いったん宿に帰って、それから冒険者ギルドへ向かうのだが、途中の屋台で軽食を摂った。この後に訓練があって夕方までやる予定だからね。
冒険者ギルドには訓練場があって一日中開放されている。そこにはすでにジンが来ていた。
「ジン」
「やぁ。さっきぶり。師匠には会えた?」
「忙しそうだったから兄弟子に言伝を頼んだよ。夕方には顔を出すでしょ」
「わかった。じゃあ模擬試合からしない?」
「えぇ。ぜひ」
私達が打ち合わせをしているとシエラが私の服の裾を掴んで言った。
「シエラはぁ?」
「うん。シエラは少しのあいだ見ててね。観るのも稽古だからね」
「わかったぁ」
私が訓練場にある木の棒を構え、ジンが木剣を構えて模擬試合を開始した。最初はお互い様子見。それから少しずつスピードを上げていった。技と技の応酬。久しぶりの感覚に私は楽しくて、ついつい力が入る。そこにジンが隙を見つけて打ち込んできたところで私の負けで模擬試合は終了した。
「残念。負けちゃった」
「あはは。力が入っちゃったみたいだね」
「楽しくてつい……」
「そうだね。俺も久しぶりの対人戦で楽しかったよ」
「くぅ。悔しい!」
「また、やろう」
「うん!」
さて、いつまでも私達ばかり鍛錬はしてられない。シエラも退屈だろう。
「シエラぁ。訓練しよっかぁ」
「うん!」
こうしてシエラも交えて筋肉を鍛え始めた。ちなみに精霊のケダマは丸まって寝ていただけだ。当然と言えば当然だが……見た目が猫なので実にらしいなと思った。
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訓練を終えた私達は酒場へと移動。ちなみに食事がメインの健全な酒場だ。そこで夕食を摂りながら今後の事を話した。
「ジンはこれからどうするの? ちなみに私はしばらく師匠の下で魔道具作りの勉強をしよと思ってるけど?」
「俺は護衛の仕事をしようと思ってるよ」
「おぉ! 護衛。ミスったときの罰則がきついのに大丈夫?」
「あぁ。命をかけて依頼人を守る仕事だ。やりがいがあるな。でもリサだってやってるだろ?」
「私?」
「シエラを護衛してながら冒険してる。同じことだよ」
「あぁ、なるほど。確かに、そうかも。でも気をつけてね?」
「ありがとう」
隣ではシエラがモキュモキュと煮物を食べている。
「美味しい?」
シエラがコクリと頷いた。
「でもニンジンも食べなきゃ駄目だよ?」
するとシエラの眉間にシワが寄った。嫌いなのだろう。わかりやすいな。
「今すぐに食べれるようになれとは言わないけど、少しずつでいいから食べてね?」
コクリと頷くシエラだったが、私の皿にニンジンを移動してきた。
「一切れは食べなさい」
そう言って小さな一切れだけ返す。するとシエラが口を尖らせた。その様子を見ていたジンが笑う。
何かこういう時間って良いなと私は思った。
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食事を終えてジンと別れた後、私はシエラを連れて宿へと帰ってきた。一階の酒場ではいつものように男どもが飲んだくれている。その中にボル師匠が居た。
「師匠」
「うん? あぁリサ。帰ってきたのか」
「すみません。待たせましたか?」
「いや。今さっき来たところだ。それで作業を次の段階に進めたいということだったね」
「はい!」
「噛みつき角ウサギの毛皮は何枚ある?」
「五枚です」
「うん。布団を一式作るにはちょっと足りないかな。まぁいいや。とりあえず枕を作ろう。皮の鞣し方からだね」
そう言って三冊の本を渡された。
「これを読み込んでおいてくれ。手順書だ。鞣し方と虫除けの加工の仕方に縫い方の本だ。とりあえず鞣し方だけでも読んでおいてね。明日の朝一でそれを教えるよ」
「はい!」
よし。なら今日はこの後は本を読む時間だな。ちなみにシエラは眠そうだ。私は彼女を抱き上げる。
「リィサぁ……」
「はいはい。もう今日は寝ようね?」
「うん」
私は師匠に「それじゃあ読んできます」と告げて二階へと上がった。ベッドにシエラを寝かせて私は暗くなり始めた部屋のランプに明かりを灯し本を読み始める。
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本を読んでいると、鞣し自体にも虫除けの効果があることが分かった。でもそれをさらに強力にしたのが二冊目の本に書いてある虫除けの方法だ。これは人体には無害な除虫剤の作り方の方法でもある。色々と応用が効きそうだ。これらもいずれは書き写さなきゃな。
私は明日に備えて、とりあえず毛皮の鞣し方の手順や鞣しに使う薬品の作り方から熟読するのだった。