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第38話 年末

 バザールが滞り無く終わったので、四日目は客として掘り出し物を探して歩いた。人がごった返しているのでシエラを抱っこしながら。そうすると必然的にケダマも抱っこすることになる。まぁ私の筋肉なら問題のない重さだけどね。


 バザールは手作りの民芸品とかが売っていて見ている分には面白かった。買おうという気にはならないが。


 五日目もそんな感じだった。そりゃ私の作った魔道具や薬品が飛ぶように売れたわけだわと納得した。


 バザールが終わり、年末まで後もう数日という時間は鍛錬をして過ごした。


 私は筋肉と魔力を鍛え、シエラは精霊とのシンクロ率を上げる訓練を行った。


 その訓練方法とは宙に浮いている状態を維持するというものだ。これはシエラが亡くなったじぃじから習った訓練法らしい。ケダマがシエラに変わって説明をしてくれる。


「シエラの魔力と制御能力が上がったからな。その分、精霊……つまり俺とも繋がりやすくなった」

「今は何をやっているの?」

「精霊に伝えるイメージ力をアップする訓練だな。宙に浮き続けるといのは魔力の維持と制御に加えてイメージを固定すると言う作業を同時並行でやらないといけないからな」

「何だか難しそうだね」

「あぁ。難しいらしい。ポルオレルの爺さんが言ってたんだが空気イスをしながら瞑想して絵を描くようなものらしい」


 こっちの世界でもあるんだ。空気イス……


 って違う。そこじゃない。


「恐ろしく難しいことは分かった」

「そうか……」


 さて、私も頑張んなきゃ。シエラに負ける訳にはいかんのだよ。



 年越しは先に話した通り、ヒーリア師匠の工房で議論をして過ごした。モンスターがダンジョンから溢れ出す現象である大海嘯の話からダンジョンとは何かと言う議論を経て、魔物ってなんだ。というようなことを取り留めもなく大いに語り合った。結論こそ出ない議論だが、ああでもないこうでもないと話すのは楽しかった。師匠も楽しかったらしく「久しぶりに面白い時間を過ごせた。ありがとう」と言ってくれた。


 ちなみに精霊であるケダマが私たちの様子を見て「人間ってやつは変な生き物だな。自然に成り立っただけのことに、いちいち理由が必要だってんだからな」と感想を述べていた。


 自然に成り立つ。つまり摂理になれなかった存在は淘汰され、残ったものが摂理として残ったということだろうか?


 その上に私たちが存在して、自然を紐解こうとしている……


「ねぇケダマ?」

「あん?」

「私たちって何なのかな?」

「人間なんじゃねぇの?」

「そしてケダマは精霊、と……」

「シエラはエルフだな」

「何で存在するんだろうね?」

「生まれたからだろ?」

「そうなんだけど……そうじゃない、みたいな?」

「分からん。ほんっと人間って変な生き物だよな」


 ふふ。精霊ってシンプルだね。


 そんな十五歳の最後の夜だった。そして私は新年を迎えて十六歳になった。

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