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第50話 モルゼ博士

 モルゼ博士と会ったのは、王との謁見から一日後のことでスライム養殖の街で会った。ちなみにシエラはジンとバッツに見てもらっている。


「どうも、はじめましてモルゼです。モルゼースト・レブイラ。南の賢者ともスライム博士とも呼ばれています」

「リサです。家名はありません」

「ふむ。そうですか。ではリサさんとお呼びしますね」


 モルゼ博士はヒョロヒョロの体をした人物で、目の下には隈があり、また手には包帯がされていた。


「お怪我でもなさったんですか?」

「あぁ。これはブラックスライムの溶解液で火傷をしましてね」

「三等級ぐらいのポーションか聖属製の魔法で癒やさないのですか?」

「あぁ。これは勲章というか友情の証というか……今さっきケガをさせられてね。明日には治すよ」


 その後も少し雑談をしたが、悪い人には見えない。というか研究バカと言っていい存在かも知れないなという感想だ。私は本題を切り出す。


「スライムがお好きなんですね」

「そりゃあもう! あの蕩けるような不定形の姿を見ていると、快感が……っと、若い女性の前でする話じゃないな。失敬」

「いえ。問題ありません。で、ですね。協力をお願いしたくて来ました」

「ふむ。協力。内容によりますな」

「はい。実は新しいスライムを作る気はないかなと思いまして」


 すると今まで少々眠そうだった表情一変した。


「新しいスライム! 出来るのかね!」

「あっ、いえ。まだです。ただ作りたいなとは思っています」

「ほぉ」

「今の私にはまだ作れません。ですが、もし作れたら画期的な発明になるはずなんです!」

「ふむ。それはどんなスライムかね?」

「理論上は水属性のスライムと光属性のスライムの融合体になる予定です」

「ほぉ……水と光、ね」

「はい。その二種を掛け合わせて、二種類の特性を持つスライムを作り、かつ弱めます」

「弱める?」

「はい。現状のスライムだと溶解液が強すぎて危険なので」


 私は構想を全部ぶち撒けた。王という後ろ盾があるのだ。発想を盗むと言うマネはすまいと判断したからだ。


「ほぉほぉ。つまり人間の体液や排泄物だけを分解して吸収するスライムを作ろうという訳か。ふむ。だが大きな問題が二つあるぞ?」

「何でしょう?」

「欠点の一つは最初の段階。製品の段階のスライムだ。こちらはエネルギーを保持できないと言う欠点がある。人の手に渡る前に死滅するぞ?」

「それについては考えが。その……絶対に人に漏らさないでくださいね」

「あぁ。ここだけの話しにすると約束する。で、どうするね?」

「スライムを凍結乾燥させます」

「凍結乾燥? 凍結と乾燥? どうやってやるのかね? 凍結はそのもの凍らせるわけで、乾燥は乾かすんだよな? 凍らせたものを乾燥させる? 何かあべこべじゃないか?」

「大丈夫です。そこは任せていただいて。その課題はクリアできます。で、あと一つの問題は?」

「そうだな。光属性のスライムは希少すぎて我が養殖場には現在は一匹しか居ない」

「え、養殖できるんですよね?」

「養殖してようやく一匹できたんだ。これがどういう意味かわかるかね?」

「えっと、ものすごく難しい?」

「そういうことだ」


 ものすごく難しい。私が困っていると博士は言った。


「スライムの養殖の仕方だが、魔石を与えるんだ。細かく砕いた属性の魔石と土を混ぜ込んで環境を作り通常の餌……まぁ個々の研究所の場合は人の排泄物を与えている」


 突然に秘密を打ち明けられた。


「え、良いんですか……話しちゃって?」

「はっは。この程度は誰でも考えつくよ。ただ誰も思いついてもやらなかっただけで。なぜだか分かるかい?」

「えっと、それは費用対効果が悪かったから?」

「そういうことだね。スライムを育てることは容易だ。排泄物でも残飯でも与えておけばいいからね。ただ属性のあるスライムを作ろうと思うと大量の魔石が要るんだ。そこまでして属性にこだわる理由がなかったからね」

「じゃあ博士はどうして?」

「それは私の趣味だ」

「趣味……ですか」

「そうさ。王都の排泄物問題を解決する代わりに、好きな事をやらせてもらっている」

「なるほど」

「ただもし、君が水属性と光属性のスライムを役に立たせてくれるというのなら、僕の研究は更に価値あるものになるだろうね」

「はい!」

「で、最初の方の問題に戻る。魔石だ。光属性の魔石が大量に要るが……」

「光属性の魔石は希少ですね」

「そういうことだね」

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