覚悟を問われて答えた私に、さらにボル師匠が言ったのは何を専攻するか、だった。
「何を学んでいくか。何を極めるかを決めたほうがいいよ。毛皮や革を使うのか、木工か金属か布なのか。何かを中心に据えて、そこから可能性を広げていく方が職人として強みが出るんだ」
「強み、ですか。師匠は何を中心に据えているんですか?」
「僕は毛皮が中心だね。そこから布に広げていった感じだ。製品としては主に貴族向けの寝具を扱っているよ。それ以外だとカーテンとか間仕切りなんてのもある。間仕切りは香木とか紙や布も使う」
「私が習ったのはそれらの基礎の部分なんですね?」
「そうだね」
なるほど。色々と分かってきたな。
「リサちゃんは何か作りたいものでもあるのかな?」
「そうですね。あります」
「へぇ。もうあるのか。それは良いね」
「私は布が中心になりそうです。後は錬金術も必要そうなんですが……どうしましょう?」
「ふぅむ。ならヒーリアの爺さんにも師事するといい。弟子にしてくれるかどうかは分からないが」
「師匠が二人も居て良いんですか?」
「あぁ。魔道具師、錬金術師、薬師。この辺は境界が曖昧だからね。三つを同時進行でやる人もいるよ」
「ふへぇ。それは凄いですね」
「リサちゃんだって冒険者もやっているだろう?」
「それはそうですけど……」
「まぁいい。分かった。布に関することなら僕も多少は協力できるから、布の工房とかの紹介が必要なら言って。協力するよ」
「ありがとうございます。まぁそれもこれもヒーリアさんが弟子にしてくれなきゃ進まない話ですけどね」
というわけで、私が寝泊まりする酒場件宿屋の『熊さんの憩いの場』に戻ってきた。そこにはお客に可愛がられるシエラが居た。みんなが彼女の頭を撫で、そして給仕をしてもらって喜んでいる。
そんなシエラが私を見つけて駆けてきた。
「リサ姉ぇたん」
そしてそのまま私の腰にしがみついた。
「いい子にしてた?」
コクンと頷くシエラ。
「何かあったの?」
するとふるふると無言で首を左右に振った。どうしたんだろう?
私がお客さんたちに視線を向けると客の一人が言った。
「寂しかったんだろうさ。俺の娘がちょうどそんな感じになった事がある」
客の何人かがウンウンと頷いている。なるほど良いことを教えてもらった。子を持つ男親たち。売春宿に居たことは突っ込まないでいてやろう。
私はシエラの頭に手を乗せて「寂しかったの?」と聞くと、私のお腹に埋めてた顔を上げた。そこには涙目のシエラが。
あらら。けっこう本格的に寂しかったみたいだ。
「ごめんね。寂しかったね。お仕事は一段落したから、しばらくは一緒だよ」
すると小さな涙声で「本当に?」と聞かれたので私は「うん。本当だよ」と頷く。ヒーリアさんが酒場に顔を出すのは本当にたまになのだ。なので、しばらくは酒場でシエラと過ごそうと決めるのだった。