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第8話 解放のケツドラム(ちょ、お尻を叩くんじゃ――ひゃん!?)

 小太りのデブことをクロマーク皇帝代理から命からがら逃げだすことに成功して5分後の城内にて。


 俺とアリアさんはメスガキ異世界代表ことアリシア・ウエストウッドちゃんと再会していた。




「アンタら、アタシがあそこで現れなかったらマジで人生終わってたわよ?」

「もしかして、あの卑猥なピンク色の煙幕はアリシアちゃんの?」

「卑猥言うな!? はっ倒すぞ!?」




 子犬のようにキャンキャン吠えながら、がるるるるるるるるっ! と小さく俺を威嚇するアリシアちゃん。


 惚れられたかもしれない。




「煙幕魔法を使わないと切り抜けられそうになかったから仕方なくね」




 そうぶっきら棒に言いながら、俺達を先導して城内を駆けるアリシアちゃん。


 そんなメスガキ魔法使いを前に、アリアさんは『意味が分からない』とばかりに小首を傾げた。




「な、何故アナタがワタクシ達の味方を……?」

「あぁっ? もしかして、お兄様から聞いてないの?」




 アリアさんを一瞬だけ一瞥しながら、不可解そうに眉根を寄せるアリシアちゃん。


 そんな彼女を前に、俺は1人納得していた。




「なるほど。アルシエルの言っていた『協力者』はアリシアちゃんだったのか」

「なんだ、聞いてるじゃないの。そっ。アタシが帝国に居る間、アンタらをバックアップする協力者その1よ」

「協力者その1……ですか?」

「その言い分だと『その2』『その3』が居そうだね?」

「まぁね。そこら辺は城を脱出してから教えてあげる――っとぉ。着いたわよ」




 軽快な足取りで俺達を先導していたアリシアちゃんの足がピタリッ! と止まる。


 どうやら目的地に着いたらしい。


 俺とアリアさんは妙に埃っぽい部屋の中で辺りをキョロキョロ見渡しながら、こてん? と2人同時に首を捻った。




「何この部屋? 何もないけど?」

「もしかして間違えましたか?」

「大丈夫、この部屋で合ってるから。え~と……確かこの床あたりに……」




 そう言ってレンガで出来た壁をペタペタ触り始めるアリシアちゃん。


 本当に何をしているんだろうか?


 なんて思っていると、



 カチッ――ゴゴゴゴゴゴッ!



 と突然壁の一部が横へスライドした。




「えっ、なになに!? 怖いっ!?」

「あっ、見てください勇者様! 隠し通路ですよ!」

「そっ。これはパリス・パーリ帝国の歴代皇帝たちが街へ遊びに行く時に使っていた隠し通路よ」




 どやぁ! と自慢気にドヤドヤし始めるアリシアちゃん。


 可愛い。


 分からせたい。


 胸に芽生えた特殊性癖の目覚めにドギマギしている俺を横目に、アリアさんがいぶかし気にアリシアちゃんを見つめた。




「何故アナタがこの道を知っているんですか?」

「それも城から脱出出来たら教えてあげる。……っと言っても、多分アンタなら嫌でも自分で気づくでしょうけどね」

「??? それはどういう意味ですか?」

「へい、お嬢さんたち? 言い争うのも結構だが、まずはここから脱出しようぜ?」




 少々廊下の方が騒がしくなってきた。


 おそらくこの部屋が見つかるのも時間の問題だろう。


 アリアさんとアリシアちゃんは暫しの間、お互いに無言で見つめ合っていたが、不毛と判断したのか、どちらかともなく溜め息を溢した。




「そうですね。今は脱出することに専念しましょう。ヘビ族の姫よ、はやく案内してくださいまし」

「命令すんな、カエル族の姫。言われなくても案内するわ」

「あれ? もしかして2人とも、仲悪い感じで?」




 何を今更? とアリアさんに鼻で笑われつつ、先行して隠し通路の穴へと手を伸ばすアリシアちゃん。


 ギリギリ人1人分通れそうな大きさの穴に手をかけ、コチラに振り返り、




「アタシが先行するから、後をついてきて。遅れたら問答無用で置いて行くから」

「本当に大丈夫なんでしょうね、この道?」

「安心しな。前に通った時に安全は確認済みだから。ほら行くよ?」




 そう言って、隠し通路の穴へと頭を突っ込んで――


 ――むぎゅっ!?


 お尻が引っかかった。




「あ、あれ?」

「どうかしたの、アリシアちゃん?」

「な、何でもない! ちょっと待ってるがいいわ!」




 何故か上ずった声音でそう口にするアリシアちゃん。


 途端に彼女のお尻がグッ! と突き出すような感じで俺の方へと差し出される。


 そのまま何を思ったのか、右にふりふり♪ 左にふりふり♪ と不思議なダンスを踊り始めて……おいおい?


 なんだ、このメスガキは?


 俺を誘っているのか?


 仕方がないな、どれどれ?




