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第10話 お、俺の水島臨海工業地帯が……ッ!?(余計なことを言うから……)

「す、凄い……人がゴミのようです……」




 どこかの大佐のような事を口にしながら、階下に広がる市場へと釘付けになるアリアさん。


 その瞳はまるでお気に入りのグラビアアイドルの写真集を前にした男子高校生のようにキラキラ輝いていた。




「これがパリス・パーリ帝国……」

「そっ。これが大陸最大にして最強の兵力を持つ、パリス・パーリ帝国の日常よ」




 ふふんっ♪ と自慢気に鼻を鳴らすアリシアちゃん。


 確かに、コレは凄い!


 こんなに人口が密集し賑わっているのは、紳士の社交場と言われているコミックマーケット以外見たことがない。


 それに人々の活気に流されるように、お肉の焼ける良い匂いがココまで漂ってきて……アカン。お腹減った!




「よし、行こう! お腹も減ったし、敵情視察も兼ねて、あの市場へ行こう!」

「たまにはイイ事をいいますね、勇者様? 賛成です、大賛成です!」




 この世界に来て初めてアリアさんから全面的な同意を得られた俺は、彼女の手を握り、仕事帰りのメンスエステへと足を運ぶ社会人男性のようなワクワクした心持ちで、部屋を後に――




「はい、ストップ~。ちょい待ち2人とも」




 ――ようとして、アリシアさんに止められた。




「なぜ止めるデブ!?」

「どいてください、デブ!」

「デブ言うな!? はっ倒すぞ、腐れゴミムシ共が!?」




 アリシアさんは『アタシはデブじゃない!』と俺達に念を押しながら、




「アンタら、その恰好で市場へ行くつもり?」




 と言った。


 釣られて俺達は自分達が今着ている服を見下ろした。


 俺はハードボイルドらしい大人なスーツを、アリシアさんは装飾のほどこされたドレスを。


 俺達はお互いの顔を一瞥し、市場で楽しそうに笑い合っている人達の服装を確認し、もう一度自分たちの服装へと視線を戻した。




「う、う~ん? この服装は流石に……」

「浮きますよね……?」

「だよね? 浮くよね、コレ?」




 俺とアリアさんは何とも言えない表情で互いに頷き合った。


 なんせ市場にはスーツを着込んだ男なんて1人も居ないし、ドレスアップした女性なんて悪い意味で目立ちまくりである。


 仮にも俺達は追われている身なので、目立つ行動は控えるべきだ。


 つまり夜までこの場所に潜伏し、人気がなくなったタイミングで動くべきなのだろうが……




「嫌だ! お腹減った!? 市場に行きたい!」

「みーとぅーっ!」

「どうにかしてくれ、アリシアちゃん!?」

「えぇい!? 抱き着くな、気持ち悪い!? 言われなくてもそのつもりよ!」




 アリシアちゃんは生足にすがる俺を鬱陶しそうに引き離しながら、スタスタと窓から離れて行った。


 そのまま部屋の中に備え付けられていたクローゼットの方まで近づき、




「こうなるだろうと思って、あらかじめコッチで服を用意してあるから。好きなのを選んでチャッチャと着なさい」

「姉御!? 愛してます!」

「誰が姉御だ」




 俺達は感謝の言葉を並べながら、吸い寄せられるようにクローゼットへと移動した。


 クローゼットの中は、右半分が『男物』で左半分が『女物』で支配されていた。


 俺とアリアさんはウッキウキ♪ でクローゼットの中身を物色しつつ、




「うわぁ、どれ着ようかな? ねぇねぇアリシアちゃん? どれが似合うと思う?」

「知るか。勝手に選べ」

「ヘビ族の姫、この服を選んだのは誰ですか?」

「うん? アタシだけど?」

「なるほど……ヘビ族の末裔のクセにいいセンスですね。気に入りました」

「ほんと一言余計だな、このロイヤルビッチは!?」

「だ、誰がロイヤルビッチですか!?」




 ピーチクパーチクわめき始めるアリシアちゃんとアリアさん。


 ここで2人の間に割って入って『やめて!? 俺のために争わないで!?』と言えるような器の大きい男になりてぇなぁ……。


 なんて自分の将来性に期待しながら衣服を脱ぎ捨てパンツ一丁になっていると、


 ――ガチャッ!


 と無遠慮に俺達の居た部屋の扉が開かれた。




「敵襲ッ!?」

「もうココに気づかれたんですか!?」

「あぁ~、大丈夫。この人は味方だから。というかカエル族の姫、アンタがよく知っている人だから」

「ワタクシが知っている人……?」




 手に持っていた衣服を投げ捨て、間髪入れず逃走体勢へ入ろうとする俺とアリアさんをやんわりとアリシアちゃんが宥めた。


 その余裕の態度に俺とアリアさんが可愛く小首を傾げていると、ギギギギギッ! と音を立ててゆっくりと扉が開いていった。


 そして扉の向こう側から現れたのは……黒髪オカッパの幼女であった。




「えっ、子ども……? どこの子? 誰の子? 推しの子? アリシアちゃんの子?」

「勝手に人を人妻にするな、変態勇者」

「……うそっ? 本当に……?」




 何故か隣に居たアリアさんの瞳が大きく見開かれる。


 その瞳は驚きと感動に満ち溢れていて……えっ?


