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第13話 もしかしたら俺は変態かもしれない(いまさら気が付いたんですか?)

 カエルの国のお姫様を俺の使い魔にして1日目。


 俺はアリアさんを使い魔にして初めて窮地に陥っていた。




「お手洗い……えっ? お手洗い!? アリアさん、おトイレに行きたいの!?」

「お、大きな声で言わないでくださいまし!?」




 珠子の祠の前で顔を真っ赤にしながら俺を糾弾きゅうだんするアリアさん。


 正直かわいい♪


 けど、そんな事を言っている場合じゃない。




「ご、ごめん……。で、でもっ! なおさらこんな場所とこに居るワケにはいかないじゃん!? 色んな意味で急いで学院に戻らないと!?」

「ま、まだマッポちゃんは戻ってきていませんし、それに何よりそのぅ……本当にもう限界で……学院までちそうにありません……」




 本当に限界なのだろう。


 アリアさんはロイヤル生理現象を前に、切羽詰まった表情でお腹を押さえていた。


 学院まで保ちそうにない……か。




「アリアさん、これは大事な質問だから心して答えて欲しい」

「??? な、なんですか?」

「出そうなのは『大』? それとも『小』?」

「で、デリカシーッ!? タマちゃんさんにはデリカシーが無いのですか!?」

「恥じらっている場合か! 事は緊急を要するんだぞ!? さぁ、『大』か『小』か答えるんだ!」

「うぅっ!?」




 彼女の力になりたい!


 その気持ちがアリアさんにも伝わったのだろう。


 アリアさんは耳朶まで真っ赤にさせながら、蚊の鳴くような小さな声で、




「……しょ、小です」




 と言った。


 メチャクチャ可愛かった。


 恥ずかしさに瞳を潤ませ、恨めしそうに俺を見てくる彼女を前に、俺は酷く興奮した。


 ごめんなさい神様……もしかしたら俺は変態かもしれません。




「よし、分かった! 小さい方ならイケる!」

「イケる? な、何が?」

「アリアさん、落ち着てきいてくれ」




 俺は困惑するお姫様に向かって、この窮地を乗り切る神の一手を提示した。




「俺がアリアさんの便器になるから、そこにロイヤルストレートフラッシュを注ぎこんでくれ!」

「いや何言ってるんですか!? 出来ませんよ、そんな事!?」




 瞬間、何故かアリアさんが烈火の如く怒り始めた。




「大丈夫だ、俺の心配はしなくていい。アリアさんのなら、俺はまるで夜明けのコーヒーのように飲み切れる自信がある!」

「いや誰もタマちゃんさんの心配なんかしていませんよ!? 嫌です、絶対に嫌です!」

「安心してくれ。俺の居た世界では、男は義務教育として女子便器になるトレーニングを積んで――」

「なんと言われようと嫌なモノは嫌です!」




 かたくなに首を縦に振ろうとしないアリアさん。


 そんな事をしている間にも尿意はすぐそこまで迫っているように、アリアさんは「くわっ!?」と小さく悲鳴をあげながら身体を小刻みに痙攣させ始めた。




「もう好き嫌いしている場合じゃない! はやく俺に跨るんだ! ハリーアップ!」

「絶対に嫌!」

「あの~? 珠子、1つ思ったんだけどねぇ~?」




 俺とアリアさんが極限のやり取りをしていると、横でプカプカ浮かんでいた猥褻物の珠子が生意気にも口を挟んできた。


 なんだオマエ、まだ居たのか?


 今は空飛ぶ猥褻物に構ってやる余裕はないんだ。


 引っ込んでろ!


 と俺が口を開くよりもはたく、珠子は近くの茂みを見つめながら、




「我慢できないのなら、そこの茂みでピャッ! とやっちゃえばいいんじゃないの~ん?」

「「あっ」」




 盲点だった。


 気がつくとアリアさんは茂みに向かって全力疾走し、


 ――グイッ!




「あぅっ!?」

「ダメだよ、アリアさん?【使い魔契約】を忘れたの?」




 そう今の俺達は【使い魔契約】のせいで半径1メートル以上離れることが出来ないのだ。


 つまり、アリアさんが野ションをする条件はただ1つ。




「俺も一緒に行くよ」

「そんなの嫌ぁぁぁぁぁぁっ!?」




 俺はその日、姫様の本気の叫び声を聞いた。




「来ないでください、お願いします!」

「俺も嫌われたもんだ……」




 ドMじゃないのが悔やまれる所だ。




「別に何もしないって」

「お、音とか聞かれるのが嫌なんです!」

「おいおい? まるで女の子みたいな事を言うな、アリアさんは?」

「女の子です! そもそも、本来なら王族にセクハラは不敬罪にあたり死刑なんですよ!? こんな状況でなかったらタマちゃんさんはもう軽く5回は死んでますからね!?」




 ギャイギャイッ! と発情期のお猿さんのように犬歯を剥き出しにして怒鳴るアリアさん。


 お姫様がしていい顔じゃなかった。




「というかぁ~? そんなに気になるなら、勇者たまに『目隠し』と『耳栓』でもして貰えばいいんじゃないのぉ~?」

「「あっ」」




 珠子の言葉にアリアさんと見つめ合う。


 さっきからこの空飛ぶ猥褻物は変態の盲点を突いてきやがる。


 クソっ!?


 おまえ、どっちの味方だよ!?


 俺は空飛ぶ猥褻物に「余計な事は言うな!」と釘を刺す。


 ――よりも速く、アリアちゃんが「暗闇魔法!」と唱えた。




「ダークッ!」

「うわっ!? 目の前が真っ暗に!?」

「からの拘束魔法ワッパ・ワッパ!」

「うげぇ!? ひ、光の縄が手足に絡みついて動けねぇ!?」

「そしてトドメに創生魔法ロー・クリエイティブ!」




 ポンッ! というコミカルな音と共に、


 ――ズボッ!


 と片方の鼻の中に詰め物を詰め込まれた。




「うがっ!? あ、アリアさん!? 一体なにを!?」

「ごめんなさい。タマちゃんさんを信じていないワケではないのですが、念のため……そう念のためです!」

「別に覗くつもりなんて1ミリもないって! というか、やるにしても珠子の言う通り『目隠し』と『耳栓』でよくない!?『鼻栓』はいらなくない!?」

「念のため、念のため!」




 ――ズボッ!


 とうとう両方の鼻の穴に詰め物を詰め込まれる。




「酷いよ、アリアさん! 俺がアリアさんのロイヤルストレートフラッシュを五感全体で楽しむ変態クソ野郎だとでも言いたいのかい!? 言いがかりだ!」

「どの口が……ワタクシの便器になりたいと言っていたクセに」




 アリアさんのゴミムシを見るような冷たい声音が、俺の肌を叩く。


 惚れられてしまったかもしれない。




「ではタマちゃんさん。ワタクシの要件が終わるまで、そこで大人しく待っていてくださいね?」




 そう言って問答無用で動けない俺の耳に詰め物を突っ込む彼女。


 これで正真正銘、完全に全ての五感を奪われた。


 チクショウッ!?


 俺が何をしたって言うんだ!?


 結局俺はアリアさんが戻ってくるまでの間、祠の前で寝転がされ続けるのであった。

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