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第9話 ころしゅっ!? こいつ絶対ころしゅっ!?(アッハッハッハッハ! ツンデレかな?)

「ころしゅっ!? 絶対いつかお前をころしゅっ!? 覚えてろ、この変態勇者め!?」

「ハッハッハッ! ツンデレかい、アリシアちゃん?」

「ここまで殺意を向けられても爽やかに笑える勇者様のメンタルは、一体どうなっているんですか?」




 もう純粋に怖いです……と何故かドン引きした様子のアリアさんの声音が肌を叩く。


 メスガキもといアリシアちゃん【失禁ドM事件】から10分後の隠し通路にて。


 俺達はプンスコ憤るアリシアちゃんを先頭に、スタスタと薄暗い通路を歩いていた。




「この作戦が終わったら絶対ころすっ! ぶっころす!」




 ブツブツと呪詛のように俺への殺意をまき散らすアリシアちゃん。


 惚れられたかもしれない。




「まぁまぁ? 落ち着けよメス豚?」

「誰がメス豚だ!?」

「凄い……流石は勇者様です。天然であおっていくそのスタイル、地獄に一番乗りする気マンマンじゃありませんか」




 3人で楽しく談笑しながら薄暗い通路を歩いて行く。




「勇者、おまえ本当に調子に乗るなよ!? アタシがその気になればな、お前なんて一瞬でぶっ殺せるんだからな!」

「朝から運動したせいかな? お腹空かない?」

「確かに。ちょっと小腹がすきましたね」

「人の話を聞けぇぇぇぇぇぇっ!?」




 ムキーッ! と唐突に怒り始めるアリシアちゃん。


 怒った顔もプリティーである。




「どうした、アリシアちゃん?『あの日』か?」

「で、デリカシーッ!? キサマにはデリカシーが無いのか!?」

「乙女になんて質問をしているんですか、勇者様……」

「あっ、そっか……ごめん。もしかしたら、まだ始まってすらいないかもしれないもんね?」

「ま、毎月きとるわ! このバカ者め!」

「配慮の仕方が明後日すぎる……」




 俺なりに全力で気をつかったつもりだったのだが、何故かレディー達には大不評であった。


 アリシアちゃんは首筋まで顔を真っ赤にしてプンスコしているし、アリアさんに至っては……何だあの瞳は?


 人間に向ける瞳じゃないよ?


 ゴミムシを見る瞳だよ?


 俺がドMなら膝から崩れ落ちている所だ。




「何故アタシがこんな目に……というか!? そもそもアタシが助けなくても、カエル族の姫が魔法でどうにかすればよくなかった!? アンタならあの場を切り抜ける魔法が使えるハズでしょ!?」




 アリシアちゃんは『ハッ!?』と何かに気づいたような表情を浮かべるや否や、物凄い勢いでアリアさんを糾弾し始める。


 そんなメスガキを前に、アリアさんは何故か余裕な表情で、




「出来たらとうの昔にやっています」

「出来たらって……あれ!? あ、アンタ、何で魔力が枯渇してるの!?」

「今頃気が付いたんですか?」




 やれやれですね、と某奇妙な冒険に出て来る主人公のように肩をすくめるアリアさん。


 その態度に腹が立ったのか、こめかみをピキピキッ!? 言わせ始めるアリシアちゃん。


 やめて!? 仲良くして!?




「あ、アリシアちゃん、他人の魔力が見えるの? スゲェじゃん!」




 空気の読めるナイスガイである俺が、場の雰囲気を変えるべく、テキトーにメスガキを褒めちぎると、アリシアちゃんは「えっ?」という顔で俺を見てきた。


 かと思えば満更でもなさそうな表情で「ま、ま~ね~っ!」とドヤ顔を浮かべてみせた。


 どうやら褒められたのが嬉しかったらしい。


 チョロ過ぎないか、この


 ちょっとお兄さん、将来が心配になっちゃうなぁ。


 アリシアちゃんが悪い大人に騙されないか心配していると、彼女は今日初めて見せる笑顔で上機嫌に唇を動かした。




「基本的に魔法使いの身体からは、青白い魔力の粒子みたいなモノが溢れ出ているのよ。もちろん普通の人間には見えないわよ? アタシレベルの超一流の魔法使いだからこそ見えるの! 凄いでしょ!」

「すっげぇ! アリシアちゃん、すっげぇ!」

「そうでしょ、そうでしょ!」

「何を嘘ばっかり……一流とか二流とか関係なく、魔法使いなら全員他人の魔力量を目視することが出来ますよ」




 そう言ってボヤくアリアさんを無視して、上機嫌に笑うアリシアちゃん。


 良かった、どうやら機嫌は戻ったらしい。


 ほんとチョロいな、この娘?


