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第33話 日常の一コマ(十五歳の冬)

 宿で寝る少し前は勉強の時間だ。十冊の錬金術書を読み込む。すでに一度は目を通したこれら十冊の本は錬金術の基礎の部分が書かれている。等級外ポーションとホットドリンクの作製方法から生命がどういうものなのか。物が持つ性質の話だったり。それらの核となるのが魔石だと言う話だったり。そもそも魔石とは何なのか。何故その土地の性質を生物は受けるのか。と言った話が書かれている。


 どれもこれも考察でしかない。なので必ずしも正しい訳では無いが、それを立証しようとしているのがヒーリア師匠で、これらの本のうち、五冊はヒーリア師匠の手書きだ。


 全部が全部。私の製品づくりに有用な訳では無く、一部有用と言う程度だが面白いから読んでいる。私自身色々と考えさせられるしね。


 とまぁ、そんな感じで本を読んでいると部屋の外から「雪だ」という声が聞こえてきた。私は宿の部屋の窓を開ける。すると冷たい風が部屋の中へと入ってきた。


「うぅ~。冷たぁ」


 シエラはすでに布団の中でぬくぬくと寝ていて、窓の外では雪がひらひらと舞っている。


「どうりで今夜は冷えるはずだよ」


 しばらく空を見上げていたが、部屋の暖気が逃げていくので窓を閉める。


「くぅ~。そろそろ寝ますかね」


 私はランプの明かりを消す。そしてシエラのいる布団を手探りで確かめながら滑り込み、彼女を抱きしめる。


「ぬくい~」


 するとシエラが温もりを求めて私の方へ体の向きを調整し始めた。ちなみにケダマはちゃっかり布団の中で寝ていたのだが、私が入ってきたことで、掛け布団の端からドサッとずり落ちた。


「にゃ~」と不満そうに鳴いてから、再び布団の中へと入ってくる。今度は私とシエラの間だ。何だかもう精霊というよりただの猫だな。まぁいいけど。


 そうして私は眠りにつく。あの雪の様子だと明日は積もるだろう。


「そろそろバザールの準備しなきゃなぁ」


 ふわぁと大きくあくびをして目を閉じる。


 おやすみなさぁい。



 翌朝。部屋の窓を開けるとそこは白い雪が地面を覆っていた。


「おぉ! 積もったなぁ」


 後ろのベッドから「うぅ。寒いぃ」というシエラの声がしたので呼ぶ。


「シエラ。雪だよ」


 そう言って彼女を呼び寄せて雪を見せると「雪だぁ!」と言って喜んだ。


「暖かい格好をしようね」


 そう言って魔法のカバンから服を出す。どれもこれも薄手だが庶民はこれを重ね着して寒さを凌ぐのが普通なのだ。私も服を五枚ほど重ね着すれば完了。


 朝食の前におトイレに行って、それから井戸の冷たい水で顔を洗い、口を濯がなきゃだけど……


「うぅ。考えただけで寒い~」


 しかし現実は、そうはならなかった。シエラの生活魔法でお湯がでてきたのだ。なんだかもう私、シエラ無しじゃ生活が出来ないかもしれない。そんな感想を抱く程度には彼女の魔法に依存している自分に思わず苦笑い。そんな私を不思議そうな顔で見上げる幼女。そんな彼女の頭を撫でて、私たちの今日が始まる。


 朝。食堂の席でジンとバッツに「おはよう」と声を掛けてから朝食を摂る。二人はすでに食べ終わった後のようなので、私も急いで食べる。その途中で今日と今後の予定の話をする。


「それで、あのさ。悪いんだけど私。領都に戻るんだけど……二人はどうする?」


 そう聞いてから、固いパンをシチューに浸してふやかして食べる。バッツが「何か予定でもあるのか?」と聞けば私はもぐもぐと口の中の食べ物を飲み込んでから頷く。


「うん。安眠布団一式が出来たからそれをね。他にも錬金術で等級外ポーションとホットドリンクも出来そうだから、そっちもバザールで売ろうかと」

「へぇ。リサッちは錬金術師なのか? それとも魔道具士?」

「うん。どっちも、まだ見習いだけどね」

「へぇ。凄いな」

「そんな理由なので、領都に戻るけど……二人はどうする?」


 するとジンは「俺はもう少し残るよ」と言った。


「バッツはどうするの?」

「うぅん。付いて行きたいところだがオレも残る。バザールは年末の数日間だろ? ならその後また合流しよう」

「そうね。それがいいかも。年越しは何処でするの?」


 それにはジンが答えた。


「領都でやろう。で、その後、数日は休んで、また村を回ろう」

「了解。じゃあそれで」


 こうして私たちは別行動をすることになった。領都までは四日の旅だ。護衛の仕事でも受けようかな。あるか分かんないけどさ。

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