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第49話 謁見と褒美

 大海嘯を乗り切った私たちは後始末に追われていた。主にゴブリンの死体から魔石を取り、燃やして埋める作業だ。ここでもシエラは大いに役に立った。燃やす方でも埋める方でもだ。


 それから数日はそんな感じで過ごしたが、調査に出ていた冒険者から続々と情報がもたらされて、その被害のほどが知らされた。ダンジョンはどうやら未発見だったものが暴走したようで、そして、この街にゴブリンが来る途中で村が三つと町を一つ襲って壊滅させていたらしい。


 現在は散り散りに逃げたゴブリンを追って冒険者の多くが出払っている。


 そろそろ領都に帰ろうかなって思っていたところにギルド長から呼び出しを受けた。


「何だろね?」


 私が不思議に思っているとジンが言った。


「ゴブリンキングを討ち取ったから特別報酬が貰えるとか?」

「あ~。まぁ金銭的にそろそろヤバイからそれは嬉しいかも」

「だなぁ」


 言われるがままにギルド長の下へ行ってみた。すると……


「王がお前たちに礼を言いたいそうだ。迎えの馬車が来てるから向かうように。以上だ」


 え……


「王様が、ですか!」


 ジンが驚きの声を上げた。ギルド長が頷く。


「あぁ。今回、防衛戦に参加した者たちのなかでもとりわけ功の大きかった者たちをってことだからな。ゴブリンキングとジェネラルを討ち取った者たちを向かわせることになった」


 思いがけずの王との謁見。これはチャンスだ。


「ありがとうございます!」


 これは嬉しい。褒美がお金とか渡されたら困るけど……大丈夫だろうか?


 分からんが、いずれにしてもチャンスなのは間違いない。私たちは一も二も無く頷き、王都行きの馬車に飛び乗ったのだった。


 それから三時間ほど掛けて王都に戻ってきた。そしてそのまま王の居る城へ。武器は預けて謁見室へと向かった。案内されるがままだ。


 私たちが謁見室で待っていると王が御入来なされた。私たちは目上の者に対する最上位の礼をする。私は貴族の女性としての礼をした後で面を伏せる。家出中とはいえ、いちおう伯爵家の子女。実家に失態を押し付けるわけにもいかないのでね。


 シエラだけは分かってないのだが、私が真似をしてというと素直に真似をして面を伏せた。


「よい。楽にして面をあげよ」


 言われても本当に楽にするわけには行かない。でも顔は上げる。


「ふむ。見知った顔が居るな」


 そこに横に控えていた宰相がボソボソと耳打ち。


「ほぉ。バイデン伯爵の娘とな。しかも家出中とは……」


 私は一度深々とお辞儀する。


「はっは。なるほど。さすがバイデン伯爵家ゆかりの者。腕っぷしが確かなようだ」


 私は三度目のお辞儀をする。


「よい。発言を許す」

「ありがとうございます」

「ふむ。して家出中とは?」

「はい。その……筋肉が嫌で家出してます」


 すると王が大声で笑った。


「かっかっか。筋肉が嫌とは。それはまた……ぶふっ、くっくっく。バイデン伯爵は苦労しておるようだな。娘の教育は大変だからな。かっかっか」


 むぅ。苦労してるのは私の方だよって言えたらいいのに。私は言いたいことを堪えてお辞儀する。すると私の不満を感じ取ったのか王が言った。


「くっくっく。その割には冒険者として身を立てておるようだが?」

「はい。その……いちおう魔道具士と錬金術士見習いもしています」

「ほぉ。それはまた……バイデン伯爵の縁の者が生産職とな?」

「はい。その……時代は筋肉ではなく頭脳かなって……」


 あっ、やべ。素が出ちった。しかし王は気がつくこと無く、また笑った。


「ぶぶっ。くっくっく。それなのにゴブリンキングの剣を叩き割ったのか?」


 私は口を尖らせる。


「成り行きです」

「くっくっく。成り行き。そうか……まぁいい。此度の件。良くぞやってくれた。ゴブリンキングとジェネラル討伐。大儀であった! 何か褒美をやろうと思うがお主ら、何が欲しい?」


 私は即答する。


「スライム博士こと南の賢者様との交渉の席を設けていただきたいです」

「ほぉ? モルゼの奴と会いたいとな? 何故じゃ?」

「はい。あの……私の商品開発にスライムが必要そうで、それで……」

「ほぉ! そうか。スライムが、な……ふむ。良いじゃろう。便宜を図ろう」

「ありがとうございます!」


 王がジンとバッツに視線を向けるとジンが言った。


「私は地位が欲しいです」

「ほぉ。地位か」

「はい」

「しかし地位を与えるにしては少々功績が小さいな。よくて騎士爵じゃ。一代限りの称号じゃが……それでも欲しいか?」

「はい」

「ふむ。なら騎士爵を名乗る事を許そう」

「ありがとうございます」


 次に王がバッツを見た。


「俺は……いえ私は……うぅん……」

「なんじゃ。欲しいものはないのか?」

「女が好きですが、それは自分で口説くから要らないし……うぅん」

「ならお金でどうじゃ? あって困るもんでもなかろう?」

「はぁ……お金、ですか?」

「女を口説くのにプレゼントが要るじゃろう?」

「……あ~。まぁ、そうですね。じゃあそれでお願いします」

「くっく。欲深いのか欲がないのかよく分からん奴じゃな」


 そして最後にシエラだ。


「何が欲しい?」


 王が聞く、しかしシエラは黙ったままだ。


「ん? 何かないか?」


 するとシエラは首を左右に振って、私の服の袖を掴んだ。


「ふむ。幼すぎて分からんか……よし。ならこうしよう。借りを一つじゃ。もしこれから先。お主が困ったことがあったら儂を尋ねてこい。儂に叶えられる望みなら叶えてやろう」


 わぁお!


 とんでもない褒美キタコレ。思わず「良いんですか? その……」そんな事を言ってという言葉は飲み込む。それはちょっと失礼すぎるからだ。だが王は言う。


「構わん。ふふ。その幼子が将来何を望むか楽しみよな」


 そう言って王が笑い、謁見は終了となったのだった。

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