ボル師匠が、私が泊まり込んでいる宿の部屋に三冊の薄い本を持ってきた。
「まずはこれを読み込んでごらん」
私は本のタイトルを読む。
「魔物事典……闇の章、その一の一と二に水の章、その一の一」
「そう。これには闇の属性を持つ魔物のことと、水の属性を持つ魔物のことがそれぞれ書かいてある。他にも手に入る素材や魔石の種類やランクもね」
私はパラパラと捲ってみる。
「大ネズミに大蜘蛛にオオコウモリ……近場にある貧者のダンジョンに出る魔物ですね。一の二の方はゴブリンにオークに噛みつき角ウサギですか。こちらはどれも近場の森や平野で出る魔物ですね。水はアーヴァンクにウォーター・リーパー。こちらも近辺の沼地や川辺に出る魔物ですね」
「そう。僕が過去に弟子に見せる為に魔物事典から抜き出して書いたものだ」
ほぉほぉ。
「魔物には大小の魔石があって、その属性に応じた素材が採れるんだ」
私は不思議に思ったことを尋ねる。
「この辺にいる魔物は闇属性ばかりなんですね? 川辺や沼地も水に関する魔物ばかり……」
「おっ、よく気がついたね。そうなんだ。魔物はその土地の持つ属性に応じて変化すると言われているよ」
「ということはこの辺は闇に関する属性の土地ということですか?」
「そういうことだね」
ほぉほぉ。
「まぁ大抵は複数の属性を有する土地の方が多いけどね。闇と水とか闇と土。光と火とか光と風とかね。ちなみに雑学だけど闇と光が混ざることは基本的にはないよ」
「水と火は混じりますか? 風と土は?」
「ふふ。いい質問だ。闇と光が基本的に交じることがないといったのはその場合だね。例外的に溶岩系の魔物の魔石はね闇と光と水と火が混じっているんだよ。光と闇と風と土だと植物系の魔石でこちらも混じってるね」
へぇ……交じるんだ。ボル師匠は続ける。
「そう。でも、そういった魔物の魔石は混じり物と言われて使い勝手が悪いとも言われるね。ちなみに水と土が交じると泥となり、火と風が交じると雷という属性になるよ」
「すべての属性が交じることはありますか?」
「ふふ。ある……と言われている」
「もしかしてアロママテリアですか?」
「おぉ! そうアロママテリア。別名、賢者の石だね。よく知っていたね。その辺はもう錬金術の領域だね」
ほぉほぉ。
「賢者の石の概要というか輪郭はあるんですね?」
「そうだね。でも錬金術で言う『全は一、一は前』ではないね。あれは全ての物質には全ての属性が内包しているはず……という理論だからね」
「ということは……今の錬金術師の多くは賢者の石という単体で究極の物質を探してる?」
私の言葉に師匠がニヤリと笑った。
「そう。今の多くの錬金術師はそう考えているようだね」
へぇ……
「面白いですね!」
「そうだね。でもそれは錬金術の話だ」
「でも師匠は錬金術にも通じてる?」
「まぁ魔道具士と錬金術士は切っても切れない関係だからね。錬金術士師が作り出す素材を魔道具士が使うことは多々ある。魔道具士が錬金術士を兼任することもままあるし。どうする? その様子だと魔道具士ギルドと錬金術士ギルドの両方に入りたそうな顔をしているが?」
「両方に入りたいです!」
「まぁ入っても当分は準会員見習いなんだけどね」
「はい!」
この後、私は各ギルドの準会員のさらに見習いになったのだった。