「おら、キリキリ歩け! この犯罪者ども!」
「
「多分それでは意味が通じませんよ、勇者様……」
俺とアリアさんがパリス・パーリ帝国の衛兵に捕まって1時間。
俺達は千葉県に存在する某夢の国の中にあるシ●デレラ城を彷彿とさせる城の中まで連行されるなり、『玉座の間』と呼ばれる広い部屋へと連れて来られていた。
「ピーピーうるせぇな? 犯罪者の分際で?」
「犯罪者? おいおい何言ってんだ、このテッペンハゲは? オバQみたいな頭しやがって。冗談はその頭だけにしてくれよ」
「あぁん!?」
「――と、アリア姫が
「えっ、ナニソレ!? 言ってない!? ワタクシ、言ってないです!?」
違う、違うっ!? と諦めなくても試合終了が確定しているハゲの衛兵に向かって首を横に振るアリアさん。
焦っている彼女の可愛いなぁ、好き♪
そんな茶番を繰り返していると、玉座の間の中央でいかにも王様が座っていそうな、やたら煌びやかな立派な椅子に腰を下ろしている小太りのデブの姿を発見する。
全身が無駄に金ピカで、下品なくらい宝石を身に纏っている小太りを前に確信する。
間違いない、コイツがアルシエルが言っていたムカつく小太りのデブだ。
名前は確か――
「クロマーク皇帝代理、手配中の男女2名を連れてまいりました」
「うむ、よくやった」
そう言って下卑た笑みを浮かべ、玉座から立ち上がるクロマーク皇帝代理。
そのままスタスタと俺……というかアリアさんの近くまで歩いて寄って来る。
「お久しぶりですな、アリア殿! 2年ぶりでしょうかな? いやはや、またお美しくなられたようで!」
「……お久しぶりです、クロマーク宰相閣下。閣下もお変わりないようで何よりです」
「閣下ではありませんよ、アリア殿。今はアナタと同じ皇帝代理です」
ふすふすっ! と鼻息を荒くさせながら、彼女の匂いを肺一杯に吸い込むクロマーク皇帝代理。
アリアさんは嫌悪で歪みそうになる顔を必死に理性の力で押さえつけながら、プルプルと拳を小刻みに震わせ続ける。
そんな彼女の様子などお構いなしに、クロマーク皇帝代理のネットリとしたいやらしい視線は、アリアさんの豊満な身体を捉えて離さない。
上から下へ舐めるように彼女の身体を視界に収め「ふひっ♪」と気持ちの悪い笑みを溢す。
が、アリアさんの手首に荒縄が食い込んで赤くなっている事に気づくや否や、あのハゲの衛兵をジロリッ! と睨んだ。
「おい? 男の方はともかく、アリア殿には手荒なマネはするなとワシは言ったハズだが?」
「し、しておりません!」
緊張で声を上ずらせるオバQ。
俺は先ほどの意趣返しとして、茶目っ気たっぷりの言葉を皇帝代理に投げつけた。
「いえ、この人アリア姫の胸を揉んでいました」
「よし、殺すわ。死ね」
――ズバァァァァンッ!
クロマーク皇帝代理は腰にぶら下げていた剣を引き抜くなり、オバQの首を容赦なく跳ね飛ばした。
鮮血が玉座の間を濡らす。
…………はっ?
「宰相閣下ッ!? 一体ナニを!?」
何ら躊躇いなく自分の部下の首を切り飛ばしたクロマーク皇帝代理に、アリアさんが声を荒げる。
そんな彼女に『大丈夫、心配しないで♪』と優しい微笑みを浮かべながら、頬についた返り血を袖で拭う皇帝代理。
皇帝代理はアリアさんから視線を切ると、一瞬で肉塊となったオバQを前に、冷めた目つきで横に控えていた衛兵たちに命令を飛ばした。
「片付けろ」
「「「「ハッ!」」」」
スタスタと部屋の外へと運ばれていくオバQ。
そんなオバQを横目に、俺は確信した。
ヤバイ……この男、冗談が通じないタイプの男だ。
「いやぁ、すまないねアリア殿? 部下の教育が行き届いていなかったようで。本当に申し訳ない。今、縄を解いてあげるからね?」
「クロマーク宰相閣下……アナタ自分が何をしているのか分かっているのですか?」
「宰相ではありませんよ? アナタと同じ皇帝代理です、アリア殿」
アリアさんの荒縄を剣で切り落としながら、パパ活をエンジョイしているスケベ親父のように、だらしなく目尻を垂れ下げるクロマーク皇帝代理。
その瞳には完全にアリアさんしか映っておらず……はっは~ん?
