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おとなりさんの後輩がちょっとメンヘラでかわいい
結城彩咲
現実世界ラブコメ
2024年12月03日
公開日
133,682文字
連載中
高校二年生にあがる春。早乙女夏斗の隣に引っ越してきたのは、一つ年下の超絶可愛い後輩、夢崎える。彼女は、所謂「メンヘラ」というやつを少しだけ発症していた。

出会い、それから三ヶ月。あっという間に両片思いに落ちた二人は、その距離を少しずつ縮めていく……。

これは面倒くさかわいい後輩と、その好意にいつまで経っても気づかない鈍感な先輩が結ばれるまでの物語。思わず「早く付き合え!」と叫びたくなるそのもどかしい過程を、是非お楽しみください。

プロローグ

 メンヘラ。それはか弱い女の子の呼称である。


 構ってもらいたい。自分を理解してほしい。でも、自分に自信が無くて。つい相手に迷惑だと分かっていても過度な行動を起こしてしまい、結果的に自責の念にかられる。


 そしてここにはそんな、メンヘラと呼ばれる人種に足を踏み入れるギリギリ……いや、少しだけ足の指を浸からせて水面をツンツンしている女の子が一人。


「ひっ、えぐっ……先輩、せんぱいぃ……」


「ああもう、泣くなって。ほら、落ち着いてゆっくり深呼吸してくれ」


 夢崎える。高校一年生。とある高校に通う彼女は今、片想いをしている先輩の胸の中で泣いていた。


 事の発端は数十分前。彼女の友達から恋愛占いの結果を聞いたことに始まる。


 その結果は最悪。今年一年は異性との進展は無し。そのうえその想い人には必ず彼女ができると言う。


 初めは気にしなかった。いや、気にしないように装っていた。でも友達と別れて、一人で寂しい帰り道のコンクリートの上を歩いているとすぐに感情が押し寄せて来て。思わず、静かに涙を溢れさせてしまった。


 そしてそこに通りかかった想い人、早乙女夏斗。こうしてピースは揃い、現状の完成である。


「何かあったのか? 今日は一段と酷いな?」


「ごめん、なさいぃ。私、私……また先輩に迷惑を……もうやだぁ」


「迷惑なんかじゃないって。ほら、ゆっくりでいいから呼吸整えて?」


 紫色の少し長い髪をそっと撫でながら慰める夏斗。その優しさに当てられて、えるは少しずつ平常を取り戻していく。


 温かな肌。細いのに心強い、そんな腕。挙げ続ければキリが無いほど、えるは彼の全てに恋をしていた。


 二人は所謂おとなりさんと言うやつで、中学三年から高校に上がる春に夏斗の隣の家に引っ越してきたえるは、あっという間に彼に惹かれた。


 今まで好きな人など出来たことはなかった。それだと言うのに気づけば理由もない恋に落ちていて、あっという間に三ヶ月の月日が流れる。


「よしよし。本当えるは泣き虫だな。せっかく可愛い顔してるのに、泣いてちゃ台無しだぞ?」


「ぐすっ、うぅ。可愛いって……本当ですか?」


「本当だよ。だから、な? 泣くのやめていつものえるに戻ってくれ」


「……はぃ」


 そっと手で目元を拭ってくれる夏斗にときめきながら、えるは泣き止んでその手を握る。


 心臓の音が相手に聞こえてしまうのではないかと思うほどに緊張して、ドキドキして。これが好きという感情であることを、本人はしっかりと理解していた。


(う、うぁ!? なんだその目は……それは、反則だろぉ!!)


 本人。そう、夏斗のことである。所謂両片想い状態がこの二人の間には渦巻いており、夏斗もまた。一つ年下のえるに恋焦がれていた。


 メンタルが弱く、すぐに泣き出してしまう。いつもどこか自分のことを責めていて、謝ってばかりの困った後輩。でもそんな彼女に、確かに彼は惹かれているのである。


 初めて会った時から、可愛らしい子だと思っていた。髪もサラサラで、顔はちっちゃくて。整った容姿に程よく膨らんだ胸元。引っ越しの挨拶に来た時はテレビの有名人が何かしらの突撃企画で訪問してきたのかと本気で思ってしまったほどだ。


 彼女は可愛い。ただ、少しだけ″メンヘラ″というのを発症している。でもそんなところも含めて、夏斗が恋に落ちるのにそう時間はかからなかった。


(くそっ、なんだこれなんだこれ! 良い匂いする! 手あったかくてちっちゃい!! ああもう、涙目のぐずぐずに弱っちゃってるところも可愛いんだが!?)


 彼らは知らない。お互いにお互いの事が好きである事を。自分に自信のないメンヘラ少女と恋愛経験のない普通の少年。一歩踏み出せば簡単に自分の望む関係になれる事を、知る術は無いのだ。


「せん、ぱぃ。手、もう少し握っててもいいですか……?」


「ん? あ、あぁ勿論。さすさすされるのはちょっと恥ずかしいけど」


「えへへ……あったかいです」





 これは、そんな二人が結ばれるまでの物語。紆余曲折しながらも進んでいく、面倒くさい二人の物語だ。

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