慶穀祭の準備はあっというまであった。
毎年開催されているため、準備は効率よく進んだ。リーヴ男爵領に住む芸術家や、村人も集団で麦を使った成人男性より一回り大きい巨大なアート作品。動物をモチーフにしているものから、巨大なフルーツなど。
芸術家の人は麦を使った人型のリアルな人形など、その自信作を発表するため、奮闘した。
運営にかかわる者たちも、奮闘を続け、どうにか祭りに間に合った。大変であったが、誰も嫌な顔せず、むしろ活気だっていた。
もちろんシュバインも運営会長という立場もあり、公務の傍ら手伝った。
「皆、いつもご苦労様。今日という日を皆と迎えることができてうれしく思う。これもみんなの頑張りのおかげだ。最近は我が領の人口増加の傾向にある。それは、皆、僕に快く力を貸してくれた。こんな情けない僕を支えてくれているからだ。僕はみんなを領主として誇りに思っているーー」
「おい!いつまで話してんだよ領主様!」
「毎年話長いんだよ!日が暮れちまうよ!早く乾杯の音頭してくれ!」
「そうだそうだ。こっちは腹減って仕方ないんだよ!」
リーヴ男爵領の中央の村に全領民が集まる。ワインを片手に壇上で挨拶をしていたシュバインだったが、話し始めて間もないのにヤジが飛ぶ。
「いやいや、祭りに向けて考えてきたんだから、最後まで言わせてよ!」
「長い!そんなの関係ない!」
「そうだそうだ!」
これもリーヴ男爵領だから見ることのできる光景。
シュバインと民とのやり取りに会場は笑い声が響く。こうなっては仕方がない。シュバインは小さくため息をした。そのまま右手に持っていたワイングラスを掲げる。
「かんぱーい!」
シュバインのたった一言で慶穀祭は始まった。
イベントはつつがなく進んだ。空は雲一つない快晴。会場にはたくさんの料理が並べられている。ビゥッフェ形式である。ひたすらごちそうを食す者、同年代で集まりお酒を飲む集団。一人で黙々とお酒を飲む者。三者三葉で自由に皆は過ごしていた
慶穀祭が始まってしばらく経つと、催しものが順に始まった。
まずは、芸術から。これは慶穀祭が始まる前から展示されていた。
村人の投票と特別審査員による評価で決まる。
シュバインも特別審査員として参加をした。あとは、それぞれの村長が務めた。シュバインはイザベルと共に祭りを楽しむ。
「麦でこのような作品ができるなんて……考えもしませんでしたわ。素敵ですわ」
イザベルは作品を一目で見惚れていた。それほどハイレベルなのだ。彼女の足取りは軽く、作品一つ一つ細部まですべて見ていた。
シュバインははしゃぐイザベルの姿に満足していたのだった。
ただ、イザベルに視線を送りすぎたせいで。
「領主様!しっかりしてけろ!」
「ご、ごめん」
審査員の仕事をおろそかにしてしまい、怒られてしまったのだった。
「皆さん、パワフルですわね!服越しでもいかに筋肉が大きいのか伝わってきますわ!」
「この日に向けて、鍛錬している者もいるからね。……去年より一回り大きくなってるよ」
続いて二人が見ているのは麦ロール競争だった。
横3メートル、縦2メートルの巨大な麦ロールをいかに早く転がすかを勝負する。
大きな麦ロールを押して10メートル先のゴールテープを切る種目だ。
2人一組で行い、一番早いタイムでゴールした選手が優勝という、シンプルな内容。
質は、他領からも力自慢が参加している。口コミで広がり、今では参加人数は16組、32人の参加者がいる。
「えと……その。み、みなさん体つきがすごいですわね」
「この大会のために鍛えている人もいるからね……顔赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫ですわ」
種目が始まり、上着を脱ぎ、上半身半裸で筋肉をアピールする猛者たち。
イザベルは目を背けながらもチラチラと競技を見ていた。ウブな反応にシュバインは苦笑い。
でも、その反応も可愛いなと思うのであった。
そんな一幕があったが、こちらもつつがなく進み、無事終了したのだった。
大会も大詰め。大量の料理も出来上がり、いよいよ大食い大会が始まろうとしていた。
大会参加者はイザベル含め11人。
リーヴ男爵領の大食い自慢たちから、他領の人も参加する。
イザベルが参加することは事前に知らされていたため、一目見ようと他の大会に比べ最も多くいた。
「……頑張って」
「はい」
いつもより真剣身をおびているイザベルに一言声援を送った。
さあ、いざ出陣。そう言わんばかりに気合いの入ったイザベルは壇上は向かった。