街の外へ出てきた。空はまだ明けたばかりで白から紺へと移り変わるグラデーションは私をワクワクとさせてくれる。
「くぅう。気持ちのいい朝だね!」
私がそう言って振り返ると、後ろではケダマとシエラが大きなあくび。つられて私もあくび。それを見たシエラがケタケタと笑うので私も笑っしまった。
「まったくもう! ここからは外で危険がいっぱいなんだから緊張感を持ってよね!」
そうシエラに注意をしたら少しだけ真剣な表情で「うん!」と言って、今度はクスクスと笑った。その様子を彼女の足元にいるケダマが見上げている。
その光景は平和そのもの。だがさっきも言ったがここは街の外なので危険だ。
「それじゃ気を引き締めて行っくぞぉ」
言葉とは裏腹に何だか気の抜けた掛け声になってしまったが、そんな事はどうでもいいのだ。いいかげん出発しなきゃね。
「リサ姉たん。今日はどこに行くの?」
シエラに尋ねられたが、正直私にもアテはない。
「街のお外を歩くだけだよ」
正確には平原を、だ。魔物にエンカウントするまでブラブラと歩くだけ。まぁシエラの体力作りにはなるだろう。街の外には街道沿いに行商人や馬車がトコトコ、ガタゴトと歩いているのが見える。
そんな街道を離れて道なき平原をただ歩く。遠くには森が見えたり大きな山脈があったり。そんな土地だ。シエラの足の速度に合わせて歩く。歩く。歩く。
「魔物さん出ないねぇ」
普通は出ないほうがいいのだが、今日は別だ。できれば三匹ぐらいは狩りたい。ちなみに獲物の捌き方はすでに履修済み。酒場で調理の補助の際に習った。とは言っても噛みつき角ウサギではなく普通のウサギだ。でも酒場に来ていた冒険者から聞いた話では同じらしい。ただ魔物には胸の中央に魔石があるだけの違いだとか。
空が白から水色へと変わり始めた。地球なら六時ぐらいの明るさだろう。そんな平原を歩いているとケダマが言った。
「目的の魔物だ」
「どこ?」
「そこの小さな茂みの中」
そう言ってケダマの視線の先に目を向ければ、こっちをじぃっと見ている噛みつき角ウサギが。私が木の棒を構えると同時に、噛みつき角ウサギが突進してきた。距離は十五メートル強と言ったところ。十分な距離がある。
「ケダマ!」
「分かってる。シエラは守る」
間合いが一気に縮まる。私はただただまっすぐ突進してくる魔物に向かって野球のバットのように構え直す。それは私のお腹に向かって飛び掛かってきた。やっぱりそう来たか。見え見えのコースだ。
「デッドボールってのはね、来ると分かってれば打ち返せるのよ!」
身を一歩引いてから魔力で強化した木の棒をフルスイング。噛みつき角ウサギの頭を思いっきり叩く。すると魔物は飛んだ。ぴゅ~っと空を。シエラからは「おぉ~」と感嘆の声が。
そして一〇メートルぐらい飛んでドサッと地面に落ちた。
「ホームランには程遠いな。センター返しでツーべースヒットってところかな。足の早い人なら三塁まで行けたかも」
こっちの世界の人と野球を知らない人にはナンノコッチャか分からないであろう感想。
そして私もそんなに詳しくないので、そんなのがあるのかは知らない。だが、まぁいいさ。それぐらい強烈な当たりだったということだ。
吹っ飛んだ噛みつき角ウサギは動かない。死んだかな?
とりあえず獲物の解体作業をしようと獲物に近づいたのだった。