シエラを連れてボル師匠の工房へ向かった。時刻は昼前だ。いつものようにドア・ノッカーでコンコンと叩く。すると兄弟子のリーオルがでてきた。
「あぁ、リサさん。こんにちは」
「こんにちは。ボル師匠は居ますか?」
「えぇ。はい。いま丁度、手が空いたところです。どうぞ」
「失礼しまぁす」
中へと入って奥へと案内される。ちょうどボル師匠は額の汗を手拭いで拭いているところだった。
「師匠」
「あぁ、リサちゃん。ヒーリア爺さんには会えたかい?」
「はい。弟子入りも許可してもらいました」
「そうか。それは良かった。で、今日はどうしたの?」
「はい。魔物事典を貸してもらえないかと。特に水と光のスライムが載っているやつを」
「スライム?」
「私が作りたいアイディアの実現に必要になりそうでして」
「ほぉ。スライムか。それはまた……」
「どうしたんですか? スライムが何か?」
「あぁ。最近……と言っても三年ぐらい前かな。南の賢者と呼ばれる人物がスライムの養殖方法を確立してね。これを有効活用できないかと研究が行われているんだよ」
「えっ、スライムを養殖しているんですか?」
「うん。水と光スライムもきっと扱っているはずだよ?」
「え、なら、掴まえに行かなくてもいい?」
「そうなるね」
おぉ!
幸先が良いぞ!
あっ、でも何処で養殖してるんだろう?
「えっとぉ、その南の賢者さんって何処に行けば会えますか?」
「王都だよ。確か養殖場も王都近辺でやっていたはずだ」
王都近辺かぁ。
「あれ? でもヒーリア師匠はそんな事は一言も……」
「あはは。あの爺さんは世事に疎いところがあるからな」
そうなのか。
「でも王都かぁ。遠いですね」
「遠いね。今から行くと王都で冬を過ごすことなるだろうね。でも行くのかい?」
「駄目ですか?」
「行っても、果たして交渉の席についてくれるかどうか……」
「どういう意味ですか?」
「うん。これは噂なんだけど、スライムの養殖方法を確立したことによって、王都のトイレ事情がかなり変わったらしいんだ。スライムに人間の排泄物を与えて養殖しているらしい。ただそのせいでスライムがかなり繁殖してしまっていてね。その処理をどうするかで困っているらしいんだ。まぁ基本的にスライムの使い道は魔石ぐらいしかないからね。共同研究とかを申し込むのは難しいんじゃないかなぁ」
「私がスライムの活用法のアイディアを持っていてもですか?」
「アイディアだけを盗られる心配があるね」
「そこは隠して……って、それだと交渉の余地がないか」
「そういうことだね。仮にアイディアを隠し通して交渉出来ても、運が悪いと人質を取られて情報を吐かされたり、拷問されて吐かされたり、なんてこともあるかも知れない」
「ちょ、いくら何でもそれは……」
「いや。人間、お金が絡むと何をしでかすか分からないよ?」
それは確かにそうだ。
「それに知らない土地で冬を越すのはオススメしないね」
「それは確かに難しいですね」
「そうだね。春を待つことになるかな」
「まぁ、勉強もしなきゃだし、今すぐスライムが必要というわけでもないから今年は大人しくしてます」
「そうだね。その方が良いだろうね。まぁ冬の間にどうするかも考えておくといいよ」
「はい」
ボル師匠に相談した後は、いつものようにジンと鍛錬をして今日を終えたのだった。
良い筋肉の日でした。