北校舎の裏手の通路、その西側の一番端で、髪の長い少女が校舎を背に一人立っていた。
西から東へ通り抜けるだけの、何もない通路。
高いフェンスで取り囲まれた通路の向こう側には、ブドウ畑が広がっている。
髪の長い少女は、時折スカートのポケットに手を突っ込んでは、中から何かを取り出して、口の中に放り込んでいた。
とてもカラフルな小さな一粒を、どこか、投げやりに。どうでもよさそうに。
美しい少女だった。
冴え冴えとした、それでいて妖しい艶のある……魔性めいた美貌。
あの子は人ではないから、と言われたら、誰もが納得してしまいそうな、そんな美しさ。
三階の窓が、音もなく開いた。
西の端から、何個目かの窓。
開いた窓から、三つ編みの少女が、そっと顔を覗かせる。
顔立ちは整っているが、きっちりと編まれた三つ編みが地味な印象を与え、少女の魅力を損なっていた。地味で真面目で、融通が利かない優等生。そんなイメージ。
窓の下に髪の長い少女を見つけて、三つ編みの少女は顔をほころばせた。
うっとりと心酔するような眼差しで、髪の長い少女の魔性めいた横顔を見下ろす。カラフルな一粒が口の中に放り込まれる瞬間だけは、その一粒を食い入るように見つめていた。
ポケットから取り出されるカラフルな一粒は、色が何種類かあるようだった。
髪の長い少女が、水色の一粒を取り出し、口へ運ぼうとした。
水色が口の中へ放り込まれようとしたまさにその瞬間。校舎の角から、ポニーテールを白いリボンで結んだ少女が、ひょっこりと現れた。手には、ジョウロを持っている。
髪の長い少女と白いリボンの少女は、驚いた顔でお互い見つめ合う。
先に我に返ったのは、髪の長い少女の方だった。
フッと口元を緩ませると、自分の口へ入れるはずだった水色を、ポカンと開いた白いリボンの口の中へ放り込む。楽し気な光を魔性めいた瞳に乗せ、人差し指を口元にあてると、そのまま何事もなかったかのように、白いリボンの脇をすり抜けて校舎の向こうへと姿を消す。
あとに残されたのは。
真っ赤に茹で上がって、呆けた顔で固まっている白いリボンの少女と――――。
凍り付いた瞳で、信じられないというように、それを見下ろす三つ編みの少女。
甘い予感がした。
甘い期待が、喜びが、さざ波のように静かに広がっていく。
それは、とても心地が良かった。
きっと、これから。
とても素敵なことが起こる。
甘い幸せの予感。
極上のスイーツにありつけそうな、予感。
喜びの波紋が広がっていく。
存在のすべてが打ち震えるような、甘い喜び。
蕩けそうな。痺れそうな。そんな。
甘い甘い、予感がした。