なるほどな。
2つ分かった。
1つはこのスケベ親父はアリアさんにご執心だという事。
そしてもう1つは、独占欲が強いのかアリアさんに近づくお邪魔虫は問答無用で排除する事だ。
つまり今、【使い魔契約】のせいで彼女と半径1メートル以上離れられないことを皇帝代理に知られれば、間違いなく俺はこの場で殺されるだろう。
もう絶対にバレるワケにはいかなくなった。
絶対にだ!
「そう怒らないでくださいよ、アリア殿? 同じ『王』として仲良くしましょうよ、ね?」
「いけしゃあしゃあと、よく回る口ですね? 理由も聞かず無実の民を断罪した時点でアナタは王じゃない。王だとしても暴君だ!」
「暴君でも王は王です。それに王を守るのは民の仕事。なら民の命は王のモノ。そしてこの国の王はワシです。ならワシのモノをどう扱おうがワシの勝手です。違いますかな?」
「違うっ! 王を守るのが民の仕事なら、民を守るのもまた王の務めだ!」
「まったく。ああいえばこう言う……困ったお人だ」
クロマークは愛おしそうにアリアさんを見つめながら肩を竦める。
もはや何を言ってもこの小太りのデブには届かないだろう。
この弱者から搾取するのは当たり前という思考……気に食わない。酷く気に食わない。
正直、両手首が荒縄で拘束されていなければ、その横っ面を全力で引っ叩いている所だ。
「まぁ、その気高き魂の美しさがあるからこそ、ワシの伴侶として相応しいんですけどね」
「……伴侶?」
「はい。アリア殿には我が国に不法入国した罰として、ワシの伴侶に――妃になって貰いますわ」
アリアさんの顔が初めて嫌悪に歪んだ。
「正気ですか、クロマーク宰相閣下?」
「だから皇帝代理ですってば、アリア殿。もちろん正気です。パリス・パーリ帝国の皇帝とリバース・ロンドン王国の女王の結婚……もはやこの世界で我々に逆らう民族はいなくなるでしょう!」
「なるほど。カエル族の魔法による国力強化が目当てですか?」
「それもありますが、純粋にアナタが好みなんですよ、アリア殿」
そう言ってクロマーク皇帝代理は『に……っちゃり』と粘着質に微笑んだ。
「月の女神に祝福されたかのような銀色の髪。誰もが見惚れる絶世の美貌。そして男を虜にするそのスケベな身体っ! ワシはねアリア殿、アナタが小さい頃からアナタをワシのお嫁さんにしたくて仕方がなかった!」
うぇっへっへっへっへっ! と脳内でアリアさんを裸にひん剥いているのか、下品に笑い始めるクロマーク皇帝代理。
コイツはまた、救いようがないドスケベ親父である。
世が世ならSATが出動しかねない発言である。
アリアさんも気持ち悪いと思ったのか、ドM大歓喜のクソムシを見るような視線でクロマーク皇帝代理を睨んでいた。
そんなアリアさんの視線に気づくことなく、クロマーク皇帝代理は股間をふっくら♪ させながら上機嫌に口を開いていく。
「結婚式は来週にしようっ! それはもう国を挙げて盛大にするぞえ! うぇっへっへっへっへ! アリア殿の白無垢姿……楽しみだなぁ♪」
「……申し訳ありませんが宰相閣下。ワタクシはアナタと結婚することは出来ません」
「なに、国の違いなど些細な問題だ。気にすることは無い!」
「いえ、そうではなくてですね? 実はワタクシ――」
アリアさんはチラッ! と俺の方へと視線をよこす。
その瞳は『あとは任せた』と雄弁に語っていて……えっ?
なになに?
ナニが『任せた』なの?
彼女の言っている意味が分からず小首を傾げる。
そんな俺の真横で、アリアさんがクロマーク皇帝代理にハッキリと、
「実はワタクシ――ここに居るキンジョー・タマオさんと婚約しているんですっ!」
「よし、お前も殺すわ。死ね」
「うぉぉぉぉぉっ!? 燃えろ、俺の中のナニカぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ブォンッ! と俺の首めがけて間髪入れずに剣を振り抜くクロマーク皇帝代理。
ソレを持ち前の反射神経で何とか躱しきるナイスガイ、俺。
あ、あっぶねぇ~!?
