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第12話 お隣の帝国が侵略しにくるって本当ですか?(本当です!)

「アリアさん……次からはもっと優しく飛んでください……」

「その……ごめんなさい」

「ポコち~ん?」




 ロイヤルおティムティム族のマッポに乗って移動すること30分。


 ゴールデンボールの球子が居る祠の前で、俺は乗り物酔いのせいでダウンしていた。


 いやぁ、運転荒すぎでしょ姫様?


 おかげで三途の向こう側でまだ生きているハズの我が友、風間次郎が『バイバーイ!』と手を振っている姿が見えたよ。……見送られてるんだよなぁ、ソレ。




「だ、大丈夫ですかタマちゃんさん?」

「ちょっと今は大丈だいじょばないです……」

「ポコポコちんちーん?」




 オロオロ!? と心配そうに俺の周りをクルクル周るアリアさんとマッポ。


 その仕草は小動物チックで可愛らしかったけど……ときめく余裕が今は無かった。




「お、俺はちょっとここで休憩しているので、アリアさんは先にセンチメンタル・ボール……珠子に会いに行ってください」

「いえ、会いに行きたくても今のワタクシは【使い魔契約】のせいでタマちゃんさんと1メートル以上は離れられないので……」

「そうでした。すみません……」




 そもそもソレをどうにかするためここにやって来たんだろうが。


 ダメだ、気持ちが悪すぎて頭が働いてない……。


 もう横になりたい……。




「とにかくまずはタマちゃんさんの回復が先です。マッポちゃん、お手数ですが沢のお水を汲んできて貰えますか?」

「ポンポコちーん!」




 了解だぜ、姉御! と言わんばかりに勇ましくいななくと、ロイヤルおティムティムは森の中へと消えて行った。


 それと同時に祠から頭の悪そうな音楽が流れはじめる。




「??? なんでしょうか、この音は?」

「やーとお邪魔虫が居なくなったわね♪ とぅお!」

「キャッ!?」




 アリアさんの可愛い悲鳴に合わせて、金色に輝く球、略してキ●タマが勢いよく祠から飛び出て来る。


 俺はこのハイテンションなゴールデンボールを知っている。


 この世の全てを見通す水晶にして、この祠の主。


 その名も――




「珠子がキターッ♪ みんなお股セックス!」

「こ、金色水晶様!?」

「やっぱ俺、コイツのこと大好きかもしれない」




 この世における最底辺の1発ギャグをブチかましながら、空飛ぶ猥褻物は俺達の周りをビュンビュンッ! と飛び回り始める。


 まったく、元気なタマタマである。


 ますます俺の玉座に相応しいタマタマだ。




「そろそろ来る頃だとは思っていたわよ~ん♪」

「お、落ち着いてください金色水晶様! そんなに動かれては会話がしづらいです!」

「やっぱお前、俺の半身にならない? 今なら玉座は空いているぞ?」

「勇者たまのスカウトうれぴ~♪ でも球子はみんなのアイドルだから、いくら勇者たまの頼みでもソレはムリ~♪ ごみ~ん♪」

「と、とにかくっ! 落ち着いてください!」




 バシッ! とハエのように飛び回る猥褻物を両手でキャッチするアリアさん。


 意外とお転婆である。可愛い。


 元気玉の球子は「あ~ん、捕まちゃった♪」と甘い声を漏らす。


 その様子にアリアさんのコメカミに怒りのマークが浮かび上がった気がした。


 もしかしたら彼女はこういう軽薄なタマタマが大っ嫌いなのかもしれない。




「ごほんっ! ……金色水晶様? 先ほど我々が来るのを『分かっていた』と申しておりましたが、何故分かったのですか?」

「もぉ~っ! 珠子って呼んでぇ~♪ お姫ちゃん♪」

「いえ、この国の秘宝であるアナタ様を呼び捨てにするワケにはいきません」

「んも~っ! 頭もお股も固い子ねぇ~♪ そんなんじゃモテないわよ~ん?」

「…………」




 明らかにイラッ♪ とした笑みを溢すアリアさん。


 アカン、アカン!?


 お姫様がしていい笑顔じゃないよ、アレ!?


 そのまま珠子を相手のゴールにシュートせんばかりに壁に叩きつけようとするアリアさんから、何とか珠子を回収する。


 あっぶねぇ~!?




「勇者たま、ありがとぅ~♪」

「お礼の前に、何で俺達がココに来ることが分かったんだよ? ……って、そうか」

「そう、珠子は全てを見通す金色水晶よ~ん♪ アナタ達がなんでココにやって来たか位、全部お・み・と・お・し♪ 珠子ビーム!」

「ひゃっ!?」




 珠子ビームを見るのは初めてだったのか、アリアさんが可愛らしく悲鳴をあげ、珠子を手放した。


 抱きしめてやろうかと思った。




「お姫ちゃんの【使い魔契約】を破棄する方法は、ネオ・ジパングにあるわよ~ん♪」

「ネオ・ジパング?」

「極東にある小さな島国のことです」




 南東の方角を目からビームで貫きながら、珠子はさらに口を開いた。




「さらに驚きのサプラ~イス♪ なんと勇者たまの片玉もこのネオ・ジパングにあるわよ~ん♪」

「マジでか!?」

「マージカルマジカ♪」




 相変わらず軽いノリでとんでもない情報を吐き出す猥褻物。


 おまえ、そういう事は昨日の内に言っておきなさい!


