ピロンッ。パジャマ姿で一人、部屋でくつろぐ桃花の枕元からスマホがメッセージの受け取りを告げる。
「ん? 誰だろ」
スマホを手に取り画面を開くと、そこに表示されたのは一件のメッセージ。送り主は、夏斗との密着下校を終えたえるであった。
『桃花ちゃん……』
『どうしたの?』
『今日、帰り道にね。桃花ちゃんに言われた作戦を実行したんだ。先輩、最初はあんまり反応してくれなかったけど途中から段々私のことを見てくれるようになって。嬉しかったんだけど……』
『おっ! えるやったんだ! 意気地なしだから出来なかったの報告かと思ったけど、やるじゃん!』
読んでいた漫画を閉じ、コップの中のお茶を一気に飲み干して。桃花はえると会話を続ける。
『それでそれで? どうなったの!?』
『それが……途中で例の柚木先輩に会っちゃったの』
『え……?』
『宣戦布告された。チンタラしてたら私が貰う、って……』
想定外の出来事に、桃花は固まった。
帰り道に柚木先輩と会ったというだけでも驚きなのに、まさかの宣戦布告。どういった状況でどんな風に、そもそもそれを早乙女先輩は聞いていたのか、はたまたえるだけが聞いていたのか。詳しい状況は全く分からないけれど、恐らく最悪の出来事が起こってしまった。
柚木先輩は、早乙女先輩のことが好きだった。つまり、本気で恋敵だったということだ。
『あちゃちゃ。それは大変だったねぇ。じゃあこれからは本腰入れて、もっともっと早乙女先輩と距離を縮めなきゃね!!』
『うぅ。私、本当にあの人に勝てるのかな……』
『大丈夫だよ! 無問題!! 世界一可愛いえるがぽっと出の先輩なんかに負けるわけないよ!!( ˊ̱˂˃ˋ̱ )』
確かに相手は強敵だ。美人で強スペック持ちのクラスメイト。きっと裏での男子人気も相当あるレベルの人なのだろう。
しかし、だ。えるにはそれを上回るほどの可愛さと、この三ヶ月積み上げて来た努力。そして何より家がお隣だという最強の手札を使って、毎日一緒に登校して。最近では一緒に下校もするようになった。そう易々と壊せる城ではない。
「万が一にもえるが負けることなんて有り得ないだろうけど。それでも……ここは親友として、ちゃんと慰めて立ち直らせてあげなきゃね」
戦うためにはまず、本人の気持ちを癒してあげること。彼女自身が立ち上がらなければ、勝てる戦にも綻びが生じてしまうかもしれない。それだけは絶対に阻止せねば。
『ね、せっかくだからビデオ通話繋ごうよ。気が済むまで話聞くよ?』
『い、いいの?』
『今日はもう特に用事も無いしね〜。何より親友のためだもん。眠くなるまでとことん付き合ってあげる!』
『桃花ちゃん……っ!!』
そのメッセージと共に電話が繋がり、ビデオがオンになる。
桃花は水色の上下一色のパジャマ姿でベッドに腰掛けながら。そしてえるは、ピンク色のもこもこフード付きパーカーを見に纏い、ベッドに何匹も置かれたぬいぐるみのうちの一匹を抱きながら。
(ん゛んッッ!! クッソ可愛ィィィィィィイ!!)
『えへへ、桃花ちゃんのパジャマ姿可愛いっ。こっちもちゃんと写ってるかな……?』
「う、うん。大丈夫だよ。相変わらず、すっごぃ破壊力」
『破壊力?』
桃花はえるの姿が映ったビデオ通話の画面を何度もスクリーンショットし、フォルダに保存する。何度かそれに夢中でえるの話が入ってこなかったが、なんとか誤魔化して切り抜けた。
(ほんと、癒されるなぁ。やっぱりえるは笑ってる時が一番可愛いよぉ……)
好き! と心の中で激しく叫びながら。桃花はえるを慰める会と称してしれっと癒し成分を摂取し、明日からも続く学校生活にしっかりと備えるのだった。