目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第11話 合法の向こう側へ(プルス・ウルトラァァァァァッ!)

 ――どうやら俺は自分の知らない内に大人の階段を上ってしまったらしい。


 それも禁断の、若い美人人妻と一線を越えた……っぽい。


 現在俺はパンツ一丁のまま薄汚れたソファーの上に寝かされていた。


 目の前には簡素な机が1つ。そして向こう側には小さなキッチンがあり、そこで料理をしている女性が居る。


 その人がどうやら俺の【ハジメテ】を奪った張本人らしい。


『らしい』というのはアレだ、どうも記憶が曖昧なのだ。


 未来の世界チャンプ、もといマリーちゃん皇帝陛下と拳で挨拶を交わした所までは覚えているのだが、目が覚めたらこの部屋に彼女と一緒に居た。


 青みがかった金髪にむちむちぷりん♪ なナイスバディ―をしたその女性の薬指には指輪が嵌められており、おそらく人妻であることが推測できる。


 年のころは20代前半……俺と同い年くらいだろうか?


 大人の色気がうなじから立ち上っているかのようだ。


 そこまではいい。


 問題は俺がこの人妻さんとの【ハジメテ】を一切何も覚えていないという事だ!


 これは由々しき事態である。


 もしこの場に旦那さんが襲来しようモノなら修羅場確定だ。


 事情を説明しようにも俺に記憶がない以上、説明のしようもない。


 つまりこのままでは全員地獄行きだ。


 そうならない為にも俺の【ハジメテ】を思い出さなければ!?


 と必死に脳細胞を加速させていると、例の人妻さんと目が合った。ヤッベ!?




「あっ、起きた? 思ったより早かったね?」




 心が砕けるかと思った。




「は、早かった? 早かったですか、俺?」

「うん。すっごく」




 笑顔で男のプライドを粉々してくる人妻さん。


 あと少し俺のメンタルが弱ければ出家していた事だろう。


 男として何とも情けないことを言われ意気消沈していると、


 ――ガチャリッ!


 と俺達の居る部屋の扉が開かれた。




「むっ? おぉっ、起きたか勇者殿。まったく、ちょっと股間を撫でられた位で7時間も気を失いおってからに。軟弱な奴め」

「プフッ!? ねぇねぇ、どんな気分? 今どんな気分?」

「マリーちゃん皇帝陛下……それとメスガキ」




 扉の向こう側には、我がソーセージにデトロイト・スマッシュを炸裂させ俺を天国の向こう側へプルス・ウルトラしようとしたオカッパ幼女こと、マリーちゃん皇帝陛下が居た。


 その後ろには「ぷーくすくすっ♪」と実に楽しそうに唇に笑みを作りながら、天然で俺を煽ってくるドMのメスガキことアリシアちゃんも居る。


 2人の両手にはそれぞれ『串焼き』やら『りんご飴』やらが握られていて……どうやら俺が気を失っている間に例の市場へ遊びに行っていたらしい。いいなぁ……。




「陛下、アリシア様、そろそろ晩御飯ですので間食のほどほどにしてくださいね?」

「「は~い」」




 人妻さんに返事をしつつ、ペロペロとリンゴ飴を舐めるメスガキ2匹。


 そんなメスガキの背後から、これまたリンゴ飴をペロペロしながら平民の服を着こんだ銀髪の美少女が姿を現した。




「ソーニャさんの言う通りです。間食も程々にしないとまた太りますよ、ヘビ族の姫?」

「太ってないですけどぉ!?」

「あれ!? アリアさん!? なんで俺から1メートル以上離れてるの!?」




 テキトーな事を言うな!? と噛みつくアリシアちゃんを無視して、俺は美味しそうにリンゴ飴をしゃぶるカエル族のお姫様を凝視した。


 忌々しい【使い魔契約】のせいで半径1メートル以上は離れられない俺達のハズが、アリアさんは余裕たっぷりの笑顔で俺から1メートル以上離れていた。


 どういうこと!?




「もしかして【使い魔契約】破棄出来たの!?」

「いえ、出来てないです。残念ながら」

「えっ? なら何で俺から1メートル以上離れられるの……?」

「その理由はコレです」




 そう言ってアリアさんはリンゴ飴を舐めていない方の腕を掲げて見せた。


 彼女の小枝のような華奢な手首、そこには金色の腕輪がスッポリと収まっていて……うん?




