マリーちゃん皇帝陛下たちと楽しく夕食をいただいた、その日の夜。
マリーちゃん皇帝陛下が玉座を取り戻す詳しい詳細は明日以降お話する事として、俺とアリアさんは一旦本日の寝床となる空き部屋へと2人集まって今後の事について話しあっていた。
「つ、疲れました……。本当に今日は疲れました……」
ぼふんっ! と一国のお姫様らしくなく、ベッドへ身体ごとダイブするアリアさん。
可愛い♪
「確かに、今日は大変だったよね? 朝は俺様のエクスカリ
特に日本が世界に誇る第一狂ってる団こと【第一空挺団】でも真っ青の上空ウン千メートルからのスカイダイビング(パラシュート無し)は、マジで人生が終わったと思ったよね!
「とりあえずアレだ。次にアルシエルのクソ野郎に会ったら、まずはグーパンだな。話はそれからだ」
「ですね。次に奴に会ったらこの世に生まれて来たことを後悔させてやりましょう」
にっこり♪ と笑顔で頼もしいことを口にしてくれるアリアさん。
もう薄々感づいてはいたが、この子、姫様のクセに口悪いな? 最高かよ?
アリアさんは「う~んっ!」とベッドの上で背伸びをすると、そのまま瞳を閉じようとして「あっ」と声をあげた。
「どったべ、アリアさん? そんな隠していたエロ同人誌が俺にバレた時のような顔を浮かべて? 何か思い浮かんだの?」
「『死ね』という言葉以外なにも思い浮かびませんが……アレです。リリアナは今、どうしているのかなって思いまして」
「あぁ、確かに。別れの挨拶をする間もなく帝国に転移させられたもんな、俺達」
思い出されるのは今日の朝、一緒に俺のエクスカリ
彼女の目の前で急に転移したもんな、俺達。
「心配です……。大丈夫でしょうか、あの子?」
「もしかしたら今現在も俺達の行方を捜しているかもしれないもんな? う~ん? ……あっ、そうだ!」
俺はポケットから会社用にカスタムしていたスマホを取り出した。
何故かこの世界では俺のスマホは電気を一切消費しないチートアイテムになっていた。
どういう原理なんだろう、コレ?
「??? ナニをしてるんですか、勇者様?」
「いやナニ? 今朝俺さ、リリアナちゃんにスマホをプレゼントしたじゃん?」
「してましたね」
それが? と小首を捻るプリンセス様に、俺の個人携帯用のスマホの電話番号を見せながら、
「もしかしたら、リリアナちゃんの持っているスマホと俺の持っているスマホで通話が出来るかなって思ってさ」
「そんな不可能ですよ。ここは勇者様の居た日本と違って、電波が届いてないんですよ?」
不可能です、と鼻でせせら笑うアリアさん。
確かにその通りだ。
普通ならありえない。
でも、もしかしたら俺のスマホの充電と同じく不思議パワーで繋がる可能性があるかもしれない。
そんなふざけた一縷の望みをかけて、俺は個人用のスマホの携帯に電話した。
プルルルル♪ と心地よい待機音を聞きながら、念のためスマホをスピーカーモードに切り替える。
1回、2回、3回と待機音が鳴り続ける。
が、一向に目的の人物が電話に出る気配がない。
「う~ん? やっぱりダメか?」
「そりゃそうですよ。電波が届かないなら電話は――」
『――こ、こんばんは? え~と……どちら様ですか?」
7回目の呼び出しで奇跡が起きた。
おずおずといった様子で、スマホの向こう側からリリアナちゃんの声が俺達の鼓膜を震わせた。
瞬間、間髪入れずにガバッ! とベッドに寝転がっていたアリアさんの身体が跳ね起きた。
「うそっ!? 繋がったの!?」
『その声はお姉ちゃん!? お姉ちゃんだよね!? よかった、生きてた!』
「俺も居ますよ、お
『タマちゃん! そっかタマちゃんも一緒だったんだね!』
心の底から安堵したような声がスピーカーから響いてくる。
やっぱり心配させてたかぁ。
アルシエルの野郎、事情を説明してやってもよかっただろうに。
まったく、使えない男だ。
とヘビ族の長を心の中でこき下ろしていると、電話の向こう側のリリアナちゃんがワッ!? と声をあげた。
『というか2人共どこに居るのさ!? もう皆で国中探し回ったよ!? 疲れたよ!』
「いやはや申し訳ない」
「リリアナ、落ち着いてききなさい? ワタクシと勇者様は今、隣国のパリス・パーリ帝国に居ます」
『えっ? ……えっ!?』
なんで!? と至極ごもっともな疑問がスピーカーから垂れ流される。
そしてその愛らしい唇から『だ、だって、お姉ちゃんたち学院に居たんだよ!? それがどうしてあばばばばっ!?』と混乱の極みのようなノイズが俺達の肌を叩いた。
