一時間後。
山田ナゴムと雲ヶ畑糸緒莉は、そろって警察署にやって来ていた。
一室に入り、テーブルを挟んで警官に向かい並んで座る、あやかしの男女ふたり。
「......えーと、今回は〔人命救助の為の緊急避難的妖力行使〕ということで例外あつかいとなります。
警察としても、改めて感謝申し上げます。
が、警察行政としての注意義務もあるので一応。
街中での妖術・妖力の使用は原則禁じられていますので、以後お気をつけください。
まあ、あなたたちは社会人だし、そのへんよくわかっていると思いますが。
じゃあ、あとはその書類だけ書いておいてください」
一連の手続きを終え、警察署を出たふたりは、互いに前を向いたまま横並びに立ち止まる。
気マズイ、というより、なんとも言えないヘンな空気がふたりの間に流れる。
「あの」
「あの」
会話を切りだす声がかぶる。
仕切り直して...
「あの、糸緒莉さん」
「なに?」
「糸緒莉さんって、妖だったんだね」
「山田くんのほうこそ」
「てゆーかさ......」
「?」
「だったら最初っから、プロフに〔あやかし〕って書いておいてくれよ〜!」
「はっ、はぁ?なんで??」
「俺は、妖同士ではなく、フツーにヒトの女性と付き合いたかったんだぁー!」
「それを言うならあなたのほうこそプロフに書いておきなさいよ!私だって妖同士の色恋沙汰は絶対にゴメンよ!」
「そもそも俺はあやかしの色んなことがイヤでメンドクサくて東京に来て就職したんだ!」
「それは私だって一緒よ!あやかしってホントにメンドクサイのよ!」
「だからあらかじめプロフに書いていてくれれば〔いいね〕も送らなかったのに〜!」
「イヤよ!そんなこと書くの!私だってあなたが書いていてくれれば...」
「俺がプロフに書く?それは絶対にありえない!なぜなら...」
「??」
「天狗はモテない!」
「はあ??」
「天狗がカッコイイのはアニメや漫画の世界だけで、実際の天狗はぶっちゃけキモい!」
「えっ」
「だってあの姿だぜ?マジでなんも知らない子どもが見たら泣くから!なんでも某ランキングサイトでは、実際見たらガッカリあやかしランキングの一位が天狗だったからね!」
「そ、それは気の毒ね」
「飛べるのがカッコイイ?アホか!街中で飛んでたら警察に捕まるわ!それに飛ぶのって実際はケッコー疲れるし!そもそも人型で飛ぶこと自体、物理的にムリがあるんだ!」
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ!」
「......おまけに、実家の神社は地元じゃ有名なんだけどさ。有名って言っても、昔からあるってだけでそれはもう...ボロッボロの神社なんだよ!だから地元ではみんな、俺がボロ神社の天狗の息子って知っているんだ!それがもうイヤでイヤで......!」
山田ナゴムは、溜まっていたモノを吐き出すようにベラベラとカッコ悪くグチった。
今日はじめて会ったばかりの女性に向かってそんな言葉を吐くなど、通常の彼ではありえない。
だが、糸緒莉もおなじ妖だったのと、事故現場に居合わせて妖の力を使った後だったのもあろう。
よくわからないテンションで彼はまくし立てたのだった。
「ハァ、ハァ、ハァ......」
「ちょっとだいじょうぶ?」
「......でも、糸緒莉さんはなんで?女郎蜘蛛ってカッコイイ気もするけど......て、聞いていいのかな?」
「わ、私は......」
「?」
「私の地元は......けっこう荒れていたの。今どきめずらしいぐらいに」
「うん」
「ある時、友達がワルい連中に絡まれてしまってね。私がその子を助けようとして、その......やっつけちゃったの」
「その不良を?糸緒莉さんが?」
「あ、あくまで友達を助けるためよ!?」
「う、うん」
「でも、その不良っていうのが、地元でも有名な不良グループのメンバーだったの。それで、私が彼らから狙われるようになっちゃって、それで......」
「それで?」
「つぶしちゃったの」
「えっ??」
「だから潰しちゃったの!不良グループごと!返り討ちにしてやったの!女郎蜘蛛の力を使って!私が!」
「そ、そうなんだ」
「あ、あくまで正当防衛だからね!もちろん加減もしたし!」
「加減して、潰しちゃったんだ......」
「え?なに?」
「な、なんでもないっす。あ〜、その〜、ええっと......」
「な、なによ!?」
「糸緒莉さんって...元レディース?」
「ちがう!私はそうじゃない!でも、そのせいで地元じゃ有名になっちゃって、ついた異名が......」
「異名?」
「
「!」
「だからもう地元にはいたくなかったの!も〜こんなこと言いたくなかったのにぃ!山田くんのバカ!」
「お、俺のせい!?」
こうしてふたりのデートは、警察署の前で終了した。
今後のふたりの恋の行方がどうなるのかは、まだ誰にもわからない。