「ナニコレ?」

「それは我がパリス・パーリ帝国の宝物庫にあった魔法道具【オレイカルコスの腕輪】じゃ!」




 そう言ってアリアさんの代わりに、したり顔の幼女陛下が口をひらいた。




「この腕輪は12年前、ヘビ族の魔王が得意とした【精神干渉魔法】を阻害するべく先代のカエル族の王が我がパリス・パーリ帝国に献上した魔法道具じゃ」

「魔法の道具……ですか?」

「うむっ! この腕輪はあらゆる魔法を阻害する力を持っておる。それはもちろん『魔法で行われた契約』も含まれるのじゃ」




 そこまで言われてピーンっ! ときた。


 なるほどな、そういう事か。




「つまり俺達の【使い魔契約】の制約はその腕輪で相殺できるってワケか。ただ根本的解決ではないため、応急処置といった意味合いの方が強い感じかな? 多分その腕輪、1つの魔法しか阻害できないタイプの道具じゃない?」

「さすがは勇者様ですね。その通りです」

「ふむ? 頭の回転はまずますじゃな」

「チッ。変態のクセに頭がいいとか、どこの需要があんのよソレ?」




 何故か忌々し気にアリシアちゃんに睨まれた。


 俺の美貌に見惚れているのかもしれない。




「ナニはともあれ、スゲェなその腕輪! その腕輪があれば俺とアリアさんは別々に行動できるワケだろ? これからはお風呂とおトイレの時以外、その腕輪をずっと付けておこうぜ!」

「コラコラ坊主? 下心が透けて見えてますよ? もっとキチンと隠しなさい?」

「マジか、コヤツ? 急にクロマーク宰相と同じ小物臭がし始めたぞ? ホントに勇者なのかえ?」

「キメェ……心の底からマジキメェ……」




 女性陣から道端に落ちているエロ本を見下ろす女子高生のような冷めた目つきで見つめられる俺。


 もしかしなくても惚れられたかもしれない。




「勇者様が何を期待しているのか簡単に想像できますが、残念ながらこの腕輪は6時間までしか魔法を阻害できません」

「そうなの? えっ、それじゃ俺とアリアさんが離れたまま6時間が経過したら、俺達はどうなるの?」

「死にます」




 身も蓋もなかった。




「ま、マジで?」

「マジです。おそらく爆発四散します。……ワタクシが」

「マジで!?」

「ちなみに、もうすぐ腕輪を使用して6時間が経ちます」

「うぉぉぉっ!? あっぶねぇぇぇぇっ!?」




 慌ててパンツ一丁のままアリアさんの足元へ移動する俺。


 そのまま彼女のおみ足に縋りつきつつ「ハァハァ」と変態の呼吸を繰り返す。


 あ、危なかった……っ!?


 あと少しでアリアさんの身体が爆発四散するところだった!?


 バックン、バックン!? と町中で女子大生のパンチラに遭遇した時のように心臓が大きく跳ねる俺を横目に、アリアさんは実に飄々とした表情で腕輪を取り外した。




「なにぶん12年前の遺物ですからね、ちゃんと動くか心配でしたが杞憂のようで何よりです。今日は試作テストとして使用しましたが、これからはお風呂とおトイレと『ここぞ!』という場面ときだけ使用しましょうね、勇者様?」

「ガッデム!?」

「喜んで貰えて嬉しいです」

「喜ぶというか、悔しがっておらぬかコレ?」




 怪訝けげんそうな瞳で俺を見下ろす合法ロリ皇帝陛下。


 しかし俺はそれどころでは無かった。


 クソったれめ!?


 これで大義名分のもとアリアさんと一緒にお風呂はおろかお、俺が彼女の便器になる【人類股間計画】も不可能になったというワケか!?


 神様は一体どれだけ俺の邪魔をすれば気が済むというのだ!?


 俺がこの世の不条理を心から憎んでいると、



 ――ぐぅぅ~。



「……お腹減った」

「怒ったりお腹減ったり、毎日忙しそうですね勇者様?」




 アリアさんの嫌味にリアクションを取ることなく、パタンっ! とソファーに倒れるナイスガイ、俺。


 そういえば結局俺、市場にも行ってなければご飯すら食べてないや……。




「アリアさん、もうそのリンゴ飴でいいから頂戴? お腹が空いたよ、俺」

「嫌です。これはワタクシのです」

「じゃあマリーちゃん皇帝陛下のでいいや」

「すまんのぅ勇者殿。このリンゴ飴は皇族専用なんじゃ、諦めよ」

「ならデブアリシアちゃん、ダイエット中だろ? くれよ、その飴?」

「誰がデブだ!? 殺すぞブサイク!?」




 特に理由はない殺意が俺を襲う!




「あらあら? もう少し待ってね、勇者くん? あと少しで晩御飯が出来るから」




 そう言ってメスガキ達とは打って変わって優しい微笑みを俺に向けてくれる人妻さん。


 もう好き……抱いて?




