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第3話 何故タマオ・キンジョーは眠れないのか?

 俺がリバース・ロンドンと呼ばれる異世界に飛ばされた初めての夜。


 窓から降り注ぐ優しい月光の光だけが部屋の中を満たしていくなか、俺、タマオ・キンジョーは――




「……眠れねぇ」




 夢の世界に出航できず、四苦八苦していた。




「ダメだ。どんなに頑張っても眠れねぇ」




 理由は分かっている。


 俺の横で気持ち良さそうにスヤスヤ♪ 眠っている彼女リリアナちゃんだ。


 金色がかったブロンドの髪が月明りに照らされて、まるで一枚の絵画のような美しさだったが、それよりも何よりも俺の二の腕に押し当てられている巨乳が柔らかすぎて、気になって眠れない!




「クソっ! なんだこの柔らかさは!? マシュマロか!? ありがとう!」

 二の腕に全神経を集中させた影響か、脳細胞がフルスロットルで活発化していくのが分かる。




 チクショウ、なんだ彼女のお胸は?


 生物兵器か?


 すっごいワンダフルだよ!




「……今ならオッパイを揉んでもバレないかな?」




 そこまで言って、俺はハッ!? とした。


 い、今俺は何をしようとした!?


 寝ている女性にイタズラするだなんて、そんなの犯罪だぞ!?


 恥を知れ!


 俺が軟弱な自分自身にかつ! を入れていると、頭に角を生やした小さな俺が突然姿を現した。




『気にすんなって! オッパイ揉んでも笑って許してくれそうだし、やっちまいな!』




 むっ、キサマは俺悪魔。


 まったく、なんて悪魔らしい甘言を吐き散らすのだろうか。


 だが舐めるなよ?


 俺の正義の心は悪魔なんかに負けはしない!




 ……。


 ………………。


 ………………………………。


 ………………………………………………………………。




「あれ!? 天使は!? 俺の中の天使はどこへ行ったの!?」




 一向に姿を現さない俺天使。


 ちょっ、やめろよ!?


 これじゃ俺が悪の心しか持ってないナチュラルクソ野郎みたいじゃないか!


 出て来て、天使!


 はやく出て来て!?




「んん~……っ?」

「ッ!?」




 突然となりから艶めかしい声が俺の耳朶を震わせた。


 見ると寝間着の上からでもハッキリと分かるリリアナちゃんの爆乳が、俺を誘うようにたゆん♪ と揺れた。


 …………ふむ?




「この熟睡具合から察するに、彼女のブラジャーの奥に隠されていると言われている乳首という名の埋蔵金を探しに寝間着を剥ぎ取っても絶対に起きな――くそぅっ! 俺の中の悪魔め!? なんて恐ろしいことを口にするんだ!」

『えっ!? オレなにも言ってない……』




 何故か被害者のような表情で困惑した様子を見せる俺悪魔。


 それどころか『流石にソレはやりすぎだってぇ~』と俺を制止し始める始末だ。


 えぇい、なに日和ひよったことを言ってんだ!?


 ここまできたらイケるところまでイクのが男だろうが!




「タマオ、いっきまぁぁぁぁす!」




 俺は何ら躊躇ためらうことなくリリアナちゃんのオッパイに指先を沈め――




「ぐすん……お姉ちゃん……はやく帰ってきて……」

「…………」




 ――ようとして、目尻から涙を零して静かに泣いている彼女が視界に収まった。




「行かないで……? 寂しいよ……お姉ちゃん……」




 おそらく寝言なのだろう。


 リリアナちゃんはグスグスと鼻を鳴らしながら、迷子の子どものように身体を震わせて泣いていた。




「……やっぱやめた」




 俺はリリアナさんのデカパイに向かっていた指先を方向転換させ、彼女の頭へと持って行った。


 俺のやろうとしている事に、意味なんか無いのかもしれない。


 それでも、この子が少しでも安心して眠れるように。


 ほんの少しでもいいから、幸せな夢に浸れるように。


 そんな小さな願いをこめて、俺は眠っている彼女に囁くように声を溢した。




「大丈夫だよリリアナ。お姉ちゃんはココに居るから」

「ほ、ほんとに? ずっと一緒に居てくれる? ボクを1人にしない……?」

「もちろん。可愛い妹を1人になんかさせないわ。ずっと、ずぅぅぅぅっっっと! 一緒に居るわよ」

「お母さんは?」

「えっ? お、お母さん? お、お母さんはねぇ、え~と……」




 なんて要望の多い女の子なんだ。


 まぁいい、乗りかかった船だ。


 全力でお母さんを遂行してやんよ!


 どけ、俺はお母さんだぞ!




「お母さんだよぉ~(裏声)。すぐ傍に居るよぉ~(裏声)」




 自分でやっておいてアレだが……こんなオフクロは嫌だ。


 というかオフクロじゃないもんコレ。


 二丁目あたりでチョメチョメしてる人の声だもん。


 さすがに1人2役は無理があったか!? とリリアナちゃんの顔色を窺うが……どうやらアレでよろしかったらしく、彼女は目に見えて表情を緩めながら「お母さんだぁ……」と嬉しそうに呟いた。


 えっ? ほんとにアレでいいの、ママン?


 ウエストウッドさん家のご家庭事情が凄く気になる所だ。




「考えたら沼にハマりそうだし、もう寝ちゃお」




 ウエストウッド家の深淵に触れそうで怖かったので、俺は溢れ出る恐怖心を胸の底に無理やり押し込めて目を瞑った。




「おにゃすみ~♪」




 明日もきっといい日になりますように、と月に願いながら。

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