アリアさんに魔法で両手足を拘束されてから1時間。
騒ぎ過ぎたせいか、そろそろ俺の眠気もピークに達そうとしてた。
そんな時だった。
「……タマちゃんさん、起きてますか?」
隣で眠っていたハズのアリアさんが小声で俺に声をかけてきた。
むくりっ! と身体を起こし、確認するように俺の顔を覗き込む彼女。
正直、眠気が凄まじ過ぎて返事をするのも億劫だった俺は、申し訳ないが狸寝入りを決め込ませて貰った。
「タマちゃんさん? 寝てますか? おーい?」
ゆっさ、ゆっさ!
アリアさんが控え目に俺の身体を揺する。
それが丁度いい刺激となって俺の睡魔を促進させる。
あぁ~……気持ちいい……最高だ。
このまま夢の世界へ、いざサラバ――
「……寝てますね、よし」
「ッ!?」
――しようとした瞬間、アリアさんが俺の寝間着を脱がし始めた。
一瞬で眠気が飛んだ。
「ッッ!? ッッッ!?!?」
「起きないように、そ~と。そ~と……」
あまりの出来事に悲鳴すらあげる事なく固まってしまう俺。
そんな俺に気づく様子もなく、せっせとその白魚のような指先で俺のボタン式の寝間着を脱がしにかかるお姫様。
か、彼女は一体ナニをしようとしているんだ!?
よく分からない恐怖が俺の身体を駆け抜けて行く。
そんな事をしている間に、
――ガバッ!
全てのボタンを外された俺の上着がはだけ、剥き出しの上半身がアリアさんの目の前に現れた。
途端に「おぉ~」と感嘆の吐息をこぼす、お姫様。
「やはり女性とは骨格からして違うのですね。興味深いです」
そう言って、そのしなやかな指先で俺の地区Bを軽く弾くアリアさん。
もはや俺の混乱はピークに達しようとしていた。
か、彼女は一体ナニをしているんだ!?
「肌もゴツゴツしていて……これが男性ですか?」
ペタペタ。
スリスリ。
薄目でアリアさんの様子を確認すると、彼女は一心不乱に俺の胸元を揉んだり、擦ったりしていた。
その瞳は先日我が肛門を拡張工事しようとしたあのマッドサイエンティストの女子生徒とまったく同じ熱っぽい瞳で……ヤバイ。
完全に起きるタイミングを逸してしまった。
ど、どうしよう?
「何というか……うん。やっぱり女性とは違う生き物なんですよね」
しみじみとそんな事をつぶやくアリアさん。
彼女の吐息は妙に熱っぽく、その瞳はだんだんとトロン♪ と
なんて思っていると、俺の胸元を撫でていたアリアさんの手がピタリッ! と止まった。
「ふぅ~……よし。――やるか」
満足したのだろうか? と内心安堵の吐息を溢していると、
――ガサゴソッ!
アリアさんはデブのDJブースと呼ばれているキッチンに潜む忍者、ゴキブリのようなカサカサした動きで俺の下半身の方へと移動していった。
瞬間、俺の脳裏に信じられないヴィジョンが浮かび上がる。
おいおい?
この
そんな俺の期待に応えるように、アリアさんはガシッ! と俺の寝間着のズボンを両手でしっかりと掴み。
「テイク・オフ」
の掛け声と共に、ゆっくりと俺のズボンを下ろし始めた。
しょ、正気かこの女!?
俺は驚きのあまり目を見開いて下半身に居るアリアさんに視線を送った。
そんな俺の視線に気づいてないロイヤルビッチは、物凄い集中力でゆっくりと1ミリずつ俺のズボンを下ろしていた。
この女……分かっていやがる。
俺があえて起きないように、肌感覚を誤魔化すように呼吸に合わせてミリ単位でズボンを下ろしていく手口……間違いない。
この女、場慣れした変態だ!
