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ぼくと結婚してください

「ごめん。仕事が長引いちゃって・・・・・・」

 ぼくは今日こそ恋人の小百合さゆりにプロポーズをしようと意気込んでいたのだが・・・・・・。予約したレストランに到着したのは、なんと約束の2時間も後だった。

「ひどい。何時間まっていたと思うのよ!」

 泣き出す小百合をなだめようと、ぼくはポケットから慌あわてて指輪を取り出そうとした。それがいけなかった。

 勢い余って、テーブルの上のシャンパンの瓶を盛大に倒してしまったのだ。彼女はびしょ濡れになったドレスのまま席を立った。

「もう帰る!」

 そう言うと小百合は店を出ていってしまった。

「ちょ、ちょっと待って・・・・・・」

 ぼくはひとりむなしくテーブルに並べられた料理を眺めた。周りのお客の視線が痛かったのは言うまでもない。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 翌日ぼくは気を取り直して彼女の家に電話をかけた。

「はい涼宮すずみやです」

 彼女の声だった。

「ぼく・・・・・・健児けんじ

「ああ・・・・・・」

「昨日は本当にごめん」

「あの・・・・・・」

「わかってる。いいんだ、ぼくが全部悪かったんだから。だから機嫌を直して欲しいんだ」

「機嫌直してって言われても・・・・・・」

「実は言い出せなかったことがあるんだ」

「なあに?」

「ぼくと、その、結婚してください!」

「・・・・・・本気なの?」

「もちろんさ!こんなぼくでよければきみを生涯愛し続けて行きたいんだ」

「ありがとう・・・・・・って言っていいのかしら」

「ぼくのプロポーズ、受けてくれるんだね」

「突然だったから・・・・・・」

「それじゃあこれからきみに会いに行ってもいいかな」

「・・・・・・おまかせするわ」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ぼくは玄関のチャイムを鳴らした。小百合がドアを開けてくれた。

「健児。どういうつもり」

「どうって、なにか問題でも?」

「お母さんすっかりその気になっちゃってるわよ」

「え、なんだって?」

 小百合の肩越しに、シングルマザーの母親が、ほんのり頬を染めて立っている。ぼくは知らなかった・・・・・・。

「わたしも信じられなかったわよ。まさか実の娘がライバルになるなんてねえ」

 なんと小百合と母親の声が瓜二つだったなんて・・・・・・。

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