「勇者様、ダメですよ? オイタをしては」

「じょ、ジョーク、ジョークッ! 異世界人ジョークッ! ハハッ!」




 誘われるがまま彼女のお尻に指先を伸ばそうとして、パンッ! とアリアさんに手を叩かれる。


 その瞳はウ●コに沸いたウジ虫を見るように冷たくて……おっとぉ?


 今、確実にアリアさんの中の俺の株価が大暴落した音が聞こえたぞぉ?


 イカンッ!? なんとか信頼を取り戻さなければ!




「おーい、アリシアちゃ~ん? 遊んでないで早く行ってよぉ?」

「別に遊んでなんかっ!? ……いえ、そうね。ちょっと待ってなさい、すぐ通るから!」




 そう言って、彼女のホットパンツに包まれたピチピチのお尻が暴れ牛のごとく上下左右に跳ねまわり始めた。


 ぶんぶんぶんぶんっ! と勢いよくお尻を振る彼女。


 その必死極まりない姿を前に、アリアさんが何かに気づいたようにポツリと言葉を溢した。




「……もしかして、お尻が引っかかって通れないんですか?」

「ッ!?」




 ビクッ!? とアリシアちゃんのお尻が大きく震えた。


 かと思えば、今度は小刻みに震え始めて……はっは~ん? なるほどな。




「アリシアちゃん、もしかして太ったの?」

「太ってない!? 太ってないもん!」




 アリシアちゃんのお尻が吠えた。




「アタシ、太ってないからね!? ホントだからね!?」

「でも、デブったから通れなくなったんでしょ?」

「お尻に脂肪がついたワケですね」

「ついてないもんっ! デブってないもん! ただ帝国のお菓子料理が美味しくて、ちょっと食べ過ぎただけだもん!」

「なるほど。甘いモノを食べ過ぎた、と」

「そりゃデブりますよ。ご愁傷様です」

「あ、憐れむな!? アタシを憐れむな!? 違うから!? ホントに違うから!? アタシ、デブじゃないから!?」




 若干泣きが入っているアリシアちゃんが、半ば叫ぶような形で言い訳を口にし始めると、廊下の方が騒がしくなってきた。




「おっと、遊んでいる場合じゃないな」

「そうですね。はやく通ってください、このデブ」

「またデブって言った!? 体重52キロジャストのアタシにっ!? またデブって言ったな!?」




 もう絶対に許さんからな、カエル族の姫め!? と泣きながらキレるアリシアさんの怒声に導かれるように、廊下の向こう側から兵士たちの声が俺達の耳朶を叩いた。




『おいっ! 今、このあたりから女の声がしなかったか!?』

『オレも聞こえた。おそらく聞き間違いじゃない!』

『探せ! この辺り一帯の部屋をくまなく探せ!』




 衛兵たちの声と共に、近くの扉がバタンッ! バタンッ! と開かれていく音が部屋の中に木霊する。


 その音はだんだんと俺達の居る部屋へと近づいてきていて……ちょっ!?


 ヤバイ、ヤバいッ!?


 気がつくと俺はアリシアさんのケツを引っ叩いていた。




「アリシアちゃん、はやく! はやく通って!」




 ――パンパンパンパンッ!




「あひんっ!? ちょっ、バカ!? どこ触って、というか叩いて!?」

「文句は後々あとあと! 見つかる、見つかるから!」




 ――パンパンパンパンパンパンパンッ!




「はひんっ!? ま、またったな!? お兄様にも打たれた事ないのに!?」

「打って何故悪いか!?」

「あの? 茶番はいいので、はやく通ってください」

「茶番いうな!? アタシだって必死に――あひゅん!?」




 ――パパパパパパパパーンッ!




「ちょっ!? ダメ!? そこはホントにっ!?」

「ダメじゃない! はやく行け! 行くんだアリシアちゃん!」

「い、嫌だ!? イキたくない!?」




 ――パパパパパパパパーンッ!




「はひはひはひっ!? だ、ダメダメ!? で、出ちゃう!? 出ちゃうから!?」

「出てっ! はやく出て、アリシアちゃん!?」

「うわぁ……」




 アリアさんのドン引きした声音が耳朶を打つ。


 そんな彼女の声を打ち消すように、アリシアちゃんのもだえ苦しむ声が部屋の中を木霊した。


 何故悶えているのか尋ねたいこと山の如しだったが、廊下に居る衛兵たちの声が大きくなっていくのを感じ、構わず彼女の尻を叩き続ける。


 時間がない。


 はやく通ってくれ!?


 俺は祈りにも似た気持ちで、彼女の形の良いまぁ~るいお尻がシバキ続けた。




「うぉぉぉぉ~~っ!? はやく、行ってくれぇぇぇぇっ!?」

「だ、ダメダメ!? イッちゃダメ!? イッちゃ、あっ!? あっ!? あっ!? あぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!?」




 ――スパァァァァンッ!




 渾身の力で彼女のプリケツをしばいた所で、




 ――スポンッ!




 と音を立ててリリアナちゃんのお尻が隠し通路の向こう側へ落ちていく。


 キタッ!


 空いた!