「ふぅ~。一旦休憩――えっ?」
「あっ」
バッチリ。
バッチリである。
呼吸を整えるように顔をあげたアリアさんの瞳が、俺の瞳とかち合った。
「…………」
「ザ・ワールド」
時よ止まれ! と心の中で念じると同時に、アリアさんの身体がピタリッ! と止まった。
もしかしたら俺はスタンド使いなのかもしれない。
しかし、いつまでも時を止めることは出来ない。
あのDI●様でさえ、時を止めるのは9秒が限界だったのだ。
その証拠に、アリアさんの顔は暗闇でもハッキリと分かるほど『白』から『青』そして『赤』へと変わっていき、
「ぴっ」
「そして時が動き始める」
「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
――ブォンッ!
アリアさんの凄い声と共に、彼女の魔力の波動が衝撃破となって俺を襲った。
「バルスッ!?」
「あぁっ!? タマちゃんさん!?」
ごめんなさい!? と謝るアリアさんを尻目に、裸のままの上半身にアリアさんの魔力の波動が直撃する。超痛い……。
どれくらい痛いのかと言えば、机の角にタマキンをぶつけた位痛い。
ヤバイ、泣きそうだ……。
「うごごごご……っ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
「ちょ、ちょっと今は
痛む胸元を押さえながら悶絶していると、
――バキンッ!
何かの金具の壊れる音が俺の鼓膜をくすぐった。
「こ、今度はナニ事?」
「わ、わかりませ――あっ!?」
俺達は音のした方に揃って顔を向けた。
どうやら先ほどの衝撃破はこの部屋の家具を激しく揺らしたらしい。
ベッドの横に鎮座していたクローゼットの扉がガバッ! と開いた。
その瞬間。
――ドサドサドサドサッ!
物凄い勢いで大量の本が津波のごとく現世へ召喚された。
「こ、これは……」
「ひにゃぁぁぁぁっ!?」
頭を抱えて女の子がしてはいけない悲鳴をあげるアリアさん。
俺はそんな彼女を横目に、溢れ出て来た本を1冊手に取り……我が目を疑った。
その本は妙に肌色成分が多めで、着衣という習慣に乏しい水気の多い女性たちが、妙に扇情的な格好でたくさん映っている本だった。
俺はこの本を知っている。
モテない男たちの
そう君の名は――
「――エロ本だ。アリアさんのクローゼットからエロ本が出て来た!」
「あばばばばばばばばっ!?」
「しかも日本のエロ本だ! なんで!?」
【あばばばばば】状態に突入して何も言えなくなるアリアさん。
俺はそんな彼女を無視して、床に散らばったエロ本を吟味し続けた。
『純愛』から『寝取られ』果ては『百合か』ら『ボーイズラブ』まで。
メジャーどころからマイナーどころまで、幅広く集めていらっしゃる。
ふむふむ、なるほどな?
「アリアさん、コレは?」
「ぱ、パリス・パーリ帝国の仕業です!」
「帝国の?」
ですです! と首を高速で縦に振りながら『その通り!』と言わんばかりに彼女は口を開いた。
「はいっ! おそらくカエル族の王家をハメるために準備した本に違いありません! おのれ帝国めぇぇぇ~~っ!」
「じゃあコレはアリアさんの私物じゃないの?」
「あ、当たり前です。そんなハレンチなモノ、ほ、誇り高き王家の人間が読むワケがありません!」
そう言って高速で目を左右にバタフライさせるアリアさん。
その仕草を見て、俺はピーンっ! ときた。
「もしかしてなんだけどさ?」
「な、なんですか?」
「アリアさんって、何度か日本に来たことある?」
「ッ!?」
ビックーン!? と股間に仕込んだローターが突然ONになった女子高生のようにアリアさんの身体は跳ねた。
そのままギギギギギッ! とさび付いたブリキの玩具のように俺の眼を見て。
「ど、どうして? どうしてそう思うのですか?」
