珠子の予言から3日が経過した、リバース・ロンドン王国領内にて。
アリアたちが居る魔法女子学院めがけて真っ直ぐ森を突っ切って来る1万もの兵の軍団があった。
その名もパリス・パーリ帝国。
その帝国軍の後方で、つまらなそうに欠伸をかいてい1人の少女の姿があった。
「まったく。魔法も使えない下等生物と手を組むだなんて、お兄様も一体ナニを考えているんだが……」
ふわふわと空と飛びながら、桃色の髪をしたヘビ族の少女――アリシアは面倒くさそうに大きく
起伏の少ないトタン屋根のような身体に、八重歯がとってもチャーミングなその少女は、生意気そうな顔と相まって実に『分からせ』がいのありそうな女の子だった。
そんなアリシアに髭面のオッサン、もとい帝国軍将軍であるカマセ・イーヌは上機嫌に声をかけた。
「いやぁ! 我々を苦しめていたあの結界も、アリシア殿のおかげで素通りする事が出来ましたなぁ!」
「まぁね。あんな結界、アタシにかかれば小指でチョン♪ よ」
「なんと頼もしい! 流石は噂に名高いヘビ族の末裔ですな!」
ガッハッハッハッハ! とバカデカい声で笑うカマセ・イーヌに顔をしかめるアリシア。
彼女はこういう暑苦しい男が大っ嫌いだった。
本当なら今すぐにでも魔法でカエルに変えたい所だが、まだこの男には使い道がある。
それまでは生かしておかなければならない。
アリシアは喉まで出かかった呪文を口の中で噛み砕き、代わりに
「そんなお世辞よりも、約束……分かっているでしょうね?」
「もちろんですとも。王族であるアリア姫とリリアナ姫はアリシア殿たちに引き渡す。代わりに残りのカエル族の女性たちは我らパリス・パーリ帝国がいただく。それでよろしいな?」
「ん。分かっているならいい」
ザッ! ザッ! と草木を踏みつぶしながら学院へと迫る帝国軍。
この調子でいけば、あと1時間ほどで目的地に辿りつけるだろう。
「一応言っておくけど、しくじるんじゃないわよ?」
「ガッハッハッハッハ! それこそ要らぬ心配というモノ! いくら魔法を使うと言っても、平和ボケしたカエル族など我は屈強なる帝国兵の敵ではありませぬわ!」
圧倒的自信を持って笑みをこぼすカマセ・イーヌ。
アリシアは眉根をしかめながらも「まぁ、それもそうか」と内心納得していた。
剣術が素人の彼女でも、この軍隊が異常であることくらいハッキリわかる。
全員、歩を進める姿に一切の乱れもなければ淀みもない。
余程の訓練を積んで来たのだろう。この場にいる全員が歴戦の猛者のようにオーラを身体中から発散させていた。
「まぁ余程の事がない限りは、コレで負ける事はないか」
そう楽天的にアリシアが口にした、その瞬間。
――ガサガサッ!?
「「ッ!?」」
彼女たちのすぐ傍で茂みが震えた。
刹那、キッ! と瞳を釣り上げ戦闘モードに突入したカマセ・イーヌが腰の剣に手を添えた。
「そこの者、何者だ! 出て来い。出なければ……斬る!」
アリシアでさえ恐れ戦く殺気を振りまきながら、ゆっくりと剣を引き抜く将軍。
そんな将軍の迫力に観念したのか、茂みから1つの影が姿を現した。
ガサガサ――ぷるんっ♪
「「こ、これはっ!?」」
茂みから姿を現したソレに、将軍もアリシアも目を剥いた。
ソレはやたら扇情的で、男の性欲をこれでもかと煽る爆乳とデカ尻をした、絶世の美女であった。
しかもただの美女ではない。
その美女は――
「これは……アリア姫!? アリア・ウエストウッド姫ではないか!?」
リバース・ロンドン王国第一王女にしてカエル族のお姫様であるアリア・ウエストウッドが、何故か全裸で茂みから現れたのだ。
な、何故一国の姫が全裸でこんな場所に!?
