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第19話 先輩、確かめてください

「お腹を、なでなでしてください……?」


 突拍子もない台詞に頭の上で大量のはてなマークが浮かぶ。


 聞き間違いかと思ったが、そうではない。現に彼女は今、制服をたくし上げてお腹を露出させようとしている。


「ま、待ってくれどういうことだ!? 急展開すぎて意味が分かんないぞ!?」


「私は、ここで証明しなきゃいけないんです!! ……私がお腹を撫でられて喜ぶような、エッチな子じゃないって!!!」


 それから、勢いで服を捲ろうとするえるを静止し、話を聞いた。


 事の初めは今日の保健室での出来事。夏斗はえるの布団に潜り、お腹を眼前で目撃した。そして必然的に息を吹きかけ続ける状況となってしまい、最終的にはトロんとした彼女の瞳に欲望を爆発させてしまいそうになって逃げ出したのである。


 問題はその後。桃花が保健室にえるを迎えに行った時のこと。ここからは、夏斗の知らない話だ。


「桃花ちゃんに先輩との話をした後、お腹を触られたんです。なぞられたり、おへそをクリクリされたり。そしたら私、身体がぽわぽわして変な声を出しちゃって……エッチな子になっちゃったねって、言われたんです!」


 確かにえるはエッチだったな。夏斗は心の中で頷く。先生と話している時の必死に抑えながらも甘い吐息を漏らしていたあれがエッチではなかったとは到底言い難い。


 しかししそんなことは置いておいて、何故それがお腹をなでなでしてもらうという行動に繋がるのか。


「私、先輩に嫌われたくありません。エッチな子だと嫌われてしまいます!! だから、私はエッチじゃないって証明しなきゃいけないんです!!」


「うん、うーん……うん?」


「さあ、私のお腹を! おへそも触っちゃってください!!!」


 せっかく早いを話してもらったのに、改めて訳が分からなかった。


 まず彼女は誤解している。エッチな女の子が嫌いな男など……この世にはいないのだ。


 夏斗も思春期の男の子。性への関心は多いにあり、えると”そういうこと”をしたいという欲望は当然持ち合わせている。つまり、えるがエッチであろうと全く問題がないどころかむしろ大歓迎なわけだが。


 彼は思った。これ、役得じゃね? と。


(つまり俺はえるのお腹を許可ありの合法で触ることができる。……え、ご褒美?)


 なんでお腹を触らせることによって自分がエッチじゃないと証明できるのか。というか、別にエッチであろうとなかろうとどっちでもいいこととか。そんな諸々の事は考えないことにした。


 要は自分がえるの可愛らしいお腹をもう一度触れば全てが解決するのだ。保健室では目の前で見せつけるだけして焦らしてきたあのお腹を、次は確かにお触りすることができるのだ。


 断る理由など、どこにもないだろう。


「分かった。じゃあ……お腹、出してくれ」


「はいっ!」


 すすすっ、と服を捲り、胸元の少し下まで上げたところで両手を止め、固定する。完全に露出したお腹部分は言葉に表せない謎の色香を放っており、その中央にある小さなおへそは視線を釘付けにする。


 改めて見て、華奢な身体だと思った。元々身長も小さくて大きな部分と言えば胸元のみの少女だったが、やはりお腹も引き締まっている。いや……引き締まっているというよりは、線が細いと言うべきか。


 ほんの少しだけ、薄く縦の一本線が入ったそのお腹は、筋肉質というわけではない。触らなくても分かるほど肌は真っ白で、まさにすべすべふにふにといったところ。これは、きっと極上の触り心地のはずだ。


「じゃあ、行くぞ……」


「お、お願いします……」


 ゴクリと生唾を飲み込み、期待を胸にしながら。夏斗はその至宝に、そっと手を伸ばした。


「んっ……」


 人差し指と中指の先で、そっとお腹の縦筋に触れる。


(これが、えるのお腹の感触……)


 余分な脂肪の少ない細い身体の触り心地とは思えないほど、しっかりとした質感。触ってみるとぷにぷにと柔らかく、撫でてみてももちもちとした肌が吸い付くように指先を離さない。


 子供のお腹のようだ、と思った。シルクのような真っ白な肌も、柔らかい肌触りも。細いと柔らかいがお腹で両立するなんてことが本当にあり得るのか、と夏斗は未知の世界にさらに興味を惹かれた。