「いや、この学院でアリアさんだけが他の女の子たちと違うリアクションだったから」
そう、この国の女性は『男』という生き物を知らずに育った。
その結果、男の前で普通に着替えるなど日常茶飯事で、裸を見られても羞恥心も何も感じない純粋無垢な女の子に育ってしまった。
だというのに、アリアさんだけは違った。
この国で唯一『男』である俺の前で恥じらったのだ。
思えば最初からそうだった。
彼女だけは他の女性とは違う。
『男』を知っているリアクションだった。
「それでこの日本産のエロ本だろ? それでもしかしたらアリアさんは常日頃から日本へ行き来していて、エロ本を買ってコッチの世界に帰ってくるような生活をしてたんじゃないかなって思ってさ」
だから『あの日』も、いつも通りエロ本を買いに魔法で日本へ異世界転移した。
が、そこで予期せぬトラブルにより、アリアさんは我が家の近所のゴミ捨て場に転移してしまう。
その場面を偶然俺が目撃。
結果、俺は巻き込まれる形で彼女と共に異世界へ転移して元気玉を失くした。
「そう推論すれば、なんでアリアさんが最初から俺のタマキン探しに協力的だったのか説明がつくんだよね」
「……ふぅ」
「アリアさん?」
お姫様は急に冷静な表情で遠くを見つめると、何を思ったのかベッドから起き上がり、エロ本が散乱する床へと移動した。
そのままエロ本の花畑で膝を折ると、ゆっくり微笑みを浮かべ。
「誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
盛大に俺に向かって土下座した。
「おっしゃる通りで、全てはワタクシの不徳の致すところでございますぅぅぅっ!?」
「あぁ、お客様!? 土下座はお止めください、お客様ぁぁぁぁぁっ!?」
瞳から
一国のお姫様がしていい格好じゃなかった。
「ほぅら、アリアさんの大好きな『ネトラレ』本だぞぉ~? コレあげるから泣き止んでね?」
「ぐすん……かたじけないです……」
鼻をグスグス鳴らしながら、親の形見のようにエロ本を胸元でギュッ! と抱きしめるお姫様。
……絵面も字面も最悪だった。
だがレディーが泣いている以上、そんな私情はどうでもいい。
泣いている女性は脇腹をくすぐってでも笑顔にするべし! がキャッチコピーの俺様は、持てる力の全てをつぎ込んで彼女を慰め続けた。
結果、少しずつ落ち着きを取り戻したようで、アリアさんは笑顔こそないものの涙は引っ込んだらしく「申し訳ありませんでした……」と蚊の鳴くような声で俺に謝ってきた。
「色んな意味で大変お見苦しいモノをお見せしました……。懺悔の意味もこめて、今ここで舌を噛んで死にますね?」
「はい、どーどー? 落ち着いてぇ? そんな事したら俺が王国の皆に処刑されちゃうよ?」
アリアさんの華奢な背中を優しく擦りながら、彼女が落ち着くのを待つ。
しかし、凄いな彼女は?
ここまでオウンゴールを量産できるエースストライカーも中々居ないぞ?
一体彼女は将来どんな偉人に成長するというのだ?
「……タマちゃんさんのお察しの通りです……」
「おっ?」
「ワタクシは王国と日本を魔法で行き来してました」
やがてようやく落ち着いたらしいアリアさんが観念したかのように、俺が異世界へ飛ばされた本当の真相を口にし始めた。
「実はワタクシ、そのぅ……え、エッチなことに人一倍興味がありまして……」
「うん、薄々感づいてた。アリアさん、ムッツリスケベだなって」
「むっつ!? ち、違うます! ムッツリスケベじゃありません!」
「あっ……そ、そうだよね? 王族だしロイヤルスケベだよね?」
「変な言葉を作らないでください! ただワタクシは人よりほんの少し性欲が強いだけです!」
お姫様が口にしてはいけない単語が湯水のごとくバンバン発せられているワケだが……俺、大丈夫かな?
このあと不敬罪で処刑とかされないかな?
