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第13話 宿

 ねぐらである宿屋兼酒場へと戻ってきた。なんとなく建物を見上げる。二階建ての古い木造建築だ。この辺では珍しくもない建物。看板には『熊さんの憩いの場』とある。


「……何処の辺りが熊さんなのか凄く謎だ」


 まぁいい。私の隣には幼女と猫が居て、それを通行人が不思議そうに視線を向けてくる。ケダマが「入らないのか?」と聞くので、私は苦笑い。


「ここね。売春宿でもあるのよ」

「ほぉ」

「ちょっとシエラの情操教育に悪いかなって」

「その辺のことは精霊の俺には分からん」

「うん。ちょっと女将さんに相談してみる」


 そう言って中に入ると「いらっしゃいませぇ」と艶っぽい声で迎えられた。どうやらすでに新しい子を入れたようだ。私の視線は新しい女の子へ。そんな私の視線を追って女将が言った。


「おや。帰ってきたのかい。アンタの仕事ならアンジェラに頼んだよ。まぁ売りがしたいなら歓迎するけどね。場所代……」

「売りはしません!」


 私がきっぱり断ると女将さんはシエラに視線をやった。


「その子は?」

「その件でちょっと相談がありまして」

「何だい? さすがにそんな子供に売りはさせられないよ?」

「させません! 違います!」

「そうかい?」

「はい。で、ですね。泊まるところを何処か紹介してもらうことって出来ますか? 安い所が良いんですけど」

「うち以外でかい?」

「はい」

「うちに泊まっていきなよ。部屋は空いてるし、他の安宿は大部屋ぐらいしかないよ。風呂がある部屋があって、ついでに個室のある安宿なんてうちぐらいだよ」

「良いんですか?」

「正規の料金は取るけどね」

「あの、この子も一緒なんですが良いですか?」

「あぁ。構わないよ。知らない仲じゃなし多少は融通するさね」

「ありがとうございます」


 宿は確保した。少し場所的に難があるが、そこはシエラの教育をしっかりすれば良いだろう。


「アンジェラさんも。よろしくお願いします」

「はぁい」


 夕食を摂っていると、常連客が入ってきた。


「おや、リサちゃん。帰ってきたのか?」

「えぇまぁ。客ですけどね」

「その隣の子は?」

「ちょっと預かってます」

「ふぅん。ところで今晩どう?」

「売りはしません!」

「あっはっは。そうかい?」

「まったくもう!」


 そんな会話を何回かしたところで食べ終わったので二階へあがった。


 その後は、部屋に戻って勉強の時間だ。とは言っても薄い三冊の本を読むだけなんだけどね。しばらく本を読んでいるとシエラがコクリコクリと船を漕いでいるのが目に入った。昼寝はしてたが何だかんだで疲れているのだろう。時刻は夕刻で日が沈み始めている。ロウソク代も勿体ないし、私も疲れたので今日は寝よう。


「シエラ」

「……」

「今日はもう寝よっか」

「うん」


 というわけで、シエラと一緒にベッドで寝ることに。幸いにと言うかここのベッドはダブルだ。さすが売春宿。シエラも体が小さいので結構広々と使える。


「おやすみ」

「おやしゅみなたい」


 こうして私達の今日は終わったのだった。

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