――ドォォォォンッ! ドォォォォンッ!
空飛ぶ魔法生物【おティムティム】のマッポの背中に乗りながら、俺タマオ・キンジョーは上空から森の中で響き渡る爆音と悲鳴のハーモニーに耳を傾けていた。
アリアさんの華奢なウェストに腰を回しながら、彼女から貸して貰ったコンパクトサイズの望遠鏡で戦況を確認しつつ、小さく頷く。
「よし、スライムとトラップのコンボがイイ感じに作用しているな。即席だったとは言え、我ながらよく出来ている。アリアさんもそう思わない?」
「この戦いが終わったら、あの卑猥スライムは必ず根絶やしにします。1匹1万円の懸賞金をかけて、一族
カタギとは思えない瞳で、自分と同じ格好をしたスライム(全裸)を睨みつけるアリアさん。
どうやら気に入ってくれたらしい、
製作者としては嬉しい限りである。
「別に皆殺しはいいけどさ? 大丈夫? アイツら、100万匹くらい居るよ?」
「何でそんなに作っちゃうんですか、タマちゃんさん!?」
「ごめん。ノリと勢いでつい……」
「ポコポコちんちーんっ!」
うるさいぞ! と迷惑そうにロイヤルオティムティム族のマッポが
俺は『申し訳ない』という意味をこめてマッポの背中を撫でながら、改めて自分のデタラメな力に戦慄した。
「それにしても俺の1日1回使える魔法はスゲェな。あんなトラップはおろか、あんな変態スライムまで作れるだなんて」
「変態言わないでください! あのモデル、ワタクシなんですよ!? というか何でワタクシがモデルなんですか!?」
「いやぁ、ほら? 珠子も言っていただろ? 俺の魔法は想像力が命だって。直近でアリアさんの裸を視ちゃったせいかな? 気がついたら『あぁ』なっていた」
元々は俺おススメのグラビアモデルの
まぁ『帝国兵たちを虜にして、自分たちの方から触りに行く』というコンセプト通りのスライムにはなったから
「魔法ってすげぇな? 想像しただけで思い通りの生物が作れるなんて」
「普通の魔法は生物を作り出すことなんか出来ませんけどね。ソレは神の御業です。タマちゃんさんの魔法が異次元すぎるんですよ」
そんな軽口を応酬している間にも、帝国兵は爆風により天高く燃え上がっていく様が見える。
「ほら見ろアリアさん。人がゴミのようだ」
「あぁ……先祖代々守ってきた森が卑猥スライムに犯されていく……」
「安心してくれ。あの『アリアさんスライム』は本人と同じく男しか襲わないクソビッチだ」
「ビッチじゃない! ワタクシ、ビッチじゃないもん!」
訂正しなさい! と声を荒げるお姫様の腰にしがみつきながら、俺はアリアさん型の爆弾ボディースライムの勇姿を見守り続ける。
よしよし、順調に帝国兵をぶっ殺しているな。
感心、感心♪
「それにあのスライムの爆炎で燃えるのは男だけ。森には燃え移らないように想像しながら作ったから、あの美しい森が傷つくことは絶対ないぞ」
「ほんと便利だな、タマちゃんさんの魔法……」
もはや敬語すら忘れて下界の様子を見守るお姫様を横目に、俺は戦場を観察し続けた。
ふむ……帝国兵の残りは大体3000人弱くらいか。
対してコチラの
圧倒的である。
もはや負ける要素が見つからない。
……ある1点を除いて。
「さて、普通に考えれば俺達の大勝利なのだが……」
「どうかしたんですか?」
「いや、珠子が言っていた俺の元気玉とアリアさんを狙っている女性がどう動くか気になってさ」
俺の想像した爆弾ボディースライムはクソビッチであるが故に男しか狙わない。
だからこそ、珠子の言っていた『俺の元気玉とアリアさんを狙っている女性』は傷を負うことはない。
だが女性1人でこの戦局をどうこう出来るとも思わない。
思わないが……
「う~む?」
「さっきからナニを難しい顔をしているんですか? らしくないですよ?」
「酷い言われようだ……。いやね? アリアさんが言っていた、この森を守る結界を解除できるのはカエル族の王家の人間だけって言ってたのが引っかかってさ」
「それが……なにか?」
「おかしいと思わない? なんで帝国兵はカエル族の王族のみが解除できる結界を素通り出来たのか?」
「そ、それはワタクシも思ってました……。あの結界を解除できるのは、この世界ではワタクシか妹のリリアナだけのハズなのに……」
「んで、そこで俺は思った。もしかしたら、その前提が違うのかもしれないなって」
えっ!? と驚き振り返るアリアさん。
身体を密着させている影響で、アリアさんの顔が超至近距離で俺に近づいて……おっとぉ?