生まれたてのメス豚のように内心ビクビクしながらも、俺はアリアさんの言葉に耳を傾け続けた。
「偶然お父様……先王が使用していた部屋の本棚で『異世界転移』の魔法が記された書物を見つけたのが全ての始まり」
興味本位で魔法を使用したら、ワタクシはリバース・ロンドン王国から日本へ異世界転移していました。
とアリアさんは続けた。
「帰り方は分かっていたので、しばらく日本を散策し続け……ワタクシは【コンビニ】と呼ばれる聖地で運命に出会いました」
そう男性が居なくなったリバース・ロンドン王国では失われた伝説の書物。
――エロ本。
それが堂々と売ってあったのです。
「我が目を疑いました。あの失われた子作りのための書物が、こんな軒先で売っているだなんて……」
「そっか」
「気がつくと、ワタクシはエロ本を買っていました」
「そっか」
色々とツッコミたい所は多々あるが『続けて?』と視線だけで話の続きを促した。
「王国に戻り、急いで部屋へ帰ってきたワタクシはさっそく買ったばかりのエロ本を開封しました」
――そこには新世界が広がっていました。
「ワタクシの知りたかったものが、その本には全て載っていたのです! 気がつくとワタクシはエロ本の魅力にハマリ、1週間に1度日本へ転移しエロ本を大人買いする生活をしていました」
そんな事を続けていたある日、あの事件は起こりました。
アリアさんは心底申し訳なさそうに肩を落としながら、その桜色の唇を動かした。
「その日はワタクシ一押しのエロ漫画先生……【潮吹きスプラッシュ】先生の新刊が出るという事でワクワクしながら『いつも通り』日本へ転移しました。しかしっ!? どういうワケかその日に限って魔法が暴発したのです!」
こんな事は魔法を使い続けて初めての事でした。
目を覚ますと、ワタクシはコンビニではなくゴミ捨て場にいました。
しかも運悪く、その現場を現地人に見られてしまったのです。
「その現地人が――」
「俺……か?」
アリアさんは小さく首肯した。
「本来、異世界を転移すると何故かその世界の言語を使用することが出来るのですが、その日は魔法の暴発というトラブルのせいか、ワタクシの言葉は日本語に変換されませんでした。ですが日本語は聞き取ることが出来ました……出来てしまったんです」
ソレが過ちの始まりでした、とアリアさんは口にした。
「ニワカですがエロ漫画で日本の知識を得ていたワタクシを前に、タマちゃんさんはスマホを片手にこう言いました」
――大丈夫、大丈夫。警察を呼ぶだけだから……と。
「警察とはこの国を守る機関。不法入国したワタクシは確実に捕まる。そう考えたとき、ワタクシはパニックに
――捕まりたくない!
「気が付くとワタクシはタマちゃんさんを無理やり異世界転移させていました。そこから先はタマちゃんさんの知っての通りです」
「なるほどなぁ……ようやく合点がいったよ」
「ふぅ~」と大きく息を吐き捨てながら、小さく
つまり俺はアリアさんのミスでこの世界へやって来てしまったのだ。
だからこそ彼女は、その罪滅ぼしとして俺のド●ゴンボール探しに協力してくれているのだ。
「謝って済む問題ではないのは百も承知です。どうぞタマちゃんさんの気が済むまでワタクシを無茶苦茶にしてくれて構いません。エロ同人みたいに。エロ同人みたいに!」
「とりあえず一旦ブレーキを踏もうか、アリアさん?」
アクセルをベタ踏みしたまま思考をピンク色へ加速させていくお姫様。
自分の身体が
どうやらアリアさんは
「アリアさん。どうやらアリアさんは、まだ俺の事が分かっていないらしい」
「た、タマちゃんさんの……? ど、どういう意味ですか?」
「いいかい? よくお聞き?」
俺はキョトン? と可愛らしく小首を傾げるお姫様の肩に手を乗せ、ハッキリと言ってやった。
「俺は誰もが認める純愛処女厨、スーパーユニコーン男子なんだ。愛のないセクロスなんでありえない。ありえないんだよ!」
そう俺は『彼女は欲しいがビッチは死ね』を信条にこの24年間生きてきた、古き良き日本男児である。
お股が自動ドアの貞操観念ゆるゆるのレディーはノーサンキュー。
『100人斬り余裕っすわ~♪』とか言っているコッテコテのヤ●マンギャルなど
「俺は運命の出会いから始まる【本物の恋】以外認めない! それ以外はお断りだ!」
「運命の出会いから始まる本物の恋?」
「そうだ! 合コンやお見合いかんかじゃない、自然な偶然で出会った女性とゆっくり、されど確実に愛を育んでいく。そんな恋愛こそ至高! そんな恋愛こそ究極!」
何度も言うようで申し訳ないが、俺は何よりも恋愛の『過程』を大切にする男!