混乱のあまり思考が混線するカマセ・イーヌ。
だが、
――ぷるん♪
彼女の爆乳が艶めかしく揺れると、そんな事どうでもよくなった。
いやはや、分かっていたつもりではあったが……なんと男を好きにするイイ身体をしているのだろうか?
その汚れを知らない大きな乳房といい、元気な赤子を生んでくれそうなデッカイお尻といい、まさにスケベの満漢全席である。
気が付くとカマセ・イーヌは、剣を鞘に仕舞いこみ、彼女の乳房へと指先を伸ばしていた。
そんなスケベ親父を横目に、アリシアは我に返り気がつく。
この魔力……間違いない。
コイツは本物のアリア姫じゃない!
コイツは――
「――スライムだ! 離れろ、将軍!」
はい? とアリシアの方へ振り返りながら、カマセ・イーヌがアリアの形をしたスライムの乳房に指先を沈めた。
その瞬間。
――爆音と共にカマセ・イーヌとスライムが爆発した。
「ショウグぅぅぅぅぅ―――ンッッ!?!?」
アリシアの絶叫と共に、カマセ・イーヌの身体が爆炎に包まれる。
悲鳴を上げてのたうち回るカマセ・イーヌであったが、やがてパタリッ! と地面に伏せると、ピクリとも動かなくなった。
その姿を見て、アリシアの顔に戦慄が走る。
「い、一体ナニが……」
起きて? と続くハズだった彼女の声音が、
――ドォォォォン! ドォォォォォンッ!
あちこちで鳴り響く爆音と爆炎によってアッサリとかき消された。
「こ、今度はなんだ!?」
慌てて音のした方向へ視線を向けると、そこには爆炎に包まれながら吹き飛ぶ帝国兵たちの姿があった。
全員ナニが起きているのか分からず、子供のように悲鳴をあげながら、逃げ惑う。
そんな帝国兵たちを、どこに潜んでいたのか例のアリア・ウエストウッドの恰好をしたスライムたちが追いかける。
そして帝国兵にガバッ! と抱き着くと。
――ドォォォォォンッ!
爆炎と共に大きく
それだけで帝国兵たちは全員息絶えていく。
まさにこの世の地獄絵図がそこにはあった。
「その卑猥スライムに触るな! 爆発するぞ!?」
「クソっ!? 爆弾を抱えているワケか、ダイナマイトボディーなだけに!」
「上手いことを言っている場合じゃない! 逃げ――うわぁっ!?」
アリアの恰好をしたスライムから逃げようと、兵士たちが森の中を駆け出した瞬間。
――ブォン!
いつの間に仕掛けられていたのか、ブービートラップにより兵士たちが一瞬で地上数メートルまで吊り上げられた。
「な、なんだコレ!? トラップ!?」
「見ろ、アッチは落とし穴だ!」
どうやら仕掛けられていたのはこの場所だけではないらしく、あちらコチラで自分達と同じように吊り上げられている者も居れば、落とし穴に落ちて身動きが取れなくなっている者たちが多く居た。
いや、今は観察している場合ではない。
はやくここから抜け出さなければ!
兵士の1人が持っていたナイフでトラップを解除しようとして……スライムに抱き着かれた。
瞬間、爆音と共に兵士が爆ぜた。
一瞬で肉塊になる兵士たち。
目の前で物言わぬ肉の塊と化した同僚を前に、兵士の1人が錯乱したように
「なんだよ、コレ!? なんなんだよコレ!? カエル族の女共を回収するだけの簡単な任務のハズだろう!?」
「落ち着け、そんな大きな声を出したら――ヒィッ!?」
アリアの形をしたスライムが自分たちを見つけて『にっちゃり♪』と邪悪に微笑んだ瞬間、兵士は必死に懇願した。
「く、くるな!? 来ないでくれ!? 頼む嫌だ死にたくないお母さ――」