今、鼻先かすった!?
鼻先かすったよ!?
「チッ、仕留め損なったか。だが次は逃がさん」
「待って!? 待って待って!? 俺の話も聞いて、バカイザーッ!?」
「誰がバカイザーだ!? この愚か者め、絶対コロスッ!」
再び剣を構え、俺の首に狙いを定める皇帝代理。
その瞳は完全に怒りで我を失っていて……アカン。
この人、沸点低すぎ。
コッチの話を聞こうともしない。
俺はクロマーク皇帝代理が放つ
「くっ!? ちょこまかと……さっさと死ぬがよい!」
「嫌だ! 死にたくない! というかよく聞け、バカイザー? さっきのはアリアさんの冗談だ! ねっ、アリアさん?」
「
「はっ倒すぞ、クソ
【使い魔契約】のせいでアリアさんと半径1メートル以上離れられないため、限られた空間のみで皇帝代理の剣先を躱していく。
その様子を見守っていた衛兵たちは「おぉ~」と感嘆の吐息を溢した。
「クロマーク様の剣戟を見切り、僅かな動きで躱し切るとは……
「しかし動きは完全にシロウトですね、隊長」
「あぁ。だが喧嘩慣れしているのか、動きのキレは超一流だぞ」
「お前たち! 何をそこでジッと見ておる! はやくこの愚か者を切り殺さぬか!」
「「「「は、はいっ!
バカイザーの怒声で我に返ったのか、俺達を囲んでいた衛兵たちが一斉に剣を抜いた。
ゲッ!? マジかよ!?
流石にこの人数は無理!?
この人数は無理だって!?
「アリア殿には傷をつけるなよ!? この小僧だけ殺せ! 惨たらしく殺せ!」
「「「「かしこまりましたっ!」」」」
口から泡を飛ばしながら、血管の浮き出たビキビキチ●ポのように顔を真っ赤にさせるクロマーク皇帝代理。
そして取り囲むように俺に剣先を向ける衛兵たち。
これは……アレかな?
もしかしなくても俺、死んだか?
「アリア殿、大丈夫。間違いは誰にでもある。ワシは受け入れるから。だから第二の人生はワシと共に生きよう。――
クロマーク皇帝代理の合図と共に、一斉に切りかかって来る衛兵たち。
これは……うん無理♪
死んだ。
俺、死んだわ。
来世は異世界チート能力で美少女を
と死を覚悟した俺の脳裏が高速で現実逃避を始めるのと同時に、アリアさんが「勇者様!?」と悲鳴をあげる。
――と同時に玉座の間をピンク色の煙幕が支配した。
「な、なんだコレは!?」
「ま、前が見えねぇ!?」
一瞬で視界を奪われ困惑する衛兵たち。
そんな衛兵たちを尻目に、
――ブチッ!
と俺を拘束していた荒縄が何者かによって乱暴に引き千切られる。
それと同時にパシッ! と柔らかい手が俺の手を掴んだかと思うと、
「コッチ! 走って!」
ぐいっ! と物凄い勢いで引っ張られた。
俺は素直に声のした主の方へと駆け出すと、同じくアリアさんも手を掴まれているのか、俺と一緒に玉座の間から逃げるように駆け出していた。
そんな俺達の雰囲気を肌で察したのだろう。
クロマーク皇帝代理は「アリア殿が逃げるそ!? 追えっ!」とその脂ぎった声音で号令をかけた。
がそれよりも数歩速く玉座の間を後にした俺達は、城の中を駆けながらお互いの存在を認識し、目を見開いていた。
「あぁもうっ! お兄様の予定では裏門から転移してくるハズだったのに、何であんなダイナミックに空から登場するのよ!? バカなの!? イカレなの!?」
「酷い言われようだ……って、うん?」
「あっ!? あ、アナタはっ!?」
プンスコ激昂しながら俺達を先導する桃色の髪をした少女には見覚えがあった。
この男の
この世がエロ漫画だったら間違いなく汚いオッサン、略して『
間違いない。
見間違えるワケがない。
このメスガキはついこの間、リバース・ロンドン王国を進行してきたヘビ族の――
「アンポンタンちゃん!? アンポンタンちゃんじゃないか!?」
「アリシアッ!? アリシア・ウエストウッド! ちゃんと覚えろ変態勇者っ!」
そう言ってアリシアちゃんは『がるるるるるるるるっ!』と犬歯を剥き出しにして威嚇してきた。