「ありがとうございます、人妻さん。優しい……好き、結婚して?」

「唐突にプロポーズし始めましたよ、この男?」

「キメェ……マジでキェメよ勇者コイツ……」

「むっ? ソフィアは人妻ではないぞ、勇者殿?」




 ドン引きする魔法少女たちを尻目に、コテンと首を傾げるマリーちゃん皇帝陛下。


 えっ? 人妻さんは人妻じゃないの?




「いやだって、左手の薬指に指輪してるし……あれ?」

「あぁ、コレはナンパ除けのお守りです」




 そう言って恥ずかしそうに苦笑を浮かべる人妻(仮)さん。


 たた微笑んでいるだけなのに色気が凄い……エロい。




「ソフィアは我が帝国騎士団はおろか国民からも慕われる優秀な女騎士じゃからな!」

「ソフィア?」

「あっ、そういえば自己紹介がまだだったね? 私は帝国騎士団【皇帝直属】部隊所属のソフィア・ソッキーンです。よろしくね、勇者くん?」

「これはご丁寧にどうも。知的でクールなナイスガイの金城玉緒です」




 よろしくソフィアさん、と少女漫画に出てくる爽やかサッカー部イケメンのような笑みを頬に張り付ける。


 別に他意はない。


 ただ少しでも彼女の好感度を上げようとしているだけだ。……それ他意しかないんだよなぁ。




「ところで今更なんだけどさ? ここどこ?」




 ようやく周りを見る余裕が出てきた俺が辺りをキョロキョロ見渡すと、幼女皇帝陛下が「安心せい」と笑みを溢した。




「ここは勇者殿が秘密の隠し通路を通して出て来た部屋の隣の部屋じゃ。代々の皇帝陛下たちが下界で遊ぶときに使用する部屋の1つじゃよ。今はワケあって妾とソフィアが使用しておるがの」




 そう言ってリンゴ飴をカリッ! とかじるマリーちゃん皇帝陛下。


 食べているモノは愛らしいのに、なんとも貫禄のあるたたずまいである。




「さてっ! 勇者殿も起きた事だし、晩飯前に少しだけ妾たちの現状を確認しておくかのぅ」




 マリーちゃん皇帝陛下はドカッ! と俺の真横に腰を下ろすと、齧っていたリンゴ飴をビッ! と俺の方へ突き出した。


 なになに?


 食べていいの?


 幼女との間接キッスに胸をときめかせる暇もなく、マリーちゃん皇帝陛下はその愛らしい唇を震わせた。




「このリンゴ飴が現在の帝国じゃ。どうじゃ勇者殿? 勇者殿にはこのリンゴ飴がどう見える?」

「合法ロリ皇帝陛下の齧ったリンゴ飴、売るところに売ればプレミアムが付きそうに見えます。なんなら一財産儲けられそうな気配がプンプンしま――ぶべらっ!?」




 ビンタされたよ☆




「誰がロリじゃ!? 妾はピチピチの18歳、大人のレディーじゃ! この愚か者め!」

「ひぃぃぃっ!? すいません!?」

「ダメですよ陛下? 勇者くんをイジめては?」

「イジめておらん! これは教育的指導じゃ!」




 そう言て『ふんすっ!』と鼻息を荒げながらガリッ! とリンゴ飴を齧るマリーちゃん皇帝陛下。


 この幼女、かなり好戦的である。


 俺がドMのロリコンじゃないのが悔やまれる所だ。




「おい、変態勇者? 話しが進まないからお前は一旦黙ってろ」

「マリー皇帝陛下、話の続きをお願いします」




 アリアさんに話の続きを促され、マリーちゃん皇帝陛下は「う、うむ。そうだな」と食べ終わったリンゴ飴をゴミ箱に捨てる。


 ナイスフォローありがとう、アリアさん。


 あとでキスしてあげるよ。


 心の中でロイヤルドスケベに感謝の言葉を送っていると、場の空気を仕切り直すようにマリーちゃん皇帝陛下が「こほんっ!」と可愛らしく咳払いした。




「現在帝国はクロマーク宰相閣下の手により財政はボロボロ、いつ破綻してもおかしくない状況に立たされておる」

「あのデブ、皇帝陛下たちが残してくれた財産を我が物顔で使いまくっていてホント困るのよねぇ」

「うむ。ソフィアの言う通り一刻も早くあのデブから国を取り戻さなければ、パリス・パーリ帝国は600年の歴史に幕を下ろすことになるじゃろう」




 しかし問題はそこではない。


 そうマリーちゃん皇帝陛下は続けた。




「クロマークのバカはあろう事か我が帝国の地下にある【例の巨大兵器】を起動させようとしておる。それだけは何とかして阻止せねばならぬ。例えこの帝国が滅んだとしても、あの兵器だけは起動させてはならぬのじゃ!」

