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第6話 ここは敵地ですか?(A、その通りです)

「パリスッ!? パリッ!? 帝国!?」

「はい。間違いなくココはパリス・パーリ帝国の中心部です」




 スタントマンも真っ青の上空ウン千メートルからのパラシュート無しのスカイダイビングから生還すること5分後の岸辺にて。


 川のせせらぎを打ち消すように、俺の絶叫がパリス・パーリ帝国に響き渡った。


 いや、叫びたくもなりますよ。


 だって学院で優雅に朝食を食べていたと思ったら、いきなり上空ウン千メートルに瞬間移動させられるは、川に落ちるは、アリアさんに睨まれるは、挙句の果てには敵地のど真ん中に放り出されるはと、1日の始まりにしてはスタートダッシュ・センセーションが激しすぎないだろうか?


 神様? そんなに俺、なにか悪い事した?




「というか、本当にここは帝国なのか? いや違う! 俺は信じない!」

「勇者様が信じようが信じまいが、我々が今パリス・パーリ帝国に居ることは純然たる事実――何をしているんですか勇者様?」




 俺は小首を傾げるアリアさんを横目に、懐から防水使用のスマートフォンを取り出した。


 もちろん目的は1つ。




「Gマップだ!」

「じぃ~まっぷ?」

「人類科学は嘘をつかない! ここの現在地が本当にパリス・パーリ帝国なのか確かめてやるぜ!」




 電話代は先々週払ったばかりだし、エロいサイトを巡回し過ぎた結果、現在地がブラジルになるウィルスは除去したばかりだ。


 俺のスマホに抜かりはない!


 行くぜ、Gマップの神様!




「目的地、現在地、入力、完了! いくぜぇ~? 現代人は異世界に行くと何故かやたら強いことを教えてやるぜぇ~っ! ウッハッハッハッハッ!」

「ちょっ、勇者様!? 遊んでいる場合じゃなくなりましたよ!? ヤバい、ヤバい!?」




 パパパパパパン! と物凄い勢いで肩を叩かれる。痛い……。




「なにアリアさん? 痛いよ? SMプレイなの他所よそでやってくれない?」

「そんな冗談を言っている場合じゃありませんってば! アレ見て、アレ!」




 声を荒げながらレインボーブリッジのような橋の一角を指さすアリアさん。


 アレ? アレってなんぞや?


 とプリティーに小首を傾げながら、言われるがままアリアさんの指し示す方へ視線を向ける。


 そこには銀色の鎧を身に纏ったこの国の衛兵と思われる人たちが、駆け足でコチラに向かって走ってきている姿が目に入った。




「居たぞ! あのスケベそうな顔……間違いない! キンジョー・タマオだ!」

「おそらく隣の女がリバース・ロンドン王国の女王代理だ!」

「へへへっ! ようやくオレ達にも運が向いて来たな!」

「あぁっ、あの2人を捕まえれば金一封だ! ここ1年は遊んで暮らせるぞ!」

「「「「ひょっほ~う♪」」」」




 衛兵たちの上機嫌な声と不穏な会話が、岸辺に居た俺達にまで轟いてくる。


 なるほど。


 この様子だとアレだな、先手を打たれてるな、うん。


 俺達が帝国に忍び入ることを予期していたとは……案外クロマーク皇帝代理は頭がキレる男なのかもしれない。


 これは気を引き締め直さなければ!




「橋の上が騒がしいなと思ったら、なるほど。そういう事かぁ、ハッハッハッ!」

「いや笑っている場合じゃありませんから! 逃げますよ勇者様!?」

「いや逃げるって言ったって、どこへ?」




 コッチは土地勘ゼロなんですよ?


 なんて軽口を言い合っている間にも、衛兵たちはどんどん俺達の周りに集まって来る。




「対岸も固めるぞ! 船を用意しろ!」

「逃げられないように反対側にも周りこめ!」


「おぉ~、なんかヤバそうだぞ俺達?」

「そうですよ、ヤバいんですよ!? どうするんですか!? ワタクシ、さっきの着水に全魔力を使っちゃったので、今日はもう魔法が使えないんですよ!?」




 珍しくアワアワッ!? とその場で狼狽うろたえるアリアさん。可愛い。


 俺は彼女の愛らしい姿を写真に収めようと、アリアさんに向けてスマホを構えていた。




「勇者様! ワタクシ達の国を救った時のように、何か妙案はありませんか!?」

「はい、チーズ♪(パシャッ!)」

「いぇ~い♪ ――じゃありません!? この状況で呑気に写真を撮ってる場合ですか!? バカなんですか!? ……バカなんでした」




 酷い言われようである。


 まったく、気をつけろよアリアさん?


 鋼の理性と紳士の心を持っている俺でなければ今頃、その戯言ざれごとばかり口にする愛らしい唇を俺の唇で塞いでいる所だぞ?




「逃げなきゃ!? はやく逃げなきゃ捕まりますよ!?」

「う~ん? よしっ! それじゃせっかくだし、1回捕まっとくか」

「軽っ!? えっ、嘘でしょ勇者様!? そんな『ちょっとそこまで散歩に行ってくるわ』のテンションで言われても『行ってらっしゃい♪』とは言えませんよ!?」




 バカなんですか!?


 とアフタタッ!? しながら俺とやって来る衛兵たちを交互に見返すお姫様に向かって「大丈ぶいっ!」と人差し指と中指でVサインを作ってみせた。




「まぁまぁ、落ち着けよアリアさん? 虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うし、とりあえず敵の大将の顔を見ておこうぜ」




 どうせ逃げたっていつかは捕まるのだ。


 なら腹を括って敵陣に突っ込んだ方が、何かが変わるかもしれない。


 良い方向にせよ、悪い方向にせよ……ね?




「じゃあ行こうぜアリアさん、衛兵たちを迎えに? ――やぁやぁ! 出迎えご苦労であろう、一兵卒の諸君!」

「あぁもうっ! どうなっても知りませんからね!?」




 ムキーッ! と怒鳴るお姫様を引き連れて、俺は意気揚々と衛兵たちの方へと歩いて行くのであった。

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