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第54話 物件探し

 お金はある。っていってもボル師匠に払うお金には足らないけど。現在の所持金は大金貨で五枚分だ。もうひと稼ぎしないといけない。


 そのための先行投資として工房を借りることにした。いつまでも二人の師匠の工房で作業ってわけにもいかないのでね。そのために領政府へとやってきた。まぁ通称が役所なので役所でも良いんだけど。いちおう正式名称は領政府って言うのね。


 これは私の家が独自でやっていることだって聞いたことがある。なにせ脳筋の家系だからね。あまり政治には強くないのだとか。そこで政治に強い官僚を置いて民を管理させているのだそうだ。領主である父がしていることは軍事の掌握と代官の管理のみ。うん。実にシンプルだ。


 さて、工房の管理はこの領政府がやっている。技術者ってのは貴重で領の宝だから管理も領政府の仕事なのだ。人の流入や引き抜きとかも監視している。


 というわけで住む場所を決めるのでシエラも一緒に来たわけだけど、受付に居る女性が私を見て目を丸めた。私を知っているのか……面倒な。


「これはお嬢様」

「今はリサだから」

「そうでしたね。それで何か御用でしょうか?」

「工房を借りたくて」


 すると困った顔をした。


「うぅん。お借りになるのですか?」

「駄目?」

「……本来、技術者は領が保護すべき方々ですので永住ということになります」

「つまり買えと?」

「そうなります」

「借りるのは無理?」

「規則では、そもそも借りるという選択が存在しません」

「あらら。購入かぁ……高い?」

「大きさによりますが大金貨が二枚からですね」

「うぅん。大金貨四枚までで何か良い物件ない?」

「大金貨四枚ですか……」

「大丈夫かな?」

「それでしたら三軒ございます」

「おっ。三軒もあるんだ」

「どちらも工房区にある物件で、それぞれ大金貨が二枚、三枚、四枚の物件です」

「見せてもらって良い?」

「えぇ構いませんよ。案内の者を付けますので少々お待ちを」


 そう言われて待っていたら、若い男性がでてきた。


「それでは近い物件から案内しますね」


 内覧開始だ!


 まずは一軒目。大金貨二枚の工房。距離は街の中心地に近いが工房が小さいのが特徴とのことだ。見てみたが古い。さすが街が初期の頃からある建物なだけのことはある。土地も小さいが区画も狭くお隣さんまでの距離も近い。お隣さんは鍛冶屋だそうで、トンテンカントンテンカンと結構うるさい。


 とりあえず保留のまま二軒目に移動して内覧開始。二軒目は金貨四枚で広さもさることながら二階部分が住宅になっている。地階もあってそこは倉庫なのだそうだ。街の中心地からも近く、またお隣さんともそこそこ離れている。ここならボル師匠の工房にもヒーリア師匠の工房にも近い。これはほぼほぼ決定かな。まぁでもいちおう三件目も見せてもらった。街の中心地からは遠いがその代わりに街の外には出やすい。庭が広くて家庭菜園とかするには良いかも、と言う感じだ。私は即答する。


「二軒目でお願いします」


 ということで大金貨四枚の工房兼住居を手に入れた。


 引っ越しはあっという間だった。元々が宿暮らしで荷物が少ないからというのもあるが、この世界。家具は家に付いているのだ。家に付いている家具が気に入らなければ、自分で揃えてもいいのだが、面倒なのでそのまま使わせてもらうことにしたのだ。おいおい自分好みのものに変えていけばいい。ただしベッドだけは購入した。お陰でお金がほとんどない。

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