まったく。この場にリリアナちゃんが居れば「落ち着きなさい?」と甘く耳元で囁きながら、誰よりもクレバーに抱きしめてその瑞々しい唇を俺の唇で塞いであげている所だ。
「落ち着きなさい、リリアナ。カエル族王家の人間がはしたない。常に優雅であれ、お父様が口を酸っぱくして言ってたでしょ?」
『ゴメン、お姉ちゃん……お父さんのこと覚えてない。というか会ったことない……』
「あぁ、そう言えばそうでしたね。リリアナが物心つく前にヘビ族との戦争が始まりましたもんね? ではお父様に代わり、姉であるワタクシが今から我がカエル族王家に伝わるモットーを伝授し――」
「よしっ! 話しが進まないから勝手に喋るぞ? 実は俺達、あのあとパリス・パーリ帝国の遥か上空ウン千メートルに転移させられたんだよ。それでさ? その――」
『待って、待って!? 2人いっぺんに喋らないで!? 分からない、ボク分からないよ!?』
混乱するアリシアちゃんに構わず、俺は『パリス・パーリ帝国での出来事』を、アリアさんは『カエル族王家の心構え』をそれぞれ口にし始めた。
最初こそ困惑していたリリアナちゃんだったが、姉のありがたいお話を妄言だと切り捨てたのか、俺の話に集中し始める。
その結果、珍しくアリアさんが
「――とまぁ今日1日の出来事を纏めると、ざっとこんな感じかな。リリアナちゃん、分かった?」
『はへぇ~……。お姉ちゃんはともかく、よく生きてたねタマちゃん?』
「ホントよく生きてたよね、俺?」
今日1日で一生分の運を使い切った気分だ。
『なにはともあれ、タマちゃんもお姉ちゃんも無事で良かったよ』
「心配をかけたようでスマンな、リリアナちゃん。色々あったが一応俺とアリアさんは超元気だ。な、アリアさん?」
「…………」
「あの、そろそろ機嫌を直していただけないでしょうか……?」
むっす~っ! と分かりやすく頬を膨らませるアリア姫。
クソっ、可愛いじゃねぇか?
後ろから抱き着いてやろうかな、コイツ?
『??? お姉ちゃん、なんでそんなに不機嫌なの? あの日なの?』
「かつてここまで妹を張り倒したいと思った日はありませんよ」
「スゲェぜ、リリアナちゃん。俺達が言えないことを平然と言ってのける! そこに痺れる、憧れるぅ~っ!」
「……神様、何故ワタクシの周りにはまともな人間がいないのですか? そんなに前世で悪い事をしましたか、ワタクシ?」
何故か遠い目をしながら神に祈りを捧げるアリアさん。
急にどうしたのだろうか?
疲れたのかな?
「アリアさんもお疲れみたいだし、今日はこのあたりで切り上げるか」
『あっ! 待ってタマちゃん!?』
「うにゃん? どうした?」
『このスマホ? はどうやったら今日みたいにタマちゃんたちと電話できるようになるの?』
「あぁ、使い方ね。それは、まず――」
俺は祈りを捧げるアリアさんの隣で、通話の仕方をリリアナちゃんに教えた。
リリアナちゃんは「ふんふんっ! それで?」と女体という神秘を前にした男子中学生のような
実に教え甲斐のある女の子だ。
「――とまぁ、こんな感じだ。分かった?」
『タマちゃん、タマちゃん! 1回やってみたい! 1回自分でやってみたい!』
「あいあい。じゃあ通話を切るぞ?」
うんっ! という元気いっぱいな声を最後に、リリアナちゃんとの通話を切る。
瞬間、間髪入れずに俺のスマホの着信音が部屋に響いた。
「うわっ!? ビックリした……」と驚くアリアさんを横目に、俺はスマホの通話ボタンをタップした。
「はい、もしもし金城です。どなたさんですか?」
『コチラ
「軍曹だれぇ?」
使いこなしていた。
1人メタルギア・ソリ●ドごっこをするくらい、リリアナちゃんはスマホ通話を使いこなしていた。
流石はリリアナちゃんだ、ノリと貞操観念のユルさには定評がある女の子なだけある。
リリアナちゃんは『アハハッ!』と明るく笑いながら、
『大体わかった! コレで何時でもタマちゃん達と会話が出来るね!』
「喜んで貰えてなによりだわ。でも一応俺達の居るここは敵地だからさ? 通話をするにしても時間を決めようか」
『時間?』
「そっ。何時何分から何時何分まで間に通話をするとか、そんな感じの取り決め……というより約束かな?」
『なにそれ? 面白そう!』
作ろ、作ろ! と子作りを迫る新妻がごとき勢いで口をひらくリリアナちゃん。
ホント頭とノリの軽さは天下一品の女の子である。
パリス・パーリ帝国に強制転移した初日の夜。
俺達は遠い地に居る女の子の声を聞きながら、いつも通りの夜を過ごしていくのであった。