「――知らない天井だ……」
目を覚ますと、見知らぬ天井が俺の視界いっぱいに広がった。
某ファーストチルドレンのような事を素で言えてテンションが跳ね上がる。
が、そんな俺の気持ちに水を差すように、女性の戸惑った声音が耳朶を叩いた。
「あっ! お、起きましたか、タマちゃんさん?」
「……アリアさん?」
「は、はい。あ、アリア・ウエストウッドです」
何故か頬をポッ! と赤く染めながら、俺と目を合わせようとせず明後日の方向へ視線を向けるアリアさん。
どうしたのだろうか?
俺はゆっくり起き上がり、自分が上質なベッドの上で横になっている事に気が付いた。
「ベッド? というか、ココどこ? リリアナちゃんの部屋じゃないよね?」
「ここは学園長室の隣にある、ワタクシの部屋ですわ」
「アリアさんの部屋?」
なんで俺はアリアさんの部屋に居るんだ?
意味が分からず頭の上に「???」を浮かべていると、アリアさんは恥ずかしそうに声を上ずらせながら、
「あ、アヤメにはワタクシの方から強く叱っておきましたから、もう2度とあんな危ない事はしないでしょう」
「危ないこと?」
「その……アレです。ワタクシとタマちゃんさんが、き……キス……する原因になったアレです」
ボっ! と顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声でそう呟くアリアさん。
瞬間、俺の脳裏に昨夜の湖での出来事がフラッシュバックした。
そ、そうだ!
確か俺はアリアさんと【使い魔契約】を破棄しようとして、あのオカッパ変態メガネに邪魔されたんだ!
その拍子にうっかりアリアさんの唇に吸いついてしまああああぁぁぁぁぁっ!?
「誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁっ!!」
気がつくと俺はベッドの上で土下座していた。
「い、言い訳に聞こえるかもしれませんがワザとじゃないんです! 本当なんです! 信じてください!?」
「だ、大丈夫です。アレが事故である事はワタクシも分かっております故」
アリアさんは俺と目を会わせることなく、ペタペタと自分の髪を触りながら、
「た、ただ殿方とその……キス……したのは生まれて初めてだったので、その……ちょっと混乱してしまいましたが、別に気にしておりませんから!」
そう言って一向に俺と目を合わせようとしないアリアさん。
いや、絶対に気にしてるでしょソレ?
気にしているリアクションですよね、ソレ!?
い、イカン!?
このままでは彼女の中にある知的でクールなナイスガイとしてのキンジョー・タマオのイメージが日経平均株価の如く大暴落してしまう!?
「あ、アリアさん違うんです!? 俺はね――」
「ぐっもーにんぐ、タマちゃ~ん!」
バンッ! と部屋の扉をぶち壊さんばかりの勢いで、陽気な金髪巨乳娘が部屋の中へと入ってきた。
俺は彼女を知っている。
マイペースで自由気ままで、肝心なところでは役に立たない、このリバース・ロンドン王国第二王女の――
「リリアナちゃん!? あれ!? 何で俺から離れられるの!?」
「何でって、あれ? 何でだろう?」
はて? と首を捻るお気楽娘をその場に残し、俺はベッドから跳ね起き、部屋に備え付けられた姿見の方へと駆け出した。
鏡に映る俺はいつもと同じでカッコイイが、1つだけ違う点があった。
そう首の周りの……
「……使い魔の
首輪のように俺を
あの変態メガネの乱入のせいで一時はどうなるかと思ったが、どうやら【使い魔契約】の破棄は大成功だったらしい。
すごいや、アリアさん!
やっぱりアリアさんを信じて良かった!
「スゲー爽やかな気分だぜ。新しいパンツを履いたばかりの正月元旦の朝のようによぉ!」
「タマちゃん、正月ってナニ?」
「あの、タマちゃんさん? 実はその件に関してお伝えしなければならない事が……」
コテン? と首を傾げるリリアナちゃんと、何故かオロオロし始めるアリアさん。
そんな2人を横目に、俺は勝ち取った自由に酔いしれていた。
「フハハハハッ! 自由だ、俺は自由だ! 英語で言えばガ●ダム、フリーダムだ!」
「よく分からないけど良かったね、タマちゃん!」
「あの、タマちゃんさん? ですからその件に関してお伝えしなければいけない事が――」
「よしっ! ちょっくら意味もなく学院の周りを爆走してくる!」
「あっ、ちょっと待って!?」
アリアさんが俺を止めようとするが、もう遅い!
俺は解き放たれた弓矢のごとく、アリアさんの部屋を飛びだ――
「ぷぎゃっ!?」
「うわっ!? お、お姉ちゃん、大丈夫!?」
――部屋を飛び出そうとしたが、アリアさんから1メートルほど離れた瞬間、何故か背後に引っ張られるような感触が俺を襲った。
リリアナちゃんの時ほどの強制力は感じないが、この感覚には覚えがあった。
これは【使い魔契約】の……?
「えっ、どういうこと? って、大丈夫アリアさん!?」
「うぅ……痛ぃ……」
謎の違和感に振り返ると、何故か前のめりで倒れている銀髪美少女の姿が目に入った。
俺は涙目で鼻先を抑えるアリアさんの下へ、飛ぶように移動し……気がつく。
アリアさんの首回りに見慣れた
それは俺がリリアナちゃんの使い魔になった時とまったく同じ呪文ルーンで……えっ?
「タマちゃんさん……急に走らないでください。今のワタクシはアナタと1メートル以上離れられないのですから」
「そ、それって……?」
まさか!? といった表情を浮かべる俺に、アリアさんは『その通りです』とばかりに小さく頷いた。
「実は昨晩の【使い魔契約】の破棄を行う際、アヤメが強引に割り込んで来たせいで、契約破棄が出来ませんでした。その代わり……そのぅ」
「その代わり……なんです?」
嫌な予感をビンビンに感じつつ話しを促すと、アリアさんは至極言いづらそうに口をモゴモゴさせ、
「き、キスしたせいで魔法が誤作動を起こしたみたいで……タマちゃんさんの使い魔契約の
「つ、つまり?」
「つ、つまりですね? ワタクシ、タマちゃんさんの使い魔になってしまったんです」