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第53話 帰ってきましたよ

 ジンとバッツと私たちは別々の道を歩むことになった。実に冒険者らしい連中だったな。私とシエラとケダマは領都を目指す。およそ十五日の旅は順調に進んだ。


 さすがに私たち三人だけで護衛の仕事を受けるという無謀はせず、実にのんびりとした旅路。花芽吹く季節なので街道のそこかしこでは花畑が目に嬉しい。魔物と出会うこともなく順調に旅程を消化。そして十五日後。無事に領都へと帰ってきた。


 まずは宿を決めて、その後に師匠たちに挨拶をして周らなきゃな。宿は相変わらずの熊さんの憩いの場だ。売春宿だが使い勝手がいいのでどうしても他に移るという選択にならない。シエラも六歳になったし、そろそろ情操教育に悪いんだけど……


「はぁ……」


 どこかに家を借りようかな?


 私が溜め息を吐くと、シエラが「どうしたの」と見上げてきた。


「なんでもないよ。行こ!」


 私は熊さんの憩いの場がある通りを歩いていると、男が声を掛けてきた。


「よぉよぉ姉ちゃん。幾らだ?」

「売りはやってないよ。他をあたって」

「いいじぇねぇか。ちょっと遊ぼうぜ?」


 男が私たちを通れないように先へ周り、通せんぼした。私はあまりにも鬱陶しい存在を睨む。


「うひょーこえー。いいねぇ。その強気な態度。その態度がいつまで続くか──」


 スパァン!


 男の顔を平手打ち。熊さんの憩いの場ではよくやったが、今回は少々強めだ。


「売りはやってないって言ってんでしょ!」


 すると男が立ち上がり「てめぇ!」とか言いながら拳を振りかぶって向かってきた。私はそれを避けて、またまたスパァンと平手打ち。


「あきらめなさい。他をあたるのいいわね?」


 地面に仰向けに横たわる男にそう忠告して私は、やはり早々に家を借りようと決意するのだった。そのためには安定した収入源があった方がいい。後は家政婦さんも要るな。自分で家事もとなると時間が盗られて厄介だ。


「何か商品を開発しなきゃなぁ」


 そだ。凍結乾燥フリーズドライ技術を使って保存食をつくろう。後々でスライムもフリーズドライにしなきゃだし、今のうちに研究を始めちゃおう!


 フリーズドライの原理はそんなに難しくない。水分のある物をマイナス三〇度ほどで急速に凍結、さらに減圧して真空状態にすれば良い。後は水の特性によって乾燥する。


 問題はマイナス三〇度まで冷やす技術。減圧する技術。真空状態にする技術。フリーズドライにした品を密封する袋の開発が必須だ。


 本来なら難しい、これらの技術を有する機械だが魔石で解決できるはずだ。冷凍は氷の魔石で。減圧は土の魔石。真空状態は風の魔石。


 氷の魔石が希少品だが領都の魔石屋に依頼を出せば手に入るだろう。袋の開発も必須だな。これが一番難しいかも知れないまである。


「袋の開発については考えておかないとな」


 とりあえず熊さんの憩いの場に行って落ち着いてから、工房のある家を探そうと思う。

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