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第6話 信じて送り出した妹がパーティー編成して帰ってきた件について

 空飛ぶ猥褻物、もとい球子の居る祠から下山して4時間。


 あたりはすっかり茜色に染まった夕方時。


 俺とリリアナちゃんは――




「リリアナAで~す♪」

「リリアナBだよぉ!」

「リリアナCだぜ!」

「リリアナDどすぅ」

「――そんなワケで分身が消えないから個性をつけてみました!」

「信じて送り出した妹がパーティー編成して帰って来た件について……」




 学園長室に戻って事の詳細をアリアさんに説明していた。


 アリアさんは実にDHAが豊富そうな死んだ魚のような目で分裂したリリアナちゃんを見る。


 やがて感情が読み取れない満面の笑みを浮かべて、




「あの、どういう事か説明していただけないでしょうか?」




 顔は笑っているが、その瞳は一切笑っておらず、ヤッベ!?


 オコだよ!?


 アリアさん激オコだよ!?


 謝ろうにもナニに怒っているのか分からないから、どう謝ればいいか分からないよぉ!? ふぇ~んっ!?




「そう怒らないでよオネェ!」

「これはこれで楽しいよ!」

「そうだぜ姉貴! タマ公も悪気があったワケじゃねぇんだし」

「許してやるのも女の度量どすぇ」

「多い! 妹多い!? 誰!? 誰がリリアナでリリアナが誰なの!? というか男の子みたいな声がするリリアナが居るんだけど!? 我が妹ながら多芸すぎない!? 本物のリリアナはどこ!?」

「我こそは『本物のリリアナである!』と自信のある人は手を挙げて!」


「はぁ~い♪」「はいはいはーい!」「オレ、オレ! オレが本物のリリアナだぜ!」「それじゃ手を挙げさせていただきましょうかねぇ」


「一斉に喋らない!」




 流石のアリアさんも笑顔という仮面が剥がれ落ち始めたので、俺は出来る限り事ここに至った経緯を分かり易く第一王女さまに説明した。




「――というワケで、俺の1日1回しか使えない魔法でリリアナちゃんは分裂しました。ちなみに金色水晶の球子曰く、明日の朝までには分身体は消えるらしいです。説明おわり!」

「……なるほど。大体の事情は分かりました。……がっ! ウチの妹、ノリが軽すぎませんか?」

「いやぁ、凄いよリリアナちゃんは! 魔法は空っきりだけど、ノリと頭の軽さなら俺の居た世界でも天下一品だよ!」

「「「「いやぁ、それほどでもぉ~♪」」」」

「リリアナ? 一応言っておきますが、バカにされてますからね?」

「「「「なんだとぉ~っ!?」」」」




 クワッ! とリリアナちゃん達が目を見開いて詰め寄ってきた。




「酷いよタマっち!」「酷いよタマちゃん!?」「ひでぇぜタマ公!?」「タマさんはお酷い人ですわ」


「分からない、分からない。一斉に喋るな、お前ら?」

「自分で増やしておいて、なんて身勝手な……」




 どこか責めるような視線をアリアさんから感じる。


 惚れられたかもしれない。




「まぁ時間が経てば元に戻るというのであれば、今は放置しておきましょう。それよりもタマちゃんさんです」

「んっ、俺?」

「タマちゃんさん、魔法が使えたんですね? 驚きです……」

「いやぁ、俺も今日初めて知ったよ!」

「ワタクシ、カエル族とヘビ族以外で魔法が使える人を始めて見ました」

「カエル族? ヘビ族?」




 なにそれ? と俺が首を傾げると、分身していたリリアナちゃん達が一斉に口を開いた。




「カエル族とヘビ族はね、この世界で唯一魔法が使える種族なのよ~ん♪」「ヘビ族は好戦的で怖いって文献に書いてあったよ!」「ヘビ族は12年前に絶滅したぜ!」「お腹減ったどすなぁ……」


「待て待て? 一斉に喋るな、分からん」




 俺は聖徳太子じゃねぇんだよ。


 あれれ~? と呆けた声をあげるリリアナちゃん達に代わって、アリアさんは指先をパチンッ! と鳴らした。


 その瞬間、彼女の手元に分厚い革の本が姿を現した。すげぇ!




「昔々あるところに、水と緑を愛するカエル族と呼ばれる種族が居ました。ある日、心優しきカエル族に神様は魔法の力を授けました」




 それ以来カエル族は王族を中心に神様から与えられた力で、代々この世界の自然の平和を守ってきました。




「しかし、ソレをよく思わない男が居たのです」

「よく思わない男?」

「はい。その男……先王の弟は好戦的で高圧的な、恐ろしい野心を持ったカエル族でした」




 そう言ってアリアさんは本の続きを読み始めた。




「男は魔法の力に溺れ、この世界の全てを手に入れようと12年前カエル族の若い男たちを率いて世界に戦争を仕掛けました」




 やがて男は【魔王】と呼ばれ、自分達をヘビ族と呼称し、多くの国々を魔法の力で支配していきました。


 ヘビ族はその巨大すぎる魔法の力で森を破壊し、人々を虐殺し、水を汚しました。




「ソレを見かねた当時国王だった我が父、ガマエル・ウエストウッドは【魔王】を討伐するべく残ったカエル族の男たちを率いてヘビ族に戦いを挑みました」




 そして無事【魔王】を討伐することに成功したカエル族の男達は、神様にその功績が認められ『神の国』へと旅立ったのでした――




「――おしまい。ざっくり簡略化させていただきましたが、これがヘビ族とカエル族の始まりです」

「なるほどなぁ。何でこの国に男が居ないのか、ようやく腑に落ちたわ」




 おそらくカエル族の男たちは【魔王】を討伐した事と引き換えに、全員死んでしまったのだろう。


 しかしソレだとあまりにも風体が悪いので『神の国』へと旅立ったことにして、真実を闇の中へ葬ったに違いない。


 なんとも胸糞の悪いお話である。




「でも男が居ないという事は……」

「……お察しの通り、この国にはもう未来はありません」




 そう言ってアリアさんは苦い笑みを浮かべた。


 そりゃそうだ、男が居なければ子供は生まれない。


 子供が生まれなければ、国はやせ細る。


 つまり、どうあがいても十数年後にはこの国は滅亡してしまうのだ。




「なになに? どういうこと~ん?」

「なんでこの国に未来はないの?」

「姉貴が居るんだし、大丈夫だろ?」

「ぶぶ漬けが食べたいどすぇ」




 4人のリリアナちゃんたちが『意味がわからない』と眉根を寄せる。


 まぁ子供の作り方を知らない彼女には、ちょっと難しい話だったかな。


 ごめんね?




「まぁ、これも運命です。国とは本来、繁栄と滅亡を繰り返して大きくなるもの。今さらどうこう出来る問題でもありませんし、タマちゃんさんは気にしないでください」

「いや、無理でしょ? 気にするでしょ、コレ?」

「ですよね?」




 アリアさんは困った笑みを浮かべながら、小さく肩を竦めてみせた。




「お疲れでしょうから、今日はこの辺りで解散しましょうか?」




 そう言って気丈に微笑むアリアさんの横顔は、なんだか少し物寂しそうだった。

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