運命の出会いから始まり、そこからゆっくりと仲良くなる流れこそ【本物の恋愛】であると信じて疑わず生きてきた。
「この世の中、何事も順序が大切なのだよ!」
「順序?」
「そう! 我々人間だってハイハイから始まり、壁歩きを経て、ようやく歩き始めるように順序が何よりも大切だ! それは恋愛においても同じこと! 恋愛は付き合うまでの過程が大切なんだ!」
「う~ん? 順序や過程って、そんなに大切ですかね?」
「当たり前だろ!? アリアさんはケツからウ●コをする前にお尻を拭くのか? 拭かねぇだろ!?」
「で、デリカシーッ!? デリカシーがないんですか!?」
顔を真っ赤にして怒るアリアさんを差し置いて、俺は恋愛過程至上主義者としてモノ申さずにはいられなかった。
「昨今のライトノベルよろしく、出会ってすぐ付き合うだとか、婚約だとか、そんな尻軽女など言語道断! ましてや出会ってすぐキスする女など以ての外! 合コンもお見合いも紹介もすべてNG! そもそも――」
「ストォォォップ! 一旦ストップです!」
「……これからがいい所だったのに」
ブンブンッ! と俺達の間の空気をかき混ぜるように両手を振り回すアリアさん。
アリアさんは何故か疲れた表情を浮かべながら、その桜色の唇を動かした。
「つまりタマちゃんさんは、運命の出会いから始まるピュアな恋愛以外認めないと、そう言いたいんですよね?」
「その通りだ。恋愛は付き合うまでの過程が全て! そこに青春の全てが詰まっていると言っていい!」
俺がこの歳まで童貞だったのは、この主張を変えずに生きてきた事が大きい。
そりゃ24年間生きてきたのだ、女の子とホニャララパ~♪ な関係になりそうなチャンスが
だがしかし!
俺は過程やロマンスをすっ飛ばした恋愛は死んでもしたくなかった!
周りが出来ちゃった婚をしようが、この信念だけは変えずに生きてきた。
その結果が
……もしかしたら俺は道を間違えたのかもしれない。
「あのぉ~? 結局タマちゃんさんは何が言いたかったんですか?」
「結局俺が言いたかったのは……なんだっけ?」
「えぇ~……?」
あれ?
なんでこんな話をし始めたんだっけ?
あれれ?
「というか、そろそろ寝ない? 明日も朝早いしさ?」
「あっ、そうですね」
俺とアリアさんはいそいそと床に散らばったエロ本を拾い上げ、再びクローゼットの中にしまい込んだ。
「うぅ~さむっ!? 春先は夜も冷えるなぁ……というかこの世界に『春』ってあるの?」
「ありますよ。タマちゃんさんの世界と同じで、この辺り一帯の桜の木が満開になって凄く綺麗なんですよ? ソレをマッポちゃんに乗って一望すると、もう感動で言葉を失うほどです」
「へぇ~、いいなぁ……」
「花が咲いたらタマちゃんさんを乗っけて飛んであげますよ」
「マジで? 楽しみだなぁ」
そんな雑談を繰り広げながら、俺達は再び布団の中へと身を滑り込ませた。
「おれじゃアリアさん、おにゃすみ~」
「はい、おやすみなさい」
俺達は2人そろってボスンッ! と枕に身を預けた。
そのまま瞳を閉じて、夢の世界へ旅立ち――
「いや『おやすみ♪』じゃないですよ!? 起きてタマちゃんさん! まだお話は終わってませんよ!」
アリアさんが勢いよく布団から跳ね起きた。
どうやら今日は長い1日になりそうだ。
俺はそんな事を考えながら、俺はお布団とさよならバイバイするべく、ゆっくりと身を起こした。