馴染みのない制度だよな。


「夏と冬に給料とは別にお金を支払います。大銅貨一枚が最低ラインでね」

「良いんですか?」

「いいんです。後はお子さんが熱が出たとかあったら適宜、休んでください」

「でもお給料が……」

「その場合は有給休暇扱い……つまり休みでも給料を支払います。ただし休み過ぎだと判断したら注意しますからね。注意は三回まで。それ以降はクビを覚悟してください」

「分かりました。気をつけます」


 他に何か話すことはあったかな?


「何か質問はありますか?」

「娘はどうしたら良いですか?」

「基本的にシエラと気が合うようなら一緒に遊んでもらうとかでいいですよ? それかもし働くのを手伝いたいというなら給料を払ってもいいです。でも出来ればシエラと遊んで欲しいです。一緒に勉強とかでも良いですし」

「勉強! えっと読み書き計算とか教えていただけるのですか?」

「シエラが基本的なことは出来るのだけど、私が暇を見つけて教えてもいいですね」

「ぜひお願いします!」

「わかりました。まぁその辺は追々やっていきましょう」


 そんな感じで家政婦さんをひとり雇い入れることになったのだった。

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