 将来ホストとかに貢いで破産しないか心配だ。


 なんて思っていると、調子に乗り始めたメスガキが俺の身体全体を凝視し始めた。




「気分がいいし、特別にアンタの魔力量も見てあげる!」




 アリシアちゃんはそう言って頼んでもいないのに「むむむむむ~?」と俺の見つめながら眉間にシワを寄せ、




「――えっ? ナニコレ?」




 急に驚いたような顔を浮かべた。


 その表情は夜中に露出狂と遭遇した女子高生のように真っ青で……えっ?




「な、なになに? なんでそんな顔するの? 怖いんですけど?」

「勇者アンタ……マジで何者なの?」

「えっ? えっ? ナニが!? 怖い!?」




 神妙そうな顔を浮かべて俺を真っ直ぐ射抜くアリシアちゃん。


 そんな彼女を横目に、アリアさんが『チッ、気づいたか』とでも言いたげな表情で顔をしかめていた。


 ちょっと? 2人だけで分かり合ってないで、俺にも説明してください!




「カエル族の姫」

「何ですか、ヘビ族の姫?」

「――本当にこの勇者は異世界人なのか?」

「…………」




 俺を無視してアリシアちゃんの瞳が真っ直ぐアリアさんを捉える。


 その瞳は真剣そのもので……えっ? えっ?


 急にシリアスぶっこんでくるんですけど?


 前半と後半の温度差で風邪を引きそうなんですけど!?


 困惑する俺を無視して、しばし見つめ合うアリシアちゃんとアリアさん。


 耳が痛くなるほどの静寂が俺達の間を支配した。


 俺はらしくもなく2人の間でオロオロッ!? していると、唐突にアリアさんが「フッ」と口角を緩めた。




「何を疑っているのかは知りませんが、異世界人ですよ。勇者様は」

「嘘を吐くな。このオーラ、どう見ても――」

「ヘビ族の姫」




 アリアさんはさらに言いつのろうとするアリシアちゃんに向かって一言、







 それっきり再び黙り込むアリアさんとアリシアちゃん。


 く、空気が重い!?


 もう愛していない女の身体より重いよ!?




「……分かった。今はそれでいいや」




 フッ、とアリシアちゃんの身体から発していたプレッシャーが弱まる。


 それに呼応するかのように、アリアさんの雰囲気も柔らかいモノへと変わっていった。


 今だっ!


 空気を吸え、タマオ・キンジョーッ!


 酸欠の金魚のようにパクパクと酸素を肺へ送り込む。


 それだけで身体中の細胞が歓喜に沸いた。


 空気が美味しい!


 生きててよかった!


 なんて思っていると、俺達は行き止まりへと到達していた。




「どうせコレ以上聞いても答える気なんてないみたいだし。それにもう出口だしね」




 アリシアちゃんはアリアさんから視線を切り、壁に埋め込まれたスイッチをポチッ! と押すと、


 ――ゴゴゴゴゴゴッ!


 と行き止まりだと思われていた壁が音を立てて横へスライドした。




「1時間ぶりのシャバの空気を吸わせてあげる」




 感謝しなさい! とドヤ顔を浮かべながら、壁の向こう側へと歩みを進めるアリシアちゃん。


 彼女の後ろ姿を見つめながら、俺とアリアさんは一度だけお互いの顔を見やり、小さく頷いた。


 これが罠だろうが、今は彼女しか頼れる人はいない。




「行くか」

「ですね」




 毒を食らわば皿まで。俺達は覚悟を決めてアリシアちゃんの後を追いかけた。


 壁を抜けると……そこは素朴な民家だった。




「えっ、どこココ? 民家? ふ、不法侵入で捕まらないかな!?」

「落ち着いてください、勇者様。どうやらあの壁の穴には転移魔法がほどこされていたみたいですよ?」

「さっすがカエル族の姫、目聡めざといね。その通り、ここは王城から離れた町の中央にある借宿の2階の部屋。そして――」




 アリシアちゃんはツカツカと窓辺の方まで移動すると、その若干年季の入っている窓を思いっきり開けた。


 途端に生暖かい春風と共に、どわっ! と活気のある怒声が俺の鼓膜を震わせた。


 俺とアリアさんは導かれるように窓の方へと歩みを進める。


 窓の向こう側、そこには――実に活気あふれる市場が広がっていた。




「おぉっ!?」

「こ、これは……!?」

「歓迎するわ、異世界の勇者とカエル族の姫」




 目を丸くする俺達に、アリシアちゃんはニンマリの笑ってこう言った。




「――ようこそ、パリス・パーリ帝国へ」

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