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第11話 これは空飛ぶ猥褻物ですか?(違います)

 再びあの空飛ぶ猥褻物こと金色水晶の球子と会うべくアリアさんの部屋を後にした俺達は、彼女のペットと対面するべく学院の中庭へと移動していた。


 王族のロイヤルペット、きっと【ドラゴン】や【ワイバーン】、もしくは【ユニコーン】と言ったさぞ気品あふれる生き物に違いない!




「ご紹介します。ワタクシのペットで空飛ぶ魔法生物【おティムティム】のマッポちゃんです!」

「ポコちんちーん!」

「……そう思っていた時期が俺にもありました」




 俺の目の前、そこには卑猥な名前に卑猥な泣き声をした純白のデッカイ毛虫のような生物がプカプカ♪ とお空を飛んでいた。


 ……ナニコレ?




「あの……アリアさん? コイツは?」

「ですからワタクシのペットで空飛ぶ魔法生物【おティムティム】のマッポちゃんです」

「ポコちんちーん!」




 神から最初に与えられたプレゼントが悪意だったとしか思えない名前の空飛ぶ毛虫が、クルクルとアリアさんの周りを飛び回る。


 大きさは大体2メートル強と言ったところだろうか?


 その、すごく……大きいです……。




「マッポちゃんは【おティムティム】の中でもロイヤルおティムティム族に属します」

「ロイヤルおティムティム族……」

「はい。他のおティムティムはせいぜい30センチから1メートル程度の大きさですが、マッポちゃん達ロイヤルおティムティム族はその倍の2メートルほど身体が大きいんです!」

「へぇ~、デカチンなんだね?」

「デカチっ!? そ、そのような卑猥な言葉を女性の前で口にしないでください! 非常識ですよ!?」




 おティムティムを連呼する女に常識を疑われるのは酷く心外だったが、アリアさんの機嫌を損ねるのもアレだったので素直に頭を下げた。




「ごめんなさい。悪気はなかったんです、おティムティムさん」

「アリアです。次に同じ間違いをしたらその舌、引っこ抜いちゃいますよ?」




 上品に笑っているが、目はマジだった。


 今日のお姫さま怖スギィッ!?




「説明はここまでにして祠へ行きましょう。さぁ、マッポちゃんに……おティムティムに乗ってください!」

「騎乗位かな?」




 意気揚々とおティムティムにまたがるお姫様。


 字面にすると犯罪臭がハンパじゃなかった。


 ちょっ、大丈夫コレ?


 モザイクかけなくても平気?




「怖がらなくても大丈夫ですよ、タマちゃんさん。マッポちゃんは気性の激しいロイヤルおティムティム族の中でも大人しいメスのおティムティムですから」

「メスのおティムティムとは一体……?」




 とんでもねぇパワーワードがアリアさんの唇からまろび出る。


 なんか俺、今はじめて『あぁ、異世界に居るんだなぁ……』って実感しているよ。




「それじゃその……失礼します」




 俺はふわふわの毛並みにしがみつきながら、アリアさんと同じくおティムティムに跨った。


 ……なんかもう、文字にするのも嫌です……。


 俺が男の子として大切な『ナニか』を喪失している気分に浸っていると、俺の初めてを奪ったおティムティムが「ポコちんちーん!」と元気に声をあげた。




「どうやらマッポちゃんがタマちゃんさんの事を気に入ったみたいです」

「そうなの? ありがとう」




 でもおティムティムに好かれたところで……という言葉を寸前の所で飲み込みながら、俺は無理やり笑みを顔に張りつけ、マッポちゃんを優しく撫でた。


 途端にマッポちゃんは嬉しそうに「ポコちーん♪」と戦慄わなないた。




「おぉ~っ! おティムティムの扱いが上手ですね、タマちゃんさん?」

「まぁ男の子ですから」




 この世における最底辺の会話をり広げながらおティムティム、もといマッポちゃんを撫で続ける。


 マッポちゃんは身体をビクビクさせながら気持ちよさそうに「ポコち~ん♪」と声を震わせた。


 ……俺は今、一体ナニをしているのだろうか?




