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第34話 立ち往生した馬車

 護衛の仕事はなかった。でも移動はしなきゃなので、さっそく村から移動を開始。サクッサクッっと足元が鳴る。新雪の感触だ。天候は曇りで気温もぐっと冷たい。雪こそ今は降っていないが、すね下程度までは積もっているので移動に少々難が出る。


「シエラ。転ばないように気をつけていこうね?」

「ん」


 ちなみにケダマはシエラの脇をピョンピョンと飛び跳ねている。精霊も雪を見て喜ぶのだろうか?


 サクッサクッと雪を踏みしめながら街道を歩く。地面はところどころ轍の跡で黒い土が見えているので道に迷うことはないだろう。


 昼過ぎにはキャンプ地に到着した。村や町のほぼほぼ中央付近にはこう言った行商人や冒険者が作ったキャンプ地が点在している。水場があったり風避けの木が立っていたりと休憩するにはもってこいの場所だ。そこでお昼を摂る。他にも馬車に乗った行商人が居て護衛の姿も見える。馬車は全部で三台でちょっとした隊商を組んでいるようだ。


 お昼を食べて、さぁ出発だとなったところで、隊商が動き出さないことが気になった。何やら困りごとのようだ。近くに居た護衛の冒険者に声を掛ける。


「どうしたんですか?」


 すると護衛。


「あぁ。先頭の馬車が泥濘に取られてな。今から引き揚げるところなんだが難航してる」


 あらら。それは大変だ。


「手を貸しましょうか?」

「すまんが頼めるか?」

「はい」


 そう言ってシエラを呼ぶ。


「シエラ。私が後輪を押すから地面の泥濘を埋め立ててくれる?」

「あい」


 そんな私たちのやり取りを聞いていた護衛から質問が来た。


「魔法使いか?」

「シエラは精霊使いよ」

「ほぉ」

「でも精霊魔法は滅多に使わないけどね」

「使い勝手が悪いとは聞くな。大雑把だとか?」

「そうですね。大雑把です。使い所が難しくて……」

「そうか」


 さて、んじゃあ頑張りますか!


 私が後輪を押すと馬車が揺れた。ギシギシとなっている。護衛の人も商人さんたちも驚いている。護衛の人からまた質問だ。


「いったいどんな筋力をしているんだ?」

「魔力で身体強化をしています」

「なるほど。そっちか」


 そうして私は全力を出してみた。すると馬車の後輪をほぼほぼ持ち上げることに成功。


「おいおい! マジか!」


 皆が呆れているのが見えるが私もビックリだ。その横で地面を固めるシエラ。地味な作業だがありがたい。さすがにここから前に数歩進める力はないのでね。そして私は固まった地面にそっと後輪を置く。すると周りから「おぉ!」という感嘆の声。


「ふぅ……」


 シエラがチョコチョコと私の横に来たので褒める。


「ありがとうね」

「にへへ」


 結局、行商人の誘いで馬車に護衛として雇い入れてもらえることになったのだった。

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