 俺は何故か右手に残る湿った感触を無視して、穴の中へと飛び込んだ。




「アリアさんも早く! ……なんでそんな変態を見る目で俺を見るの? 反抗期なの?」

「どちらかと言えばドン引きです。勇者様、あなたマジですか……?」

「??? よく分からんけど、はやく!」




 ハリーアップ! と彼女の左手を無造作に掴み、無理やり隠し通路の中へと引っ張った。


 全員が隠し通路の向こう側へと着地した瞬間、俺は間髪入れずにすぐ横のボタンをダンッ! と押した。


 そしてまた音を立てて閉まっていく隠し扉。


 扉が完全に閉まると同時に、バンッ! と部屋の中に衛兵たちが雪崩れ込んでくる気配が肌を叩いた。


 すかさず俺とアリアさんは通路の向こう側の部屋へと耳をそばだてる。




『ここにも居ないか……』

『隊長、他の部屋も探しましたが人影らしいモノは見つかりませんでした!』

『チッ、ハズレだったか……。他を探すぞ、着いて来い!』

『『『ハッ!』』』




 オッサンの野太い声と共に、部屋の扉がバタンッ! と閉まる。


 それと同時に複数の足音が遠ざかっていく音が俺達の耳朶を震わせた。


 俺とアリアさんは、しばらく無言でその場をやり過ごし……




「「……ぶはぁぁぁ~~っ!?」」




 2人同時に盛大に溜め息を溢した。




「た、助かったぁ~っ!?」

「ギリギリ紙一重でしたね?」




 互いの両手をガッシリ掴み、逃げのびた事を喜び合う。


 本当にタッチの差だった……。


 あと1秒遅ければ、掴まっていたのは確実に……おぉっ。


 想像するだけで恐ろしい!?




「アリアさんがあの小太りの皇帝代理に向かって俺のことを【自分の婚約者】だなんて嘘を言い始めた時は『このクソアマ、その戯言ざれごとばかりほざく唇を俺の唇で塞いでやろうか?』と本気で思ったけど、終わり良ければすべて良し! 不問にするよ!」

「ワタクシも勇者様がヘビ族の姫のお尻を全力でスパンキングし始めた際は『この男、うら若き乙女のお尻でSMプレイをし始めやがった!?』と本気でドン引きしましたが、今は気分がいいので見逃してあげますね? 良かったですね? 次に会うのが法廷じゃなくて?」

「ハッハッハッハッ! このクソアマめ? 相変わらず減らず口の減らない女だ」

「それはお互い様ですよ?」




 互いの健闘をたたえ合いながら、パンパンと肩を叩く。


 間違っても腰と腰をぶつけあっている音じゃない。




「アリシアちゃんも、ありがとう! おかげで俺達、命拾いした、ぜ……えっ?」

「がるるるるるるるるっ!」




 ここまで導いてくれたメスガキに感謝の言葉を送るべく、地面にへたり込んでいるアリシアちゃんに視線を滑らせ……全力で威嚇された。


 瞳に涙の膜を作り、片手でお股を押さえながら、親の仇のように俺を睨んでくるアリシアちゃん。


 その瞳はとんでもねぇ性犯罪者を糾弾きゅうだんするように鋭くて……えっ?


 何でそんな怒ってるの?




「アリシアちゃん? どうしたの、そんな怖い顔して?」

「アタシの傍に近寄るなぁぁぁぁぁ――ッ!」




 どこかのギャングのボスのような事を口にしながら「フシューッ! フシューッ!」と子猫のように息を荒げるアリシアちゃん。


 どうしたのだろうか?


 発情期なのだろうか?


 はて? と小首を傾げる俺に向かって、一部始終を見ていたアリアさんが『うんうん』と頷いた。




「そりゃこうなりますよ。あんな事をされたら乙女なら全員こうなりますよ」

「あんな事って?」

「好きでもない男にお尻をぶっ叩かれる事です」




 そう言ってアリアさんは、いまだ子猫のように警戒を解かないアリシアちゃんを同情の眼差しで一瞥して、




「好きでもない男に尻をぶっ叩かれて、それで気持ち良くなって失禁したワケですからね? ワタクシなら無言で自殺を選びます」

「失禁?」

「わーっ!? わーわーわーっ!?」




 それ以上言うな! と言わんばかりにわめき始めるアリシアちゃん。


 そんなアリシアちゃんをよく見れば、下半身……というかお股のあたりに変な染みと水たまりが出来ているのが確認できた。


 その瞬間、数多の難事件を解決してきた俺の灰色の脳細胞が音を立てて回転し始める。


 お股の染み、地面の水たまり、半泣きのアリシアちゃん、紅潮する頬、若干荒い時……。


 そして時折、モノ欲しそうに揺れる彼女のお尻。




「なるほどな」




 真実はいつも1つだ。


 俺は全てを悟った菩薩のような温かい優し気な微笑みで、彼女の名前を呼んだ。




「アリシアさん」

「いや!? 言わないで!?」




 聞きたくない! と首を横に振るメスガキを前に、俺はハッキリと言ってやった。




「君は……痛いのが気持ちいいドMさんなんだね?」

「ひ――」




 その日、パリス・パーリ帝国城内に響いた小さなメスガキの悲鳴を俺は絶対に忘れないだろう。

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