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脳筋な家族に育てられた令嬢は生産職に憧れる
新川キナ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年12月04日
公開日
74,278文字
連載中
よくある異世界転生から始まったはずだった。
なのに、どうしてこうなった?
生産職を希望したのに生まれた先は脳筋の貴族の家。
そして貴族子女なのに筋肉を鍛えさせられている。
「筋肉。筋肉。筋肉を鍛えろエレス!」
「はい。お父様!」
「筋肉は全てを解決してくれる!」
「はい。お父様!」
拳を振るい、蹴り足を鍛えて木の棒を振り回し鍛錬をする毎日。でも……
「こんな生活は嫌だ! 私の望んだこと違う!」
なので家出をすることにした。そして誓う。
「絶対に生産職で成功して左団扇で暮らすんだ!」
私の新生活が始まる。

第1話 異世界転生

 今、目の前では私の葬儀が行われている。飯山リサ。享年二十歳。死んだ原因は交通事故。よくある話だ。そんな私が今後どうしたものかと思案していると、突然目の前が真っ白になった。


「ひゃっはー! ようこそ転生の間へ!」


 そう言って登場したのは頭の軽そうな十代半ばぐらいの男の子だった。


「あー! いま失礼なことを考えたなー! オレの頭は軽くなんてねぇですよ!」


 私は最初に感じた「軽そうな」という言葉を飲み込んで彼の言動を見て改めた。軽そうな頭ではなく実際に軽いだろうと。そしてあの頭は飾りなのだろうと思った。しかし目の前の人物は、そんな私の中身が詰まった頭が覗けるようだ。


「へっへぇんだ。いいもんね。君にどう思われようとオレには今後の君に関する決定権があるからさ!」


 あらら。それは怖い。あまり不敬なことを考えると、やばいことになりそうだと思ったので話題を先へと流すことにした。


「今後の私に関する事ということは、人は死んだ先があるってことですか?」


 これに少年が答える。


「とぉぜん!」


 そう言って踏ん反り返る少年の、その態度が残念すぎることを無視して質問する。


「それで? 死んだ先は?」

「転生である!」


 少年の言葉と共に、どこからかババーンという効果音が鳴った。


「転生ですか」


 あまりにも普通の展開にそっけなく答えてしまう。効果音にも突っ込まない。しかし少年のテンションだけはヒートアップした。


「そう! しかも日本の若者向けに特別に異世界に転生させてやる! 喜べ! そして敬え!」


 目がキラキラしているが、やはり驚きはない。というか普通に日本でやり直したい。異世界なんて嫌だ。少年にそうお願いしてみた。しかし……


「残念! すでにこれは決定です! 君には異世界転生をプレゼント! というわけでレッツらドン!」


 少年が、そう言葉を発して指をパチンと鳴らすと床に穴が空いた。落ちる!


 そう思った私は無意識にその穴の縁にしがみついた。


「ふんぬ!」


 必死で穴から這い上がる私。それに少年が驚愕する。


「ちょ、ちょっと! そこは素直に落ちなよ! 何、這い上がってきてんのさ!」


 私は穴から這い出て少年へと掴みかかった。


「あんたねぇ! 突然、何すんのよ! 落ちるとこだったじゃない!」

「いやいやいや。落とすつもりだったんだよ!」

「ふざけんな!」


 そのあとしばらく少年と侃々諤々とやりあった結果、彼の方が折れた。


「わかった。わーったよ! 何か能力をサービスするから素直に異世界に降りてよね!」


 私は鼻息も荒く答える。


「何か異世界ならではの面白い能力が良いよね!」


 すると少年は、ぶつぶつと大きな声の独り言を喋りだした。


「ったく、なんなんだ、こいつは! こんなやつ初めてだ!」


 私は、そんな少年の大きな独り言は無視をして、何の能力を貰うかを考え始めたのだった。



 しばらく考えた結果。結論が出た。


「ねぇねぇ」


 私が猫撫で声で少年にすり寄る。


「何だよ。気持ち悪いな。そんなキャラじゃないだろ」


 酷いことを言う少年を無視して私は尋ねる。


「錬金術とかの能力なんてどうかな?」


 少年が白い目を向けて投げやりに答える。


「いいんじゃないの?」

「これから行く世界にある職業かな?」

「あると思うよ?」


 少年の投げやりな態度に私は怒鳴る。


「思うよって何よ!」


 すると少年は言った。


「いちいち下界のことなんて知らないよ! ボクの役目は地球で彷徨える魂を見つけたら異世界へ転生させるだけだからね!」

「ふぅん、そっか。分かった。しょうがない。それじゃあ私、ここに残る」


 すると少年の顔が青褪めた。


「ちょっと! 突然、何を言いだすのさ!」

「じゃあ私が希望した職業が転生先の世界で通用する仕事かを教えて!」


 少年が、ぐぬぬと唸る。しばらく私と睨み合った末にやはり少年の方が折れた。


「はぁ。わーったよ。調べる。調べるよ。ちょっと待ってて」


 そう言ってしばらく待つ。少年は先程の穴から下界を眺めている。その結果……


「あるよ。錬金術。ある。地球のそれとは違う。本物の錬金術がね。成功すれば地位も名誉も望むだけ手に入る職業だ」


 そう言って私に視線を向ける。


「これでいい?」

「おっけ! じゃあそれで!」


 交渉成立。私は穴の縁に立つ。


「これって落ちても大丈夫なんでしょうね?」

「大丈夫も何も君は、すでに死んでんの! これ以上はどうもならないよ!」

「りょーかい! ならいっか。じゃあ、ばいばい!」

「はいはい。さようなら」


 そう言って私は穴の中に飛び込んだ。しかし落ちる瞬間に少年がほくそ笑んだのが見えたのだった。

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