オークの死体のある場所から少し移動して再び野営をする。オークの死体は穴に埋めた。穴を作ったのは案の定シエラだ。眠そうにしている彼女に頼むのは可哀想だったが、あんなデカい死体を放置もできないのでしょうがない。
パチパチと薪が燃えているのを間に挟んで、私は真向かいに座るジンに話しかける。兎にも角にも彼がどんな人間かを知る必要があると感じたからだ。信用できるのかどうかを。
「さすがにこの時間帯になると、秋の気配を感じるね」
「あぁ。昼間はまだまだ暑いけどな」
「ジンさんは何故、冒険者を?」
「さん付けはいらない。呼び捨てでいいよ。冒険者になった理由は一旗揚げるためだ。リサさんは?」
「わかった。私のことも呼び捨てでいいよ。私は生活費を稼ぐためだね。あとは素材の採集のためでもある」
「素材採集?」
「私。魔道具士見習いなの。なったばかりで……」
するとジンの眼が驚きで見開かれた。
「その歳で? 今から?」
「えぇ。家を出たのが最近でスタートが遅かったからね」
「そうだな。職人の道は一〇歳前後から始まるからな」
私はジンに尋ねる。
「ジンの一旗揚げるっていうのは男の子だとよくある理由だね。成り上がるぞぉって?」
単純にそう思ったが理由を聞くと以外にもしっかりと納得の理由があった。
「あぁ。そうだな。うちは……俺の先祖のルーツがシャポネっている場所にあるって言ったろ?」
「うん」
「そこで豪族って言う支配者層をやっていたらしいんだ。でも権力争いで負けて西にある豊かなこの土地に逃げてきたそうだ」
「なるほど。それでこの地で再び支配者層にぃって?」
「まぁそうだ。でも家のことがなくても、やっぱり男なら一度は夢を見るよな。自分の腕で成り上がるっていう夢を」
そう言って彼の足元には剣……刀かな? 反りのある鞘に入った剣を撫でる。
「ふふ。そうだね」
「リサは? 成り上がってやるぞぉってのはないの?」
「私は生活を豊かにしたいな。好きなことをやりながら自堕落に生活したい」
「ふふ。なるほど。それで生産職……魔道具士を選んだのか。一つ大きな発明をしたらそれだけで大儲けだ」
「そう。私の頭の中には既にいくつかアイディアはあるんだ」
異世界産……というか地球産のね。ジンが「へぇ、それはすごい!」と言うが私は苦笑いで答える。
「まぁ、こういうのが作りたいってのはあるけど、それをどう作ればいいのかは分かんないんだけどね」
するとジンは笑う。
「あはは。それは実現すると良いね」
「うん。ジンは? 何か成り上がるために道筋みたいなのはあるの?」
「それなぁ……どこかで手柄を立てればいいだろうけど……なかなかなぁ」
「そうだね。今は平和な時代だもんね」
成り上がりたい人たちにとっては不遇の時代なのだ。