「あっ……先輩の、熱い……」


「えるのお腹も熱いぞ。ぽかぽかしてて、湯たんぽみたいだ」


 広げた右の手のひらで、お腹を包み込むように撫でる。さわさわと優しく、小動物の頭を撫でる時のようにゆっくりとした触り方に、えるの身体が小さく震える。


 どうやら、声を我慢しているようだった。シャツを抑える手から小さな身体全体までがぷるぷるとしていて、口元は必死に閉じているように見える。


(でも、変に声を抑えてる分……)


 耳まで真っ赤で、恥ずかしさに染められながらも声を出すまいと耐えているその姿。それはむしろ開き直って変な声を出してしまっている時よりも遥かに官能的であり、本当に変な気を起こしてしまいそうになる。


 さっきは役得だと思っていたが、逆だったかもしれない。ここまでの反応を見せられながらもお腹を撫でる以上の事をできないというのは、かなりもどかしい。


「ふっ……んっ! はぁ、ひうっ!?」


「える、変な声出てるぞ。反応しちゃダメなんじゃないのか?」


「わ、分かって、まひゅ。でも、これ……先輩の撫で方、がぁ……っ!」


 まずい。これ、いじめたくなる。そういえば前に柚木が「あはは、ごめんごめん。でもこれだけ可愛くてちっちゃい子、ちょっとイジめたくなっちゃうのは分かるでしょ?」と言っていた。あの時冗談半分で賛同したが、今は心の底から言える。


 こんなに可愛くて小さい生き物、からかっていじめたくならない訳がない。


「っあぁ!? せん、ぱ……ぃ」


 クリッ、クリクリッ。そっと手のひらを離し次は人差し指を小さなおへそに当てる。ピクッ、と一度大きく身体が揺れるのを見てから、そこを重点的に責めることを決めた。


 おへその入り口は優しく引っかき、内側は少し強めに指で弄る。緩急をつけてやるとえるはより反応が良くなって、口元が少しずつ緩み始めているのが見てとれた。


「こ、れダメっ……変な気持ちに、なっひゃぅ。お腹の奥ぽわぽわ、熱いぃ……」


「もう降参か? えるはエッチな子だったんだな」


「ち、違っ、います。まだ、できますからっ。私は、エッチじゃな……ん゛ん゛っ!!」


(意外に耐えるな。でも、もう限界が近そうだ)


 そろそろラストスパート。えるの一番可愛いところを見るため、夏斗は更に指の動きを激しくする。しかもその上で同時に左手も使い、両手で優しい撫でと激しい指クリを繰り返した。


「あっ、あぁっ!? うぁ、う゛ぅ……ダメ、ダメダメダメ、これダメです! なんか、変……にッ!」


 余裕が無くなってきたのか、えるが小さく暴れる。だが逃さずソファーの端に追いやって、トドメの一撃をかけた。


「んぐ、っっっっ!!!」


 ビクンッッ。大きくえるの身体が跳ねる。甘い吐息と共に口の端から一滴の唾液が伝うと、その小さな身体はぐったりと脱力してベッドの端に転がった。


「ひ、ぁう……はひっ……」


「ふふ、どうやら降参らしいな? で、どうだったんだ? 改めてお腹を撫でられた感想は」


「……気持ち、よかったれす。ナツ先輩に、撫でられると……じゅんじゅんって、お腹の中で何かが上がってきて。私、エッチなんでしょうか……」


「そうだな。でも、安心していいぞ」


 エッチだと嫌われる。それが嫌で、えるはこのなでなでを仕掛けてきた。さんざん楽しませてもらったのだ。最後にはちゃんと、安心させてやらないと。


「俺はえるがエッチでも嫌いにならないよ。というか、エッチな女の子が嫌いな男なんていないから」


「ふ、ぇ? そう、なんですか? よかったぁ……」


 にへぇ、と安堵したように笑みを漏らす。それを見て、少しやりすぎだったかもしれないと反省しつつ、そろそろえるが帰らなければいけない時間なことに気がついた。


「じゃ、そろそろ時間だ。また明日、な」


「ひゃぃ……。あの、先輩」


「なんだ?」


「……また、お腹なでなでしてもらっても……いいですか?」


「っ! そ、そうだな。まあまた、な」


「えへへ、やったぁ」




 こんなこと繰り返したら心臓がもたないっての。夏斗はそう心の中で呟きながらえるを立たせ、玄関先まで送って。にゅっと顔を出そうとするやらしい感情を必死に抑えつけることで、なんとか家に帰らせたのだった。

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