「ポコポコちんちーんっ!」

「ありがとうございます、タマちゃんさん。マッポちゃん『気合十分、いつでもイケるぜ!』と言っております」

「そう? まぁ喜んでくれたのなら良かった」

「では、おティムティムの手綱たづなを握ってください」

「おティムティムの手綱とは一体?」




 手●キかな? とまろびでそうになった台詞を慌てて噛み砕く。


 そもそも男はその手綱を握れなくて不祥事を起こすのに、そんな簡単に言われても?


 と思いつつ『ハッ!?』と気がつく。


 あぁ、これおティムティムじゃなくておティムティム(虫)の話か。




「タマちゃんさん?」

「あぁいや、何でもないよ。では失礼して」




 テキトーにおティムティム改めマッポの肉を掴む。


 むにゅっ♪ と何とも言えない弾力が指先に伝わる。


 これで良かったのだろうか?


 なんて思っていると、急にマッポが「ぽこぽこちーん!?」と声を荒げた。




「えっ? えっ!? な、なになに!?」

「マッポちゃんが『そこは違う!』と。『そこは我々のチン……』と言っています」

「えっ、チン!? 背中にチン!? なんでチン!?」

「『まったく、とんだしゃかりきボーイだ』とマッポちゃんは言っております」




 ポコちーん! と何かを訴えるように卑猥に泣くマッポ。


 コイツ、メスなのに何で背中にチン……異世界の生き物は男女関係なくアレが生えているのか!?


 困惑しつつも別の所を握るが、それでもマッポは卑猥に鳴き続ける。


 なにコイツ?


 どこ握っても鳴くんだけど?


 全身おティムティムなの?


 性感帯なの?




「仕方ありませんね。タマちゃんさんはワタクシの腰にしがみついてくださいまし」

「えっ、いいの!?」




「はい」と小さく頷くアリアさん。


 こ、これはとんでもねぇ事になってきやがった!




「そ、それではお言葉に甘えて」




 俺は震える指先を必死に動かして、後ろからアリアさんのロイヤルボディーに抱き着いた。


 瞬間、むにゅんっ♪ と指先に幸せな感触と共に百合の花のような良い匂いが肺を蹂躙じゅうりんした。


 うわっ、腰ほっそ!?


 身体やわらかっ!?


 めっちゃイイ匂いする!?


 全身から伝わる彼女の情報が煮えたぎったマグマのごとく浮かんでは消えていく。


 い、イカン!?


 このままでは俺はこの場で重大な性犯罪を起こしてしまう!?


 半ば本能的にそう理解した俺は、膨れ上がる下心を押さえつけるように慌ててアリアさんに声をかけた。




「じゅ、準備が出来ました! タマオ・キンジョーいつでもイケます!」

「…………」

「アリアさん?」




 さぁ、出発してください!


 俺の理性が残っている内に!


 と彼女に発破をかけるのだが、何故かピタリと停止したまま動かないアリアさん。


 よく見ると、彼女の首筋から耳が真っ赤に染まっていて……んん~?




「アリアさん? おーい? 聞こえてますかぁ~? アリアさーんっ!」

「はっ!?」




 突然お股に仕込んだローターをONにされた女子高生のように身体をビクンッ!? とさせるアリアさん。


 アリアさんは何故か俺より慌てた様子でワタワタッ!? しながら、上ずった声音で口を開いた。




「ど、どうかしましたか!?」

「いえ、準備が出来たのでいつでもイケるとお伝えしたかったのですが……大丈夫ですか?」

「大丈夫!? なにが!?」

「いえ、急にフリーズしたので何事かと思ったのですが……」

「べ、べべ、べべべべべっ!? 別に背中に伝わる男性の感触にドギマギしていたとか、腰に伝わる力強さにエロスを感じたとか、そんな事はありませんからね!?」

「は、はぁ……?」




 まるで親にエロ本がバレた時の男子中学生のような言い訳を口にし始めるアリアさん。


 正直ナニを言っているのか1ミリも分からなかったが、凄く慌てていることだけは理解できた。




「そ、そんな事よりも行きますよ!? しっかり捕まってください!」

「了解!」

「~~~~ッ!?」




 本人の許可を得たので、全力でアリアさんの腰にしがみつくナイスガイ俺。


 刹那、ビックーン!? と再び身体を硬直させるお姫様。




「あの、アリアさん?」

「い、行きまひゅ!?」




 瞬間、物凄い勢いでマッポが空へと飛びあがった。

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