目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第35話 領都再び!

 ガタガタゴトゴトと馬車は進む。領都までな。途中で村に寄って売買をしたりしながらだったので四日の距離だったが六日かかった。


「ふぅ。久しぶりの領都だぁ」


 現在は降雪の季節で年末の月。冬なのでメインストリートでも人が少ない。とりあえず飛び入りで護衛に参加したので、その分の報酬をもらって商業ギルドへ向かう。商業ギルドは人でごった返していた。今いるほとんどの人がバザール関係の手続きだろう。


「おぉ。ここは人がいっぱいだぁ!」


 シエラに「はぐれたら大変だからね」と言って抱っこする。そして私は受付カウンターで錬金術師ギルドと魔道具士ギルドの会員証を見せて、バザールに出品するアイテムの記入をしていく。


「うけたまわりました。現在、空いている場所はこちらになっていますが、何処になさいますか?」


 私は中途半端な真ん中の辺りを選ぶぐらいならと、一番奥の隅の方を選んだ。掘り出し物っぽくなるかなぁとか考えながら。


「かしこまりました。それではこちらが出店の番号札ですので無くさないようにして下さい」


 よっしゃ。手続き終わり。バザールまでの期間にはまだ一四日ばかり時間があるのでヒーリア師匠の所で栄養ドリンクとホットドリンクの作製を学びたいが、その前に宿の確保だ。早いほうが良いだろう。


 というわけで『熊さんの憩いの場』にやってきた。空いてるといいけど……


「すみませぇん」


 宿で奥の方に声を掛けると女将がでてきた。


「はいよぉ……って、なんだいリサか」

「あはは。えっとぉ部屋は空いていますか?」

「あぁ。個室がいくつか空いてるね。泊まっていくかい?」

「はい。とりあえず年明けまでお願いします」

「はいよ」

「で、ですね。シエラを少しの間、預けたいのですが?」

「あぁ、分かったよ。シエラはこっちにおいで」

「あい」

「シエラ。頑張ってね」

「あい」

「ケダマも、シエラをよろしくね?」

「あぁ。任せろ」

「女将さん。それじゃあシエラとケダマをよろしくお願いします」

「あぁ」


 シエラとケダマと女将の返事を聞いて私はヒーリア師匠の工房へと向かう。途中、屋台で串焼き肉を購入する。まぁ要するにお土産だ。私も少し食べたかったし。


 というわけで領都でも結構いい場所にある工房へとやってきた。ノッカーをコンコンと叩く。しかし無言だ。何度かコンコンと叩くとようやく中から「なんじゃい」と返事があった。正直シエラのお爺さんのことがあるから少し不安だったが元気そうだ。


「リサです。師匠」


 するとガチャリとドアが開けられた。


「おぉリサか。元気だったかね?」

「はい師匠。三ヶ月ぶりです」

「それで、どうした。今回は何用だ?」

「はい。等級外ポーションとホットドリンクの作り方を教えてもらえたらと思いまして」

「ふむ。本は読んだか?」

「はい。読み込みました。後は何度か実際に触ってみたいなと」

「あぁ、じゃあ工房を貸そう」

「師匠は良いんですか?」

「儂か? 儂の方は今は理論を考えておってな。それよりその手にある肉は?」

「あぁ。お土産です。食べますか?」

「肉か」

「柔らかいですよ?」

「ふむ。なら貰おうかな」


 工房へと通されながら軽く雑談をする。


「師匠の書いた大海嘯が起こる原理。面白かったです。考察が色々あって。ダンジョンが生き物で獲物を求めて魔物を解き放つとか。その発想はなかったです」

「ふむ。リサはどう思ったね?」

「私はダンジョンの呼吸のような物じゃないかと思いました。」

「呼吸?」

「はい。魔力の素……と呼んでいいかわからないですけど、なにか土地にそういうのが溜まりに溜まって、魔物を大量に生成が出来る状態になって吐き出すんです。師匠の本にも有りましたよね? 魔物は元はただの動物だったのではないかと言う仮説。あれを混じえての考察です」


 すると師匠が黙り込んだ。目が真剣な色を帯びたように見える。


「師匠?」

「……リサや」

「はい」

「その辺の話はまた今度にしよう」

「……何か拙い内容なんですか?」

「いや。話し出すと長くなるでの。今日は等級外ポーションとホットドリンクの作り方を習いに来たんじゃろう?」

「そうですけど……気になるなぁ」

「ふむ。ならばリサや?」

「はい?」

「年末と年始は暇かね?」

「えぇまぁ。年が明けたら春までは村々を周る予定がありますけどね」

「じゃあ、そうじゃな。シエラも連れてさっきの話をしようか。子どもの寝物語にはちょうどいい」

「そうなんですか?」

「あぁ。今年の年越しはダンジョンと魔物と土地についての議論しようか」

「講義ではなく?」

「いんや。議論じゃ。リサの考察も面白い。色々話そう。お互いに得るものがありそうじゃ」


 私に否はないので「わかりました」と頷いたのだった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?