何匹のゴブリンを棒でぶん殴っただろう。もう両手でも数え切れないほどのゴブリンを殴り飛ばしてる。それでも数が減ったようには見えない。
「何匹いんのよ!」
いつまで続く。いつまで棒を振り回せばいい!
バッツが叫ぶ。
「リサっち! いったん下がれ!」
「無理! 下がれる場所がない!」
「くそ!」
ゴブリン以外にもホブゴブリンもいる。ただもう一緒くたに棒でぶん殴る。少しゴブリンより大変な程度でしかない。とにかく棒でぶん殴る。ぶん殴る。ぶん殴る。
何匹狩っただろう。そこに男の声で「うわぁああああ!」という悲鳴が聞こえた。
「何!」
視線をそこに向けると、そこにはひときわ大きなゴブリンがいた。一八〇センチ位ありそうだ。そいつが二体も!
「なに、あれ……」
しかも二匹ともが大きな戦斧を持っている。
「何で武器なんて持ってるのよ!」
するとジンが言った。
「大海嘯はダンジョン産のゴブリン共だ。何を持っていても不思議じゃない!」
そうだった。ダンジョン産の魔物は野良の魔物とは違うんだった!
そのひときわ大きなゴブリンが、のっしのっしと城門の前へ。そして斧を振り下ろした。ガツンとガツンと勢いよく戦斧が振り下ろされて、その度に城門が揺れる。
「まさか……」
壊す気?
いくらなんでもそれは……
ジンが叫ぶ。
「この街の城門は通常のより薄いぞ! このままじゃ壊される!」
クソ!
私は駆け出す。それにジンとバッツが続く。中へ入られたら街の人々が。匿われているシエラに危険が及ぶ。
「あいつを止めなきゃ!」
「おう!」
そこに、城門に戦斧を叩きつける個体より、更に大きな二メートルぐらいのゴブリンが立ち塞がった。大きな剣を持っている。
「何なの! 次から次へと!」
バッツが答えた。
「城門のやつは多分ゴブリンジェネラルだ! で、目の前にいるのがキングってとこだろうさ!」
私は少しの逡巡。だがすぐに決断した。
「バッツとジンはジェネラルを倒して! 私はキングを抑える!」
するとバッツが減らず口をたたいた。
「おいおい。美味しいところを持って行く気か?」
「そうよ! つべこべ言ってないでお願い!」
私はゴブリンキングに向かってダッシュからの渾身の突きを放った。アダマンタイト製の棒だ。そう簡単には防げないはずだと目論んだのだが……
キングは持っていた大きな剣で軽々と弾いてしまった。
「つぁ!」
弾かれた際に手が痺れる。なんて膂力なの!
私がゴブリンキングと相対したことでジンとバッツが脇を走り抜けていくことに成功。後は二人がジェネラルを倒すまで時間を稼げばいいだろうと思っていた。
しかし……
ゴブリンキング相手にアダマンタイト製の棒を振り回して戦う。剣と棒が激しく打つかり合い、そして弾かれるたびに体力が削られていく。強い!
「くそぉ。筋肉の鍛え方が足りなかったか!」
後悔先に立たず。もっと鍛えておけばよかった。
ガッツンガッツンと剣と棒が何度も打つかり合うが段々と押し負けていくのを感じる。ゴブリンキングの剣筋には剣術と呼べるタイプのものはない。ただただ力で押し切るだけの剣だ。しかしそれでも脅威なぐらい力が強い。
「これは……無理かも」
何度か棒が弾き飛ばされ、その度に体勢を崩す。それでも渡り合えているのは単純にゴブリンが余裕をこいて私を嬲りものにして遊んでいるせいだ。心が……折れそうだ。
「クソ!」
諦めかけたその時。
「リサ姉ちゃー!」
声がする。シエラの声だ。私が視線を向けると何とシエラが、こっちに向かって低空で飛んでくるところだった。よたよたフラフラとしているが、それでも必死で制御しながら飛んでいる。そう言えば訓練で浮く練習をしてたっけ。
そのシエラを守るようにジンとバッツも駆けてきた。私はゴブリンキングから一旦距離を取る。
「どうして来たの! ケダマ! どうして許可したの!」
私が怒鳴るがシエラが泣きながら私にしがみついて叫んだ。
「一緒だもん! ずっと一緒だもん!」
私は驚く。そしてその言葉を聞いて負けられないなと思った。
「こんな所で死んでなんていられない……か!」
シエラを背にして再びゴブリンキングに立ち向かおうとした刹那。街の門が氷漬けになった。分厚いとても分厚い氷の壁が城門とそこで斧を振るっていたジェネラルごと凍り漬けになったのだ。
「な、に……が」
私がシエラに視線を向けると幼女は笑った。
「これでモンシュターしゃん。入れないよね!」
にひひと笑うシエラを「よくやった!」と褒める。
「ケダマ! シエラをお願い!」
「誰に言っている! 当然だバカモノ!」
「良し! さぁ、第二ラウンド開始と行きましょうか! ジン! バッツ!」
「はぁ……やれやれ。簡単には死なせてもらえないか」
「当たり前だ! 死ぬなら女の腹の上で、だろ?」
「阿呆。お前と一緒にするな」
私たちは全員でゴブリンキングに立ち向かう。失った力が再び戻ったように感じる。筋肉って鍛えている時は繊細だが、こういう状況ではアバウトなんだなと思った。
ゴブリンキングの大きな剣に私のアダマンタイト製の棒を再び叩きつける。先程まではゴブリンキングが優勢だったのに今は私が押せ押せだ。
「負けらんないのよ!」
私の後ろにはシエラがいるのだ。負けない。負けられない! ここは通さない!
力が溢れてくるようだ。ガツンガツンと武器と武器が打つかり合う。その度に火花が飛び散り、そして剣の欠片が辺りに舞い、私の肌を切り裂いていく。だが、もう少し。もう少しなのだ。
「おっらぁ!」
一振り一振り毎に私の棒の威力が増していく。そして……
渾身の一撃と言わんばかりに棒を振り抜いた刹那。ゴブリンキングが持つ大きな剣が砕け散った。
「しゃー! 武器破壊オッケー! ジン! バッツ!」
二人に畳み掛けるように指示を出す。するとジンが刀を滑らせゴブリンキングを肩から袈裟斬りにし、バッツの戦斧がゴブリンキングの頭をかち割ったのだった。
しかしゴブリンキングを倒しても、まだ大量のゴブリンが残っている。だが散り散りに逃げ惑うだけのゴブリンなんぞ消化試合だ。シエラが適当に氷漬けにして数を減らしているので私たちの周囲にはゴブリンが居ない。空白地帯みたいになっている。
「シエラぁ。人間を氷漬けにしちゃ駄目よ?」
「ん」
こうして私たちは大海嘯を乗り切ったのだった。