 なんとも融通の利かないゴールデンボールである。




「しかも、お姫ちゃんの【使い魔契約】の破棄方法と勇者たまの片玉にはかなり密接な関係があるっぽ~い♪」

「密接な関係?」

「それはなんですか、金色水晶様?」

「珠子そこまでは分かんない~い♪」

「…………」




 アリアさんの口元からヒクヒクッ!? と卑猥に痙攣し始める。


 どうやら心底ムカついたらしい。


 う~ん! この2人、相性悪スギィ~♪




「あっ、ただ気を付けた方がいいよ~?」




 アリアさんが小声で攻撃魔法を詠唱し始めるのと同時に、珠子がちょっとだけ声のトーンを落とした。


 気を付ける?


 何を?




「どうやらお姫ちゃんを狙っている人たちが居るっぽ~い」

「「……はっ?」」




 思わず2人揃って間抜けた声をあげてしまう。




「ワタクシを狙っている人たち……ですか?」

「うん♪ しかもね? どうもその人たち、お姫ちゃんだけじゃなくて勇者たまのタマタマも狙っているぽ~い♪」

「ナニそれ!? 玉緒、初耳なんですけど!?」

「だって初めて言ったんだも~ん♪」




 クルクルと能天気にその場で回り始める珠子。


 ハハッ、はっ倒してぇ~♪




「こ、金色水晶様! その人たちが今どこに居るか分かりますか!?」

「フルチン! あっ、間違えたモチロン♪」

「その間違いは認めない」

「ツッコんでいる場合ではありませんよ、タマちゃんさん」




 どぃどぅ! とアリアさんに優しくいさめられる。


 話しの腰を折って申し訳ない……。


 俺はお口をチャックし『続きをどうぞ?』と視線だけで珠子に促した。




「えっとね~? その人達はねぇ、今、隣国のパリス・パーリ帝国から1万人の兵を引き連れてリバース・ロンドン王国に侵攻してるね♪」

「「……はっ?」」




 なんか珠子がとんでもねぇ事を口にし始めた。




「1万人の兵!?」

「ど、どういう意味ですか金色水晶様!?」

「どういう意味も何も、そのまんまの意味ぃ~♪」




 危機感ゼロの声音で珠子はとんでもない事実を連発していく。




「勇者たまのタマタマを狙っている人達はお姫ちゃんを狙っているけど、パリス・パーリ帝国の人たちはリバース・ロンドン魔法女子学院の生徒たちを狙っているっぽ~い♪」

「生徒たちを!? どうして!?」

「う~ん? これは帝国側でも超極秘事項っぽいらしいんだけど、カエル族の女性はこの世界で唯一魔法が使えるでしょ? ソレをエネルギーにして帝国の地下にある超古代文明の遺産を蘇らせようとしているっぽいよぉ~♪」




 呑気にそんな事を言う珠子。


 おまえはもっと危機感を持て!


 なんだよ、超古代文明の遺産って!?


 ここではリントの言葉で喋ってくれ! クウガァァァァッ!


 いや、今はそんな事を言っている場合ではない!




「ど、どうすんのアリアさん!? 戦争!? もしかして戦争が始まっちゃうの!?」

「お、落ち着てくださいタマちゃんさん! だ、大丈夫です! このリバース・ロンドン王国には先王が『神の国』へ旅立つ前に張った魔法障壁があります。外の国の人間が入って来られない強力な障壁です!」

「あっ♪ その障壁ねぇ、もう破られてるよ~ん♪」




 もはや言葉が出なかった。




「なん、で……? あの結界はカエル族の【王家に連なる者】以外には解けないハズなのに……」

「さぁ? 向こう側にカエル族の王様でも居たんじゃな~い?」




 ショックで固まるアリアさんに、能天気にもそう応える珠子。


 おまえ、全てを見通すクセに何だその曖昧な答えは!?


 色々と言いたいことは山ほどあるが、それよりもまずは状況の把握が先だ。




「おい、珠子! そのパーリーピーポー帝国とやらが学院を襲うまで、あと何日ある?」

「パリス・パーリ帝国よ~ん♪ えっとねぇ……ざっとあと3日ってところかしら~ん♪」

「3日か……」




 思ったより時間があるな。


 逃げるにしろ、応戦するにしろ、1度学院に戻って全員と相談した方がいい。




「戻ろう、アリアさん。学院に」

「…………」

「アリアさん? ……アリアさん!」

「ッ!? あ、は、はいっ!」




 呆然としていたアリスさんの身体をゆっさゆっさ揺する。


 途端に『ハッ!?』とした彼女が慌てて首を縦に振った。


 ショックなのは分かるが、今は思考を止めている場合じゃない。




「気持ちは分かるけど、今は行動しよう。とりあえずマッポが帰ってきたら、急いで学院に戻って皆と相談しよう」

「そうですね。いや、そうなんですけど……そのぅ」

「??? どうしたの」




 何故か頬を赤らめながらモジモジと内股で膝を擦り合わせるアリアさん。


 その濡れた瞳は妙に扇情的で……えっ?


 なんか、エロくない?


 どういう事なの?




「ぱ、パリス・パーリ帝国の件は確かに急ぎ学院に伝えなければならない詳細なのですけども……そのぅ、それよりもまずやらなければいけないと言いますか? 火急の用事が出来たと言いますか……」

「火急の用事?」




 これ以上に重大な用事が他にあるのだろうか?


 そう彼女に詰め寄ろうとする俺よりも早く、アリアさんはそのプルプルの唇を震わせた。




「あの……実はワタクシ、お手洗いの方がもう限界で……ッ!?」

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