「【あの兵器】と言いますと……」

「グレート・ブリテンの秘宝か」




 アリアさんの言葉を継ぐように、俺が例の超古代文明の名前を口にすると、マリーちゃん皇帝陛下は小さく頷いた。




「かつてのカエル族の男達が秘宝の内部から動力炉を抜き去った為、もう二度と起動することはないと思われておった。妾もそう思っておった……あの金色の玉が現れる迄は」

「「金色の玉?」」




 自然とアリアさんと顔を見合わせてします。


 なんだろう……すごく嫌な予感がします……。


 そんな俺達の予感を倍プッシュするかのように、マリーちゃん皇帝陛下は忌々し気にその舌を動かした。




「うむ。何でも世界の半分を滅ぼしかねないエネルギーを秘めた玉らしくてな、その玉のせいでグレート・ブリテンの秘宝が起動してしまうのじゃ!」

「「…………」




 罪悪感で窒息しそうだった。




「クソっ! なんなんじゃ、あの金の玉は!? 一体どこから現れたんじゃ!? 何者なんじゃ、あの金の玉は!?」




 クソったれめ! と悪態を吐く幼女陛下。


 それは私のおいなりさんです、とは絶対に言えない雰囲気だった。


 俺は「それは大変ですねぇ~?」と教育番組のお姉さんのように毒にも薬にもならない台詞を口にしながら素早くアリアさんとアイコンタクトを飛ばし合った。




(ヤベェ!? ヤベェよ、これ!? マリーちゃん皇帝陛下の憎しみがハンパねぇよ? どうする、これ? どうなるの、これ? 『その玉、実は俺のタマタマなんですよぉ~』とかフランクな感じで言ったら許して貰えるかな、これ!?)

(いやいやいやいやっ!? 無理ですよ、無理! ほら見てくださいよ、マリー皇帝陛下のあの激怒っぷりを! あの様子からして、もしあの玉が勇者様の玉だとバレたら、間違いなくワタクシ達は市中引き回しのうえ打ち首獄門ですよ!?)




 絶対にバレてはいけません! と力強く俺に訴えてくるアリアさん。




(ワタクシ達に残された道は、マリー皇帝陛下を出し抜いて人知れず勇者様の勇者タマを奪取するしかありません!)

(出来るのか、そんなことが!? 本当に!?)

(『出来る』か『出来ない』かではありません。やるんです!)




 それしか生き残る道はありません! と、覚悟完了させた瞳で俺を見つめるアリアさん。


 確かに彼女の言う通りだ。


 タマがバレたら幼女にタマを奪われてしまうのなら、バレないように行動するしかない。


 それはつまり、皇帝陛下たちに協力するフリをして最後は彼女たちを出し抜いてタマをゲッチュするという事だ。


 ハッキリ言って高難易度ミッションもいい所だ。


 しかしソレしか俺達には生き残る術はない。


 もはや選択肢は無いに等しかった。




(どのみちグレート・ブリテンの秘宝が目覚めたら俺たち死んじゃうんだし……やったらぁ! 俺、やったらぁ!)

(えぇ、やりましょう! やってりましょう!)




 戦わなければ生き残れない。


 俺達は決意を新たに人知れず小さく頷いた。


 あと、どうでもいいんだけどさ? あの口元を抑えて『ぷっ!? くすくす♪』と笑みを噛み殺しているメスガキアリシアちゃんは、あとでオシオキしてやろうと思いました、まる!




「??? どうした勇者殿? アリア殿とそんな見つめ合って?」

「えっ、いや別に!? ただ許せねぇなぁって思っていただけです! いやホント許せねぇ! その金の玉の持ち主を見つけたら俺たちがシバいてあげますよ! ね、アリアさん!?」

「そうですね! ワタクシと勇者殿でギッタンギッタンのボッコボコにしてやりますよ!」

「て、帝国のためにそこまで……っ!? 2人とも……ありがとう」




 感極まったように目尻に涙の珠を浮かべるマリーちゃん皇帝陛下。


 そんな俺達の様子を「~~~っ!? ~~~~ッッ!!」と腹を抱えて静かに大爆笑するアリシアちゃん。


 あのメスガキはあとで人気の居ないところで説教してやるとして、今は幼女皇帝陛下の好感度を上げるとき!




「まったく! その金の玉の主は絶対にロクでもないクソ野郎ですね、間違いない! 変態ですよ、変態! 変態と言う名のジェントルマンですよ!」

「勇者様の言う通りです! きっと変態ですよ、変態! 変態のロクデナシのデリカシー皆無のブサイクに違いありませんよ!」

「……そこまで言わなくてもよくない?」




 ちょっと涙が出たのはナイショだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?