キスして欲しいのかな?
「あっ! ご、ごめんなさい!?」
「いやいや、大丈夫だよ。ハハッ!」
ボッ! と顔を真っ赤に染めながら慌てて視線を前へ向けるお姫様。
あっぶね!?
危うくアリアさんの唇に尊みラストスパートをかける所だったわ!
彼女があと少し顔を背けるのが遅かったら、次に会うのは法廷だったに違いない。
もちろんそんな思いをおくびに出すヘマなどしない俺は、いつも通り紳士の微笑みを顔に貼り付け、爽やかに笑った。
「それでそのぅ……前提が違うというのは?」
「つまり向こう側、帝国側に王族が居たんだよ。カエル族の」
「あ、ありえません! ソレは絶対にありえません、ナンセンスです!」
「なんで?」
やたら強い口調で否定してくるアリアさん。
ちょっと怖い……。
「カエル族の王家は12年前のヘビ族との闘いで、ワタクシたち姉妹だけを残して全員『神の国』へ旅立ちました。生き残りなんていません」
「それが居たんだよ、実際」
「居ません! 断言します。王族はワタクシとリリアナの2人だけです! この12年間、父上と母上を探しましたが見つかりませんでした! もうこの世界にあの2人は……」
「ストップ、ストップ。色々言いたいことはあるだろうけど、まずは俺の話を聞いてくれ」
「……はい」
アリアさんは胸の中でドロドロと渦巻く感情を抑え込むように、大きく息を吐き捨てた。
それはさながら加熱したエンジンを冷ます放熱のように。
う~ん?
美人に怒鳴られると怖すぎてタマがヒュンッ! てなるなぁ。
まぁヒュンッ! てなるタマはもう無いんだけどね!
……ヤッベ、言ってて悲しくなってきた。
絶対に見つけてやるからな、俺の
「……ふぅ~。お待たせしました、続きをどうぞ?」
「あいよ。ただその前に確認。アリアさんの話だとカエル族の王家は先王のアリアさんパパ、王妃のアリアさんママ、そしてアリアさんとリリアナさんの計4人で良かったかな? じゃああの結界を現状解除できるのは、この4人でОK?」
「いえ、母上……王妃は嫁入りなので正確には王族の血を引いておりません。なので解除は出来ません」
「ん。なるほどね」
俺は1人おおきく息を吐き捨てながら、確信をもって頷いた。
「つまり、あの結界を解除できるのは現状4人だけってことか」
「4人? いえ、3人ですよ?」
「いや4人だよ」
「???」
俺の言っている意味が分からず小首を傾げるアリアさん。
どうやら彼女は忘れているらしい。
先王であるアリアさんパパが居ない今、この世界で唯一ウエストウッド姉妹以外にあの結界を解除できる存在を。
「ヘビ族のボスである【魔王】だよ。彼ならこの結界を解除することが出来る」
「あっ!?」
そう、カエル族の先王の弟にしてヘビ族という新たな種族を作り上げた【魔王】であれば、この王族の結界を解除することが出来るのだ。
「ただ【魔王】は12年前に倒されている。なら考えられる結論は1つだ。……おそらく、この襲撃の首謀者と思われる女性は【魔王】に連なる者だ」
「そ、それってつまり……」
「あぁ」
俺はハッキリと頷いて言った。
「俺達を狙っている相手は【魔王】の末裔――つまりヘビ族の末裔だ」