 もしかしてこの子、アリアさんの子ども?


 えっ、アリアさんは人妻だったの!?


 マジで!?


 じゃあ俺は人妻にセクハラしまくっていたというのか!?


 おいおい……興奮するじゃないか!


 と、人知れず新たなるフェティシズムの扉がガタガタと音を立ててオープンしそうになっている俺を横目に、地味な服装に身を包んだ黒髪オカッパが真っ直ぐ俺達を射抜く。




「…………」

「??? どうしたリトルガール? お兄さんの顔をジッと見て? もしかしてお兄さんがイケメン過ぎて見惚れているのかな? ごめんね、イケメンで?」




 数年後には美少女になっていると思わせる顔立ちをしたオカッパ幼女は、無言のままテケテケと俺の前まで移動して、


 ――ガンッ!


 力の限り俺の股間を右手で強打してみせた。


 この世の終わりが始まったのかと思った。




「~~~~~~~~~~~ッッッッ!?!?」

「誰が『子供』じゃ、誰が! こう見えても妾はピチピチの18歳じゃっ!」




 ふんっ! と鼻を鳴らし、悲鳴すらあげることなく膝から崩れ落ちる俺を一瞥するオカッパ幼女。


 こ、このクソガキ!?


 適確に人のセンチメンタル・ポイントを狙ってきやがった!?


 アカン!?


 俺の日経平均株価が大暴落だ、うごごごご……っ!?




「すぅ~はぁ~……すぅ~はぁ~……っ!?」

「ぷひゃひゃひゃひゃっ!? ざまぁ、勇者ざまぁ!」




 少しでも痛みを和らげるべく全集中の呼吸を繰り返す俺を、最高の笑顔で見下ろすアリシアちゃん。


 その顔はなんともハツラツとした良い笑顔で……このドMのメスガキが!?


 もう1回失禁させてやろうか!?




「ねぇねぇ? 今どんな気分? どんな気分なの? ねぇねぇ? ねぇねぇ!?」

「クソが……ッ!? テメェら、後で覚えておけよ……っ!?」




 心の中の絶対許さないリストの中に黒髪オカッパとアリシアちゃんの名前を付け足す。


 いつか絶対このメスガキ共に復讐してやる。


 1人静かに覚悟完了させながら、少しでもおいなりさんの痛みを和らげるべく波紋の呼吸で回復をはかる。


 そんな俺を尻目に、あのタマキンブレイカーこと黒髪オカッパ幼女はアリアさんと向き直った。


 イケない!?


 今度はアリアさんが狙われているぞ!?


 逃げて、アリアさん!? 超逃げて!?


 黒髪オカッパはアリアさんに向かって拳を振り上げる……ことなく、ニヤッ! と頬に笑みをたたえた。




「久しいな、リバース・ロンドン王国の女王代理よ。息災であったか?」

「……驚きました。生きておられたのですね、皇帝陛下?」

「当然じゃ! 妾があの程度の謀反むほんで死ぬようなタマに見えるか?」




 ふふんっ! と傲岸不遜にも、その薄い胸を逸らしてニヒルに微笑む黒髪オカッパ。


 その口調と笑みにはどこか人の上に立つ凄みのようなモノが感じられて……えっ?


 何者だの、このオカッパ?


 困惑する俺に、上機嫌のアリシアちゃんがそっと耳打ちをしてくれた。




「教えてあげる。あのお子様にしかみえない幼女の名前はマリー・アントニオ女王陛下。このパリス・パーリ帝国の本当の皇帝よ」

「え? ……えっ!? 皇帝!? 皇帝陛下!?」

「いかにもじゃ」




 アリアさんから視線を切り、いまだうずくまっている俺に向かって黒髪オカッパは……いや本当の皇帝陛下は口を開いた。




「妾は600年の歴史があるこのパリス・パーリ帝国の正統後継者にして、第50代皇帝のマリー・アントニオじゃ! 気軽に『マリーちゃん』とでも呼ぶがよい!」

「マジかよ……」




 マジじゃ! と頷くマリーちゃん皇帝陛下。


 その立ち振る舞いや自信に満ちた笑顔から、理屈ではなく直感で理解する。


 多分、この人は本当にこの国の皇帝だ。


 頭ではなく、本能が理解した。


 それだけに、俺の困惑は計り知れなかった。


 もはや本物の皇帝陛下を前に、何を言っていいのか分からなくなる俺。


 色々と聞きたい事は多々あるが、とりあえずコレだけは今ハッキリと言える。


 俺はおいなりさんの痛みをこらえながら、爆笑する膝に力を入れ、ゆっくりと立ち上がり――




「その容姿ナリで18歳は無理がありませんか?」

「――フンッ!」




 瞬間、間髪入れずに皇帝陛下の右ストレートが俺の下半身の油田ゆでんに吸い込まれるように放たれた。


 刹那、俺の悲鳴という名のファンファーレと共に第二次オイルショックが開幕した。


「ナイスショット!」「ファーッ!?」と声をあげるアリシアちゃんとアリアさん。


 そんな彼女たちの真横で油断なく残心をとるマリーちゃん皇帝陛下。


 あまりの激痛に意識が薄れていく中、俺は1人確信した。


 この右は世界を狙えるな、と。

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