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第36話 錬金術をしよう

 それから一日を師匠についてもらって、みっちり錬金術の基礎のモノ作りを習った。正確には薬品づくりだな。どちらかと言えば薬師の仕事だ。でも錬金術に通じるものがあるので習う。


 錬金術は物が持つ特性を上手く噛み合わせながら、物質を分解し再構築していく作業だ。物質を分解するのは錬金釜を使う。


 今回作ったのは等級外ポーション。これの本来の使い方は傷薬として使用されていた。その際に失った血液や体力を回復する効用があるのだが、その体力の部分だけに着目して生み出されたのが栄養ドリンクだ。


 使うのは水の魔石と三種の薬草だ。水の属性には『生命を育む』という特性がある。同様に薬草にも人体に有用な成分が含まれている。それで水の魔石を錬金釜で一度分解して、薬草と混ぜて飲めるように再構築したのが等級外ポーションだ。


 ホットドリンクも同様だ。水の魔石と体を温める三種の薬草と四種の香辛料を使う。後の工程は等級外ポーションと一緒だ。


 これらの作業。魔石を分解するのと各種の薬草や香辛料を分解するのに多少時間が掛かるが、そこさえクリアすれば後は楽なもんだ。


「ところで師匠?」

「なんじゃ?」

「この錬金釜ってなんですか? 魔石や物質を分解して再構築するとか凄すぎじゃないですかねぇ?」

「そうじゃな。錬金釜の作製方法は秘術と呼ばれ、とある一族の秘術となっている」

「ありとあらゆる物を分解するってことは……素粒子に作用しているってことですよね?」

「素粒子? 何じゃそれは?」

「え、知らない?」

「知らんのぉ。霊子なら知っておるが?」

「あら、そっちは……」


 ファンタジー物質じゃなかったかしら?


 ってここが魔法や魔物や精霊がいるファンタジー世界だったわ。


「うぅ~ん。となると……どうしたものか」


 しょうがない。いったん棚上げだ。とりあえず錬金釜が凄いことは分かった。ファンタジーな世界だけど分かんないことだらけだわ。まったく。


 とりあえず早朝は訓練。昼間は師匠の工房で二種のアイテム作り。夜はシエラと遊んだり勉強をしたりしてバザールまでの時間を過ごしたのだった。



 十四日はあっという間に過ぎた。冬の大バザールは寒さを凌ぐために簡易のブースが作られる。そして秋で得た収入で年末と年始を少しでも暖かく迎えるための最後の売買がおこなわれるのだ。個人が持つ要らないものを売り、要るものを買う。


 私はバザール会場の隅っこに布団一式と、枕を二つ。それから等級外ポーションを三十とホットドリンク十を並べる。


 そしてここで私の秘策が登場。


 現代地球の知識をお披露目だ!


 それはポップだ。広告ポップ。値段と一緒に宣伝文句も並べる。安眠毛皮布団一式には『これで眠れない夜もぐっすり。何処よりも安い新米魔道具士が作った闇属性の安眠毛皮布団。小金貨四枚!』等級外ポーションには『疲れが吹っ飛ぶ等級外ポーション。何処よりも安い新米錬金術師が作った栄養ドリンク。大銅貨五枚! 激安!』とかホットドリンクにも同様な感じだ。ただしホットドリンクの方が香辛料を使っている分、少々高くなっている。


 さぁ準備は整った。ちなみに広場にはところどころに魔道具で作られたヒーターのような物が置かれている。いずれはああいうのも作りたいものだ。


 広場はそこそこ温い。ここに人が入ってくれば熱気に変わるだろう。いちおう私自身も防寒服は着ているけどね。まぁ気休めだ。椅子に腰掛けてシエラと手遊びしながら客を待つ。バザーは今回は五日行われるという。私はそのうち最初の三日だけ場所を借りた。


「全部売れるといいけど」

「リサ姉たん……」

「ん? どうしたのシエラ?」

「だいじょぶ。全部売れるよ!」


 鼻息も荒くそう豪語するシエラに「そうだねぇ」と頷く。ちなみにケダマは私たちの足元でおネムだ。ってかな、寝てばかりだぞコイツ。ちょっとだけ背中をツンツンしてみるが尻尾をパタンパタンとして止めろと合図を送ってきた。起きることさえしない。


「存在感の薄い精霊だなぁ」


 するとシエラ。


「猫だもの」とよく分からない答えをよこした。


「ケダマってけっこう上位の精霊なんだよね?」

「シエラわかんない」

「そっかぁ。わかんないかぁ」


 まぁいっか。こうしてバザールは始まったのだった。

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